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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題26 伝聞法則(4)

事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕
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【参考答案】

第1 設問(1)について

1 本件乙の手帳は、320条1項の「公判期日外における他の者の供述を内容とする書面」に形式的に該当する。そこで320条1項により排除される証拠に該当しないか。320条1項の意義が問題となる。
 なお、弁護人は証拠とすることに不同意の意見を述べているため、326条1項によっては証拠とできない。

 2(1) 供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述を経て公判廷に顕出されるところ、これらの各過程には誤りが混入しやすい。それゆえ、反対尋問等により、そのような誤りがないかを吟味する必要がある。ところが、公判廷外供述を内容とする供述や書面は、そのような吟味をすることができない。そこで、誤判防止のためにそのような証拠を排除するのが320条1項の趣旨である。
 したがって、320条1項により証拠能力が否定される証拠とは、公判廷外供述を内容とする供述又は書面であって、その内容の真実性が問題となるものをいうと解する。そして、真実性が問題となるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられる。

  (2)ア 本件手帳には、①乙自身の供述過程である手帳への記載(以下「乙供述」という。)と、②乙の供述に含まれる甲の供述過程(以下「甲供述」という。)という、2つの供述過程が存在する。そこで、各供述過程毎に要証事実を確定し、伝聞証拠該当性を検討する。

   イ 乙による知覚・記憶の対象は、「甲が『XがVを包丁で刺し殺すのを目撃した』と発言したこと」、すなわち甲の発言の存在自体である。したがって、乙供述における要証事実は、「甲が乙に対してその旨の発言をした事実」となる。
 この要証事実との関係では、甲がそのような発言したことを乙が正確に知覚・記憶し、手帳に表現・叙述したかが問題となるため、乙供述内容の真実性が問題となる。
 そして、乙供述は公判期日外における書面であって、反対尋問等による吟味をすることができない。
 よって、乙供述は、公判期日外の供述を内容とする書面であって、その内容の真実性が問題となるものに該当し、伝聞証拠に当たる。

   ウ 検察官の立証趣旨は「甲との会話の状況」とされている。仮に、甲供述の存在自体と立証趣旨通りに解した場合、甲供述は、その内容の真実性が問題とならないため非伝聞となる。
 しかし、被告人Xは犯人性を否認しており、甲がXの犯行を目撃したかどうかが争点となっているのであるから、甲供述の存在自体を立証しても証拠としておよそ無意味である。本件において甲供述は、XがVを殺害したことの立証に用いてこそ意味がある。
 したがって、立証趣旨をそのまま前提にするとおよそ証拠として無意味になる例外的な場合に当たるから、甲供述部分における要証事実は、「XがVを殺害した状況」と解すべきである。
 そして、この要証事実との関係では、XがVを殺害する場面を甲が正確に知覚・記憶し、乙に対して正確に表現・叙述したかが問題となるから、甲の供述の内容の真実性が問題となる。そして、甲の供述は公判廷外供述であって、反対尋問等による吟味をすることができない。
 よって、甲の供述も、公判廷外供述であって、その内容の真実性が問題となるものに該当し、伝聞証拠に当たる。

   エ 以上より、乙の供述過程および甲の供述過程は、いずれも要証事実との関係で内容の真実性が問題となる。したがって、本件乙の手帳は、伝聞を内容とする伝聞、すなわち再伝聞証拠に当たる。

 3(1) 再伝聞証拠については、刑事訴訟法上、直接の規定がない。しかし、再伝聞証拠も真実発見の要請(1条)から証拠として用いる必要がある場合がある。また、320条1項が321条以下の伝聞例外規定を満たす伝聞証拠を「公判期日における供述に代えて」証拠とすることができると定めているから、伝聞例外規定に該当する公判廷外供述は「公判準備又は公判期日における供述」(324条)と同視できる。
 そこで、伝聞例外が認められた証拠に含まれる伝聞部分は、「供述をその内容とするもの」に準じるとして、324条の類推適用により、各伝聞例外の要件を充足すれば、証拠能力を肯定することができると解する。
 なお、再伝聞における原供述については、公判期日における供述と同様に扱う以上、原供述者の署名・押印は物理的に観念できないため不要であると解する。 

  (2) 乙の手帳は、乙自身が作成した書面であるため、321条1項3号の要件を充足する必要がある。
 まず、乙は交通事故で死亡しているため、同号の「供述不能」を充たす。
 次に、被告人Xは犯行を否認しており、かつ原供述者である甲は行方不明となって公判廷で証言できない状況にある。そのため、XによるV殺害事実を立証するための代替証拠が存在せず、乙の手帳は「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものといえ、不可欠性の要件を充たす。
 さらに、本件書面は乙の個人的な手帳であるところ、手帳は通常、自己の記憶の喚起等のために作成されるものであり、他人に閲覧させることを予定するものではない。そのため、乙が「甲がそのような発言をした」という事実について、あえて捏造や虚偽の記載をする理由や動機はなく、見聞きした事実をありのままに記載するものとして客観的に虚偽介入の余地が乏しいといえる。したがって、「特に信用すべき情況の下にされた」ものといえ、絶対的特信情況の要件も充たす。
 以上より、乙供述について321条1項3号の要件を充足する。

  (3) 乙供述に321条1項3号の要件充足性が認められる結果、乙の手帳は公判期日における乙の供述と同視される。そして、そこに含まれる原供述者・甲は「被告人以外の者」であるため、同人の供述には324条2項類推適用により、321条1項3号が準用され、同号の要件を充足する必要がある。
 まず、甲は現在行方不明であるため、同号の「供述不能」の要件を充たす。
 次に、不可欠性についてみるに、被告人Xは犯行を否認しており、甲の供述以外にXの犯人性を立証する有力な証拠が存在しない。そして、甲が公判廷で証言できない現状において、甲の供述はXの犯人性を立証するための代替手段のない極めて重要な証拠といえる。したがって、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものとして不可欠性の要件を充たす。
 また、甲はXの親友でありながら、XがVを殺害する場面を目撃して悩み、乙に真剣に相談を持ちかけている。親友であるXに不利となる虚偽の事実をあえてでっち上げて相談する動機や理由は経験則上考え難く、供述がなされた状況から虚偽が介入する余地は乏しい。したがって、「特に信用すべき情況の下にされた」ものといえ、絶対的特信情況の要件も充たす。
 以上より、甲供述についても321条1項3号の要件を充足する。

4 よって、①・②双方の伝聞過程について伝聞例外の要件を満たすため、本件乙の手帳は証拠能力が認められ、証拠とすることができる。

第2 設問(2)について

1 本件甲の供述調書は、公判期日外の甲の供述を録取した書面であり、320条1項の「公判期日外における他の者の供述を内容とする書面」に形式的に該当する。
 なお、弁護人は証拠とすることに不同意の意見を述べているため、326条1項によっては証拠とできない。

 2(1) 320条1項により証拠能力が否定される伝聞証拠の意義および判断基準は、第1-2(1)と同様である。

  (2)ア 本件甲の供述調書には、(ⅰ)甲の供述を録取する過程(以下「甲の供述」という。)と、(ⅱ)甲の供述に含まれるXの供述過程(以下「Xの供述」という。)の2つの供述過程が存在する。そこで、各供述過程毎に要証事実を確定し、伝聞証拠該当性を検討する。

   イ 甲の知覚・記憶の対象は、「Xが甲に対してV殺害を告白したこと」である。したがって、甲の供述部分の要証事実は、「Xが甲に対してV殺害を告白した事実」である。
 この要証事実との関係では、甲がXの発言を正確に知覚・記憶し、検察官に対して正確に表現・叙述したかが問題となるから、甲の供述内容の真実性が問題となる。そして、甲の供述は公判廷外供述であり、反対尋問等による吟味をすることができない。
 よって、甲の供述部分は伝聞証拠に該当する。

   ウ Xの供述について、Xの発言の存在自体を要証事実とした場合、Xの供述内容の真実性は問題とならず非伝聞となる。
 しかし、被告人Xは犯行を否認しており、本件の争点はXの犯人性である。したがって、甲の供述によってXの告白の存在が証明されたとしても、その告白の存在自体を立証することはおよそ無意味であり、Xの供述は、その内容どおり「XがVを殺害した事実」の立証に用いてこそ初めて意味を持つ。よって、Xの供述部分の実質的な要証事実は「XがVを殺害した事実」となる。
 この要証事実との関係では、XがVを殺害した事実を正確に知覚・記憶し、甲に対して正確に表現・叙述したかが問題となるから、Xの供述内容の真実性が問題となる。
 そして、Xの供述も公判廷外供述であり、反対尋問等による吟味をすることができないから、Xの供述部分も伝聞証拠に該当する。

   エ 以上より、甲の供述過程およびXの供述過程は、いずれも要証事実との関係で内容の真実性が問題となる。したがって、本件甲の供述調書は、伝聞を内容とする伝聞、すなわち再伝聞証拠に該当する。

 3(1) 再伝聞証拠の許容性と適用条文の決定基準は、第1-3(1)と同様である。

  (2) 本件書面は、被告人以外の者である甲の供述を録取した検察官面前調書であるため、321条1項2号の要件を充足する必要がある。
 まず、甲は現在行方不明となっており、公判期日において供述することができないため、同号前段の「供述不能」の要件を充たす。
 そして、2号前段の場合、比較する他の供述がないため2号後段の相対的特信情況を求めることはできず、絶対的特信情況を要求することも均衡を欠く。したがって、2号前段では、文言通り、特信情況は不要である。
 そこで、原供述者の署名・押印があれば、321条1項2号前段の要件を充足する。

  (3) 甲の供述が321条1項2号前段の要件を充足する場合、本件調書は公判期日における甲の供述と同視される。そして、そこに含まれる原供述者は被告人X自身であるため、324条1項類推適用により、322条1項が準用され、その要件を充足する必要がある。
 まず、本件調書に記録されているXの供述は、「X自身がVを殺害した」という自己の犯罪事実を認める内容であり、Xにとって「不利益な事実の承認」を内容とする供述に当たる。
 次に、任意性についてみるに、Xは親友である甲に対して自発的に犯行を告白しているのであるから、自白の任意性を疑わせるような事情は一切存在しないといえる。したがって、任意にされた供述であると認められる。
 なお、Xの供述は、再伝聞における原供述である以上、Xの署名・押印は物理的に観念できないため不要である。
 以上より、Xの供述の伝聞過程についても、324条1項類推適用により準用される322条1項の要件をすべて充たす。

4 よって、(ⅰ)・(ⅱ)双方の伝聞過程について伝聞例外の要件を満たすため、本件甲の供述調書は証拠能力が認められ、裁判所はこれを証拠として採用することができる。

以上

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