【参考答案】
1(1) 覚醒剤および検察官に対する自白の証拠能力が認められるか。その前提として、警察官Kの不起訴約束を契機とするXの自白(以下「第1自白」という。)は、「任意にされたものでない疑のある自白」(刑事訴訟法(以下法令名省略)319条1項)にとして証拠能力が否定されるか。
(2) 319条1項が規定する類型の自白の証拠能力が否定される趣旨は、類型的に虚偽が含まれる蓋然性が高いため、これを排除して事実認定の正確性を担保する点にある。
そこで、「任意にされたものでない疑のある自白」とは、他者の外部的誘因によって供述者が心理的影響を受け、類型的に虚偽の自白を誘発する可能性が高い状況でなされた自白をいうと解する。
(3) Kに不起訴の決定権限はないが、「うまく検事に話して確実に不起訴にしてやる」との言動は、Xに検察官への影響力を信じさせ、不起訴という絶対的な利益による強い心理的影響を生じさせている。このような状況下では、真犯人でなくとも事実を認める蓋然性が極めて高い。したがって、第1自白は虚偽自白を誘発する可能性が高い状況でなされたといえ、319条1項により証拠能力が否定される。
2(1) では、第1自白後の検察官Pに対する自白(以下「第2自白」という。)を証拠とすることができるか。
(2) 第1自白が不任意自白である場合、第2自白の時点においても、第1自白の不任意性をもたらした影響力が残存している限り、反復自白の任意性も否定されると解する。
他方で、当初の取調べ方法の影響を遮断し、その後の適法な取調べによって自白がなされたのであれば、因果関係が切断され、任意性のある自白を得ることができる場合がある。
そこで、影響残存の有無により、反復自白の任意性が認められるか否かを判断する。
かかる影響残存の判断にあたっては、①第1自白採取の態様、②それぞれの取調べの主体や目的の異同、③取調べの時間的間隔及び場所的同一性、④第2自白の際の取調官の言動、⑤弁護人との接見の有無等の諸般の事情を考慮して判断する。
(3) 本件において、第2自白は第1自白の採取者である警察官Kではなく、検察官Pによってなされており、取調べの主体は異なっている。
しかし、第1自白においてKがXに提示した不起訴という利益は、前科・前歴のないXにとって身柄釈放を伴う最大の利益であり、これによる心理的強制は極めて強固なものであった。また、Xは逮捕・勾留による継続した身柄拘束下にあり、第1自白から第2自白までの間に、Xの自白すれば不起訴になるという誤信を解くような特段の事情はうかがわれない。
このような強い心理的影響を遮断するためには、取調官が交替しただけでは不十分であり、検察官Pが単に一般的な黙秘権の告知を行うにとどまらず、警察官による不起訴の約束には効力がない旨を明確に告げてXの誤解を解くなどの積極的な遮断措置をとるべきであった。しかし、本件において検察官Pがそのような措置を講じた事情はうかがえない。
そうすると、Xは依然として、自白すれば不起訴にしてもらえると信じたまま、第1自白の不任意性をもたらした強い心理的強制が継続した状態でPに対して第2自白したと認められる。
(4) したがって、第1自白による心理的影響は遮断されておらず残存しているため、第2自白も「任意にされたものでない疑のある自白」に当たる。
よって、319条1項により証拠能力が否定され、裁判所は第2自白を証拠とすることができない。
3(1) 次に、B方で差し押さえられた覚醒剤を証拠とすることができるか。
前述の通り、自白法則(319条1項)の趣旨は虚偽排除にあるところ、覚醒剤という客観的証拠自体には虚偽が混入する余地がない。そのため、自白法則の観点からは、第1自白が不任意であっても当該覚醒剤の証拠能力を直ちに排除することはできない。
そこで、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されないかが問題となる。
(2) 人権保障、司法の廉潔性維持および将来の違法捜査抑制の見地から、違法収集証拠を排除する必要がある。
他方、証拠価値は不変であり、軽微な違法に留まる場合にまで証拠を排除すると、実体的真実発見(1条)を害する。
そこで、①証拠収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、かつ②違法捜査抑制の見地から当該証拠を排除することが相当である場合には、証拠能力が否定されると解する。
そして、違法収集証拠から派生して得られた第二次証拠についても、第一次手続の違法の程度、両者の関連性の程度等を総合考慮し、同法則により証拠能力が否定され得ると解する。
(3) 本件において、第二次証拠である覚醒剤の証拠能力が否定されるためには、前提として、第一次手続である警察官Kによる取調べに重大な違法性が認められる必要がある。
確かに、警察官Kが起訴・不起訴の決定権限を有しないにもかかわらず、Xに対して不起訴約束して自白を引き出した行為は、虚偽の自白を誘発するおそれのある不適切な取調べである。
しかし、このような利益供与の約束は、供述するか否かの動機に影響を与えるにとどまり、供述することの意思決定の自由そのものを直接制約・侵害するものではない。また、Kの行為に暴行・脅迫などの物理的強制は一切伴っていない。したがって、自白法則により任意性が否定されることは別として、かかる取調べを直ちに「違法」な手続とまで評価することは困難である。
そうすると、第一次手続に違法性が認められない以上、本件覚醒剤は違法な手続から派生して収集された証拠には当たらず、違法収集証拠排除法則を適用することはできない。
(4) よって、本件覚醒剤の証拠能力は否定されず、裁判所はこれを証拠とすることができる。
以上

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