【参考答案】
第1 設問(1)について
1 被告人は、本件土地の売却行為は先行する抵当権設定行為の不可罰的事後行為であると主張する。しかし、判例によれば、先行する抵当権設定行為により横領罪が成立する場合においても、後行の売却行為について横領罪の成立自体は妨げられず、両行為は実体法上、包括一罪の関係に立つ。
そうすると、検察官は、実体法上一罪を構成する犯罪事実の一部のみを起訴したことになる。このような一部起訴は、犯罪事実の一部のみを審判対象とする点で実体的真実発見(刑事訴訟法(以下法令名省略)1条)に反するとも思われることから、一罪の一部起訴が許されるかが問題となる。
2 刑事訴訟法は、当事者主義及び訴因制度(256条3項、312条1項)を採用し、裁判所の審判対象となる訴因を設定する権限を検察官に委ねている。また、検察官には、起訴便宜主義に基づく広範な訴追裁量が認められている(248条)。
したがって、検察官は、事案の軽重、立証の難易等の諸般の事情を考慮し、実体法上一罪を構成する事実の一部のみを訴因として公訴を提起することも、合理的な訴追裁量の範囲内で許されると解する。
3 本件において、被告人は、Vから権利証及び実印を預かって管理していたV所有の土地について、無断で抵当権を設定し、登記を了している。そして、その後に同土地を1億円で売却して所有権移転登記を了している。
先行する抵当権設定行為が土地の交換価値を侵害するものであるのに対し、後行する売却行為は、土地の所有権を終局的に第三者へ移転させるものである。そのため、後行行為は、先行行為よりもVの所有権に対する侵害の程度が大きく、犯罪として重大である。
したがって、検察官が、先行する抵当権設定行為ではなく、より重大な売却行為を捉えて横領罪として起訴したことには合理的な理由がある。
よって、本件の一部起訴は、検察官の合理的な訴追裁量の範囲内にあり、許される。
第2 設問(2)について
1 被告人は、先行する抵当権設定行為により横領罪が成立する以上、後行する売却行為は不可罰的事後行為であると主張している。しかし、前述のとおり、先行する抵当権設定行為について横領罪が成立しても、後行する売却行為についての横領罪の成立自体は妨げられない。
そこで、両行為が包括一罪の関係にあるとしても、後行する売却行為のみが訴因として起訴された本件において、裁判所が、訴因外の抵当権設定行為の有無について審理判断すべきかが問題となる。
2 訴因制度の下、裁判所の審判対象は、原則として検察官が設定した訴因によって画定される。したがって、適法な一部起訴がされた場合、裁判所は、原則として起訴された事実のみを審判対象とすべきである。
もっとも、訴因外の事実であっても、それが訴因に係る犯罪の成立を妨げる事情である場合には、当該犯罪の成否を判断するため、その限度で審理する必要があると解される。
3 第1のとおり、検察官が後行する売却行為のみを訴因として公訴を提起したことは、合理的な訴追裁量の範囲内にあり、適法である。
そして、被告人が先行する抵当権設定行為を行い、これについて横領罪が成立するとしても、後行する売却行為について横領罪が成立することは妨げられない。すなわち、抵当権設定行為の存在は、訴因とされた売却行為についての横領罪の成立を妨げる事情ではない。したがって、裁判所が売却行為についての横領罪の成否を判断するために、先行する抵当権設定行為の有無や、同設定行為について横領罪が成立するかを審理判断する必要はない。
また、これを審理の対象とすると、被告人が売却行為について無罪判決を得るために、自らが訴因外の抵当権設定行為について横領罪を犯したことを主張・立証し、これに対して検察官が、同横領罪が成立しないことを主張・立証するという不自然な訴訟活動を当事者双方に強いることになる。これは、検察官が設定した訴因によって審判対象を画定する訴因制度の趣旨に沿わない。
よって、裁判所は、訴因とされた後行の売却行為についてのみ横領罪の成否を審理判断すべきであり、これに先立つ抵当権設定行為があったかどうかについて審理判断すべきではない。
以上

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