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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題14 訴因の特定

事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕
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【参考答案】

1 本件において、裁判所は、検察官の訴因変更請求に応じ、訴因変更を許可すべきか。「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、……訴因」の「変更を許さなければならない」(刑事訴訟法(以下法令名省略)312条1項)と規定されている。
 そこで、いかなる場合に「公訴事実の同一性」が認められるか、その意義が明らかでなく問題となる。

 2(1) 312条1項が公訴事実の同一性を害しない限度で訴因変更を認めたのは、同一事件について改めて別訴を提起させることなく、現在の訴訟手続の中で審判の対象を変更することを認める一方、別個の事件を同一手続内に取り込むことを防止するためである。
 そこで、公訴事実の同一性は、新旧両訴因が実体法上一罪の関係にある場合(単一性)、又は、新旧両訴因の基本的事実関係が共通する場合(狭義の同一性)に認められると解する。
 狭義の同一性については、日時、場所、被告人の関与形態、被害者、行為及び結果等の事実的共通性を第一次的な基準として判断し、これのみでは判断できない場合には、新旧両訴因が両立し得るかを補完的に考慮する。
 

  (2) 本件の旧訴因は、X及びYが、共謀の上、令和元年12月30日ころ、東京都西多摩郡内の山林において、Vの頭部を木刀で数回殴打し、頭蓋底骨折の傷害を負わせ、これに基づく外傷性脳障害によりVを死亡させたという傷害致死罪の事実である。
 これに対し、新訴因は、X及びYが共謀の上、同日ころ、同山林において、Vの頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、外傷性脳障害又は何らかの傷害によりVを死亡させたという傷害致死罪の事実である。
 両訴因の差異は暴行の手段、傷害・死因の具体性にとどまり、犯行日時・場所・被告人・被害者・関与形態・構成要件という主要な事実を共通にしている。
 すなわち、両訴因は、証拠関係の変化に応じて暴行態様等の記載を改めたものにすぎず、基本的事実関係は同一であり、狭義の同一性が認められる。
 したがって、本件訴因変更は「公訴事実の同一性」を害しない範囲内のものといえる。

 3(1) もっとも、本件新訴因は、暴行の方法を「手段不明の暴行」、傷害の内容を「頭蓋底骨折等」、死因を「外傷性脳障害または何らかの傷害」としており、概括的な記載にとどまる。そこで、このような新訴因は、「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定」することを要求する256条3項に照らして、訴因の特定を欠き、訴因変更を許可することができないのではないか。

  (2) 当事者主義の下(256条6項、312条1項等参照)、審判対象は、一方当事者である検察官が主張する具体的事実たる訴因である。
 そして、訴因には、裁判所に対して審判対象を明示する識別機能と、被告人に対して防御の範囲を示す防御機能がある。そして、訴因が他の犯罪と識別されていれば、いかなる犯罪について防御すべきかは明確となることから、訴因の第一次的機能は、識別機能にあると解する。
 そこで、訴因が特定されているというためには、①被告人の行為がいかなる犯罪構成要件に該当するかを判断し得る程度に具体的事実が記載され、かつ、②他の犯罪事実と識別可能な程度に特定されている場合、特定の要請を満たしていると解する。
 また、上記機能に鑑みれば、訴因は原則として具体的に記載すべきであるが、犯罪の性質や証拠の状況から、これらを厳格に明らかにすることのできない特殊事情がある場合には、検察官が訴因変更請求時の証拠に基づいてできる限り特定している限り、概括的な記載も許されると解する。

  (3)ア 本件新訴因には、X及びYが共謀の上、Vの頭部等に暴行を加え、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、その傷害によりVを死亡させたことが記載されている。したがって、X及びYが故意にVの身体に有形力を行使して傷害を生じさせ、その傷害と因果関係のある死亡結果を発生させたという、傷害致死罪の構成要件に該当する事実が示されている。
 確かに、「手段不明」「等」「何らかの傷害」という記載だけを取り出せば、具体性に欠けるようにもみえる。しかし、新訴因には、暴行の対象部位として「頭部」、傷害として「頭蓋底骨折」、死因として「外傷性脳障害」が具体的に記載されている。これらの明確な記載部分と概括的な記載部分とを全体としてみれば、単に傷害致死罪の構成要件を抽象的に記載したものではなく、同罪への該当性を判断し得る程度の具体的事実が明らかにされているといえ、要件①を充足する。

   イ 本件新訴因には、犯行日時が令和元年12月30日ころ、犯行場所が東京都西多摩郡内の山林、被告人がX及びY、被害者がVとそれぞれ記載されている。また、Vの死亡は一回限りの事実であり、その死亡に至る一連の暴行が審判対象とされている。したがって、本件新訴因に係る犯罪事実を、X及びYによる他の犯罪事実から識別することができ、要件②を充足する。

   ウ また、本件では、Vの死体は発見時に白骨化しており、医師の鑑定によっても、正確な死因及び頭蓋底骨折以外の傷害の有無は明らかになっていない。頭蓋底骨折についても、木刀による殴打によって生じた可能性がある一方、転倒して岩等に頭部を衝突させたことによって生じた可能性もある。加えて、Yは、捜査段階から公判段階にかけて、木刀による殴打、手拳による殴打及び革靴による蹴りという異なる供述をしている。そのため、検察官は、訴因変更請求時の証拠によっても、暴行の具体的方法、傷害の全容及び正確な死因を一つに特定することができない。
 したがって、本件には、犯行方法等を厳格に記載することのできない特殊事情があり、検察官は、訴因変更請求時の証拠に基づいてできる限り罪となるべき事実を特定したものといえる。
 加えて、上記概括的記載によっても、X及びYは、犯行現場に行っていない、Vに暴行を加えていないといった主張による防御方針を立てることができ、防御権を害することはない。
 したがって、本件新訴因は256条3項に反せず、訴因の特定に欠けるところはない。

4 以上より、本件訴因変更は公訴事実の同一性を害さず、変更後の訴因も特定されているから、裁判所は、訴因変更を許可しなければならない。

以上

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