第1部(第1問〜第13問)の参考答案掲載が完了しました。
第1部において主要な論点が網羅されており、学習上の区切りとして適切と判断し、司法試験対策にリソースを集中させるため、第2部更新を一時休止いたします。更新の再開は、司法試験終了後を予定しております。
何卒ご理解いただけますと幸いです。 2026.5.5
【参考答案】
第1 設問1-1について
1 本件不認可処分は、砂利採取法(以下「法」という)16条に基づく認可の申請に対する拒否処分である。したがって、本来ならば甲県を被告として本件不認可処分の取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)を提起した上で、認可処分の申請満足型義務付け訴訟を併合提起すべきである(行訴法3条6項2号、37条の3第3項2号)。
しかし、法16条の規定による処分については、公害等調整委員会への裁定申請が認められており(法40条1項)、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(以下「調整法」という。)50条により、訴えは裁定に対してのみ提起できるとする裁決主義が採られている。そのため、本件不認可処分自体の取消訴訟を直接提起することはできない。
2 そこで、Aは、まず公害等調整委員会に対して、本件不認可処分を取り消す旨の裁定を申請すべきである(法40条1項)。なお、仮に当該申請に対して棄却裁定が下された場合には、調整法50条に基づき棄却裁定の取消訴訟を提起した上で、認容裁定の申請満足型義務付け訴訟を併合提起すべきである(行訴法3条6項2号、37条の3第7項)。
第2 設問1-2について
1(1) 第1に、本件不認可処分は、審査基準を不合理に適用した結果としてなされたものであり、裁量権の逸脱濫用に当たり違法であると主張することが考えられる。
(2) 裁量の有無及び範囲は、処分の根拠法令の文言、処分の内容および性質を総合考慮して判断される。そして、裁量が認められる場合であっても、裁量権の逸脱濫用がある場合には、当該処分は違法となる(行訴法30条)。
そして、審査基準が策定・公表され、それに従って処分がなされている場合には、平等原則・信頼保護の観点から、合理的な審査基準を合理的に適用せずになされた処分は、裁量権の逸脱濫用に当たると解する。
(3)ア 根拠法である法19条は、「他人に危害を及ぼし」、「公共の福祉に反する」といった抽象的な要件を定めており、行政の専門的・技術的な判断が求められることから、要件認定について甲県知事に要件裁量が認められる。
他方、甲県が定めた本件審査基準は法令でなく、また法令の委任に基づくものでもないから、行政規則に過ぎず、直接に国民や裁判所を拘束する法規ではない。
しかし、裁量権行使の公平性や予見可能性を確保するために基準を設けることは、法の趣旨にかなうものである。そこで、本件審査基準の内容をみるに、「周辺の井戸水等の利用に悪影響を与えないこと」は、地下水汚染による健康被害等の防止を目的としており、法19条の「他人に危害を及ぼし」等の要件を具体化したものとして合理的な要件裁量基準であると認められる。
イ 甲県は、Aの計画した砂利採取が、本件審査基準である「周辺の井戸水の利用に悪影響を与えないこと」を充たしているとはいえないと判断し、本件不認可処分を行っている。
しかし、Aは専門業者Bに依頼して埋戻し用残土のサンプル分析を行っており、その結果、有害物質が環境基準をいずれも下回っているという客観的な調査結果を提出している。また、Aには過去に違反行為等の経歴がなく、提出されたもの以外の不適切な残土が混入される具体的な危険をうかがわせる事情も存在しない。そうであれば、客観的・科学的な知見に基づけば、Aの採取計画は本件審査基準を充足していると解するのが相当である。
これに対し、甲県が「調査されたもの以外の建設残土が混入する可能性が全くないとはいえない」という科学的根拠のない抽象的な可能性や、「地域住民の不安」という法19条の要件とは直接無関係な住民感情を重視して不認可としたことは、合理的な要件裁量基準である本件審査基準を不合理に適用したものといわざるを得ない。すなわち、甲県知事の判断には、事実の基礎を欠く点、あるいは法19条の趣旨に照らして考慮すべきでない事項を考慮した他事考慮の点において、判断過程に合理性が認められない。
(4) したがって、本件不認可処分は、合理的な裁量基準を合理的に適用せずになされた処分として裁量権の逸脱濫用に当たり、違法である。
2(1) 第2に、本件不認可処分は、行政手続法(以下「行手法」という。)8条1項が定める理由付記の程度を満たしておらず、手続的違法があると主張することが考えられる。
(2)ア 理由付記の制度趣旨は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保し、恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える点にある。
したがって、理由の程度は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規および審査基準を適用して当該処分を行ったかを、相手方がその記載自体から了知し得る程度に具体的に記載されていなければならないと解する。
イ 本件処分の通知書には、法19条と審査基準の文言を抽象的につなぎ合わせた記載があるのみである。つまり、Aが環境基準を満たす客観的な調査結果を提出しているにもかかわらず、それをいかなる事実認定のもとに排斥し、井戸水の利用に悪影響を与えないとはいえないと判断するに至ったのか、具体的な理由や根拠が全く示されていない。
そのため、上記趣旨を満たす程度の十分な理由提示がなされているとはいえず、理由付記手続きに違法がある。
(3)ア もっとも、処分の手続における瑕疵が、処分の取消事由となるか。
法律上、手続規定が設けられている意義は尊重されなければならないが、他方、手続の瑕疵をとらえて処分がやり直されたとしても処分結果に変更が生ずる可能性がない場合等においてまで処分を取り消すと、訴訟経済・行政経済に反するといえる。
したがって、手続的瑕疵は、原則として取消事由にはあたらないが、例外として、当該手続的瑕疵が処分結果に変更可能性をもたらす場合か、重要な手続きに重大な瑕疵がある場合に限り、取消事由となると解する。
イ 理由付記手続(行手法8条1項)は、行政庁の恣意を抑制し慎重な判断を担保するとともに、名宛人に不服申立ての便宜を与えるという行政手続の根幹をなす機能を有するため、重要な手続といえる。
そして、前述の通り、本件不認可処分の理由提示は単なる法令と審査基準の文言の引き写しにすぎず、Aが不服を申し立てるための前提となる具体的な事実関係や根拠が完全に欠如している。これは理由提示の趣旨を没却する重大な瑕疵である。
したがって、本件における理由提示の不備は、重要な手続に重大な瑕疵がある場合に当たり、本件不認可処分の取消事由となる。
第3 設問2-1について
1 処分の取消しを求めるにつき、原告は「法律上の利益」(行訴法9条1項)を訴訟提起時だけでなく終了時まで「有」していなければならず、訴訟係属中に訴えの利益が消滅した場合、訴訟は却下されるのが原則である。そのため、本件認可に係る採取期間が経過した場合、本件認可に基づいて適法に砂利採取を行うことができるという直接的な法的効果は消滅するため、原則として訴えの利益は失われることとなる。
もっとも、「処分……の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお、処分……の取消しによつて回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項括弧書)がある場合には、訴えの利益は存続すると定める。
そこで、「回復すべき法律上の利益」があるかが問題となる。
2 「回復すべき法律上の利益」が存在するかは、法令等の規定・仕組みから、除去されるべき法的効果が残存しているかによって判断する。
3 確かに、本件認可に基づいて砂利採取を行うことができるという法的効果は、採取期間の経過により、消滅している。
しかし、砂利採取法は砂利採取業者を登録制により規制しており、法12条1項5号は「第26条の規定による認可の取消しを受けたとき」を、登録業者の登録取消しや事業停止といった監督処分の要件として定めている。そのため、本件取消処分の効力が存続している限り、Cは過去に認可を取り消されたことを理由として、監督処分を受け得る地位に立たされるという法的効果が残存しているといえる。
したがって、Cには、監督処分制度との関係で残存する法的効果を除去することにより「回復すべき法律上の利益」が認められるから、採取期間徒過後においても本件取消処分を争う訴えの客観的利益が認められる。
第4 設問2-2について
1(1) 第1に、本件取消処分は、裁量権の逸脱濫用(行訴法30条)に当たり違法であると主張することが考えられる。
(2) 裁量の有無及び範囲は、処分の根拠法令の文言、処分の内容および性質を総合考慮して判断される。そして、裁量が認められる場合であっても、比例原則違反等が認められる場合には、裁量権の逸脱濫用として処分は違法となる(行訴法30条)。
(3) 法26条は、認可計画に従っていない等の法21条違反の要件を充足した場合に、認可の取消しだけでなく、6か月以内の採取停止を「命ずることができる」と定めている。このように、法26条は複数の監督処分の中から選択的に処分を行いうることを定めていることから、行政庁に効果裁量が認められる。
本件において、Cは自らが提出した認可計画に定められた4メートルの保安距離を保っておらず、法21条の遵守義務に違反している。また、原状回復を求める行政指導にも従っていない。
しかし、甲県の認可審査基準で求められる2メートルの保安距離自体は確保しており、隣接地の崩壊の危険性はなく、現実に災害が発生した事実もない。さらに、Cには過去に違反行為を行った前歴もなく、悪質性が高いとはいえない。
にもかかわらず、行政目的を達成するためにより制限的でない「6か月以内の採取停止命令」等の代替手段を検討することなく、事業者の権利を奪う最も重い「認可取消処分」を直ちに選択することは、違反行為の程度に比して著しく過酷であり、目的と手段との間で合理的な均衡を失している。
したがって、本件取消処分は比例原則に違反し、効果裁量の逸脱濫用に当たり、違法である。
2(1) 第2に、本件取消処分は、行手法13条1項1号イが定める聴聞手続を経ておらず、手続的違法があると主張することが考えられる。
(2)ア 本件取消処分は、Cという特定の者に対し、直接に義務を課し、又はその権利を制限する「不利益処分」(行手法2条4号)に該当する。そして、許認可等を取り消す不利益処分をする場合には、原則として事前に「聴聞」を実施しなければならない(行手法13条1項1号イ)。
イ 前述の通り、保安距離2メートルが確保されており、現実に災害等は発生していない。原状回復を急ぐ事実上の必要性があったとしても、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため意見陳述手続をとらなくともよい場合(行手法13条2項1号)には該当しない。したがって、甲県知事は聴聞を実施する義務を負っていたにもかかわらず、これを行っていない点に手続違反が認められる。
(3)ア もっとも、処分の手続における瑕疵が処分の取消事由となるか。
法律上、手続規定が設けられている意義は尊重されるべきである一方、手続の瑕疵をとらえて処分をやり直しても結果に変更が生ずる可能性がない場合等にまで取消しを認めることは、訴訟経済・行政経済に反する。
したがって、手続的瑕疵は原則として取消事由にはあたらないが、例外として、当該手続的瑕疵が処分結果に変更可能性をもたらす場合か、重要な手続に重大な瑕疵がある場合に限り、取消事由となると解する。
イ 不利益処分における聴聞手続は、名宛人に対して事前に防御の機会を保障し、適正手続を実現するための重要な手続である。本件のように、事業者の権利を奪う取消処分に際して、緊急の必要性もないのに弁明の機会すら与えず聴聞を完全に欠缺したことは、名宛人の防御権を著しく侵害する重大な瑕疵といわざるを得ない。
よって、本件における聴聞手続の欠缺は重要な手続に重大な瑕疵がある場合に該当し、取消事由となるため、本件取消処分は手続的違法が認められる。
以上


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