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参考答案 徹底チェック刑法 第4講 錯誤

徹底チェック刑法
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【初学者向け前提知識】

【前提知識:各事例で検討する構成要件】
 本記事で扱う事例は刑法総論 錯誤論がメインテーマですが、各論を未修の方のために、前提となる各罪の基本的な構成要件と定義を整理しておきます。答案を読む前の頭の整理にご活用ください。

■ 事例1(1)・(2)、事例2、事例4
・殺人罪(199条)
(客体:人)
行為態様・結果:殺害行為
保護法益:人の生命

・殺人未遂罪(203条)
 殺人罪(199条)の実行に着手して、これを遂げなかった(=殺人結果が発生しなかった)場合


■ 事例2
・器物損壊罪(261条)
客体:「他人の物」:他人が所有権を有する物
行為態様:「損壊」又は「傷害」する行為:財物の効用を害する一切の行為(効用侵害説)
保護法益:所有権


■ 事例4
・死体損壊等罪(190条)
客体:「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物」
行為:①損壊(死体等の物理的な破壊、切断、損傷)、②遺棄(社会通念上、是認されない(不法な)方法で死体等を放棄・隠匿する一切の行為)、③ 領得(社会通念上、是認されない方法で死体等に対する事実上の支配(占有)を取得すること)
保護法益:死者に対する社会的風俗としての宗教感情 ※ 死体等に関する死者の人格権を保護法益と解する見解あり。


■ 事例4
・過失致死罪(210条)
(客体:人)
行為:過失により死亡させる行為
保護法益:人の生命

※ 事例3の薬物犯罪については、事例下の参考条文を参照してください。

【参考答案】

第1 事例1 小問(1)について

 1(1) XがCを銃撃し殺害した行為に殺人罪(刑法(以下法令名省略)199条)が成立するか。

  (2) Xの銃撃行為は生命侵害の現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。そして、その銃撃行為からCの死亡結果が発生しているため、因果関係も認められる。また、銃撃行為時に殺人の認識・認容も認められるため、殺人の故意も認められる。
 もっとも、Xは、Bを殺害する意図でCをBと誤認し射殺しており、客体の錯誤が生じている。この場合、Cの死について故意責任(38条1項本文)が認められるか否かが問題となる。

2 故意責任の本質は、犯罪事実を認識・認容したことにより規範の問題に直面したにもかかわらず、あえて犯罪行為を行うと意思決定したことに対する法的非難である。そして、規範は構成要件の形で与えられるから、認識事実と発生事実が構成要件的に一致する限りで、反対動機の形成は可能であり、発生事実に対する故意犯としての主観的帰責を肯定することができる。

3 Xの認識は、Bという人の殺害行為であり、現実に発生したCという人の殺害行為は、いずれも人の生命を奪う行為という点で、殺人罪という同一の構成要件内で符合している。
 したがって、Xには「人を殺してはならない」という規範の問題が与えられ、反対動機の形成が可能であったといえるから、客体の錯誤はCに対する殺人の故意を阻却しない。

4 よって、XにCに対する殺人罪(199条)が成立する。

第2 事例1 小問(2)について

 1(1) Xが、Bの頭部を狙って銃撃した行為につき、Bに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

  (2) XがBの頭部を狙って銃撃した行為は、Bの生命を侵害する現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。もっとも、弾丸はBに命中せず、死亡結果も発生していないため、殺人罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合に当たる(43条本文)。
 また、XはBを殺害することを計画した上で、その頭部を狙って銃撃しているから、殺人の故意も認められる。

  (3) したがって、Bに対する殺人未遂罪が成立する。

 2(1) 次に、Xの銃撃行為について、Aに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

  (2) Xの銃撃行為は、Bと抱き合って密着していたAとの関係においても、Aの生命侵害の現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。現に、弾丸はAの腹部をかすめている。もっとも、Aに死亡結果は発生していないことから、殺人罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合に当たる(43条本文)。
 また、AはBと抱き合って密着していたのであるから、Xは、Bの頭部に向けて銃撃すれば、弾丸がAにも命中してAを死亡させる可能性があることを認識していたといえる。にもかかわらず、あえて銃撃行為に及んだのであるから、Aの死亡結果を認容していたものとして未必の殺意が認められる。

  (3) よって、XにはAに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。

 3(1) Bを狙って発射された弾丸が、その背後の茂みで眠っていたDに命中して瀕死の重傷を負わせたことについて、Dに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

  (2) XがBの頭部を狙ってした銃撃行為は、その背後にいたDとの関係でも、Dの生命を侵害する現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。現に、発射された弾丸はDに命中し、Dは瀕死の重傷を負っている。そして、Dは死亡していないことから、殺人罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合に当たる(43条本文)。
 もっとも、XはBを狙って銃撃しており、Dの存在を認識していなかった。そこで、意図した客体とは異なるDに結果が発生した方法の錯誤の場合にも、Dに対する殺人の故意が認められるかが問題となる。

  (3)ア 故意責任の本質は、方法の錯誤の場合にも妥当するから、第1-2の基準に従い判断する。
 また、構成要件的に抽象化して判断する以上、認識した具体的客体に対する故意の個数によって故意犯の成立数を限定すべきではなく、構成要件的符合の認められる発生事実それぞれについて故意犯が成立すると解する。

   イ Xが主観的に認識していた事実は、Bという人の殺害である。一方、客観的に発生した事実は、Dの重傷という殺人未遂の結果である。
 これらは、いずれも人の生命に対する侵害行為という点で、殺人罪という同一構成要件内で符合している。したがって、Xには「人を殺してはならない」という規範の問題が与えられており、Dに対する結果についても反対動機の形成は十分に可能であったといえるから、Dについても殺人の故意を認めることができる。
 そして、故意の数は限定されないため、発生した結果の数だけ故意犯が成立する。

4 よって、Xには、Bに対する殺人未遂罪(203条、199条)、Aに対する殺人未遂罪、Dに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。
 これらは、Xによる1回の銃撃行為から生じたものであるから、1個の行為が数個の罪名に触れる場合として観念的競合(54条1項前段)となる。

第3 事例2について

 1(1) Xが、Aを殺害しようとして山中からAを狙って銃を撃った行為に、殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

  (2) Xの銃撃行為は、人に銃弾を命中させて死亡させるという生命侵害の現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。しかし、弾丸はAには命中しておらず、Aは死亡していないから、殺人罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合に当たる(43条本文)。
 また、Xは狩猟中の事故に偽装してAを殺害することを計画し、Aを狙って銃撃しているから、殺人の認識・認容があり、故意も認められる。

  (3) したがって、XにはAに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。

 2(1) 次に、Xの発射した弾丸がAの飼い犬Bに命中し、Bを死亡させたことについて、器物損壊罪(261条)が成立するか。

  (2) 犬Bは、Aの所有物であるから「他人の物」に当たる。そして、Bを死亡させた行為は、犬の生命を奪う事でその効用を害する行為であるから、「傷害」したといえる。
したがって、器物損壊罪の客観的構成要件を充足する。

  (3)ア もっとも、Xが認識していたのはAという「人」を殺害する事実であるのに対し、現実に発生したのはA所有の犬Bという「物」を「傷害」する事実であり、異なる構成要件間で錯誤が生じている。このような抽象的事実の錯誤の場合に、器物損壊罪の故意が認められるか。

   イ 故意とは、犯罪事実の認識・認容をいうところ、行為者が認識した事実と現実に発生した事実とが構成要件を異にする場合、犯罪事実の認識を欠くことから反対動機の形成が不可能であり、原則として故意を認めることはできない。
 もっとも、認識した犯罪事実と実現した犯罪事実の両構成要件が実質的に重なり合う場合、重なり合う限度において反対動機の形成が可能であり故意を認めることができると解する。そして、構成要件の中核的要素は、実行行為と結果であるから、実質的な重なり合いが認められるためには、保護法益が共通であり、かつ、行為態様が共通していることを要する

   ウ 殺人罪は、人の生命を保護法益とするのに対し、器物損壊罪の保護法益は所有権であり、両罪の保護法益に共通性は認められない。
 したがって、両罪の構成要件に実質的な重なり合いが認められないから、Xが有していた殺人の故意をもって、現実に発生した器物損壊罪の故意を認めることはできない。

  (4) また、器物損壊については過失犯を処罰する規定も存在しないことから、犬Bを死亡させたことについて犯罪は成立しない。

3 以上より、Xには、Aに対する殺人未遂罪(203条、199条)のみが成立する。

第4 事例3 小問(1)について

 1(1) Xが、覚醒剤を購入する意図でコカインを譲り受けた行為に、コカイン譲り受け罪(麻薬及び向精神薬取締法66条1項)が成立するか。

  (2) Xは、コカインを購入し譲り受けているから、コカイン譲受け罪の客観的構成要件を充足する。
 もっとも、Xにコカインを含む他の違法薬物を譲り受ける認識がなく、覚醒剤を譲り受ける事実のみを認識していたとすれば、重い覚醒剤譲受け罪の故意で、軽いコカイン譲受け罪を実現したことになり、抽象的事実の錯誤が生じている。そこで、Xにコカイン譲受け罪の故意を認めることができるか。

2 抽象的事実の錯誤の場合に故意犯を認めることができるかについては、第3-2(3)イの基準に従い、両構成要件の実質的な重なり合いの有無を判断する。

3 覚醒剤譲受け罪とコカイン譲受け罪は、いずれも違法薬物の濫用・蔓延を防止することを目的とする点で保護法益を共通にする。
 また、いずれも違法薬物を譲り受けるという同一態様の行為を処罰するものであり、行為態様の共通性も認められる。
 したがって、覚醒剤譲受け罪とコカイン譲受け罪とは、軽いコカイン譲受け罪の限度において実質的に重なり合っていると認められ、コカイン譲受け罪についてXの故意を認めることができる。

4 よって、Xにはコカイン譲受け罪が成立する。

第5 事例3 小問(2)について

 1(1) Xが、覚醒剤を購入する意図でヘロインを譲り受けた行為に、ヘロイン譲り受け罪(麻薬及び向精神薬取締法64条の2第1項)が成立するか。

  (2) Xは、ヘロインを購入し譲り受けているから、ヘロイン譲受け罪の客観的構成要件を充足する。
 もっとも、Xにヘロインを含む他の違法薬物を譲り受ける認識がなく、覚醒剤を譲り受ける事実のみを認識していたとすれば、覚醒剤譲受け罪の故意で、ヘロイン譲受け罪を実現したことになり、抽象的事実の錯誤が生じている。そこで、Xにヘロイン譲受け罪の故意を認めることができるか。

2 抽象的事実の錯誤の場合に故意犯を認めることができるかについては、第3-2(3)イの基準に従い、両構成要件の実質的な重なり合いの有無を判断する。

3 覚醒剤譲受け罪とヘロイン譲受け罪は、違法薬物の濫用・蔓延を防止するという保護法益を共通にし、違法薬物を譲り受けるという行為態様も共通する。
 したがって、両構成要件には実質的な重なり合いが認められる。
 そして、両罪の法定刑はいずれも10年以下の懲役であり、法定刑は同一であるところ、客観的に存在しない覚醒剤譲受け罪の成立を認めることは、これを基礎づける38条2項のような規定がない以上、罪刑法定主義に反する。そこで、実質的に重なり合う限度で、客観的に実現したヘロイン譲受け罪についてXの故意を認めるべきである。

4 よって、Xにはヘロイン譲受け罪が成立する。

第6 事例3 小問(3)について

 1(1) Xが、コカインを購入する意図で覚醒剤を譲り受けた行為に、覚醒剤譲受け罪(覚醒剤取締法41条の2第1項)が成立するか。

  (2) Xは、覚醒剤を購入し譲り受けているから、覚醒剤譲受け罪の客観的構成要件を充足する。

  (3) もっとも、Xは、コカイン譲受け罪の故意で、より重い覚醒剤譲受け罪を実現している。
 このように、軽い罪の故意で重い罪を実現した場合について、38条2項は「重い罪によって処断することはできない」と規定する。その趣旨は、重い罪に当たる事実を認識していない者に重い罪について故意責任を負わせることは、責任主義に反することから、重い罪の成立を否定する点にあると解する。
 したがって、Xには覚醒剤譲受け罪の故意が認められず、同罪は成立しない。

 2(1) では、軽い罪であるコカイン譲受け罪(麻薬及び向精神薬取締法66条1項)が成立するか。
 前述の通り、Xには、コカイン譲受け罪の故意は認められるものの、それに対応する客観的犯罪事実が存在しない。そこで、コカイン譲受け罪と覚醒剤譲受け罪の構成要件に実質的な重なり合いが認められるかが問題となる。

  (2) 構成要件の中核的要素は実行行為と結果であるから、実質的な重なり合いが認められるためには、保護法益が共通であり、かつ、行為態様が共通していることを要する。

  (3) コカイン譲受け罪と覚醒剤譲受け罪は、いずれも違法薬物の濫用・蔓延を防止することを目的とする点で保護法益を共通にする。
 また、いずれも違法薬物を譲り受けるという同一態様の行為を処罰するものであり、行為態様の共通性も認められる。
 したがって、コカイン譲受け罪と覚醒剤譲受け罪とは、軽いコカイン譲受け罪の限度において実質的に重なり合っていると認められる。そうすると、規範的にみれば覚醒剤譲受け罪の構成要件中にコカイン譲受け罪の構成要件が包摂されているといえ、コカイン譲受け罪の故意に対応する客観的犯罪事実が認められる。

  (4) 以上より、xにはコカイン譲受け罪(麻薬及び向精神薬取締法66条1項)が成立する。

第7 事例4について

1 Xは、Aの首を絞めた第1行為によってAが死亡したと思い、Aの身体を車のトランクに入れて海中に転落させる第2行為を行ったところ、第2行為によって初めてAの死亡結果が発生している。そこで、本件はいわゆる遅すぎた構成要件の実現の事例であるから、まず、死亡結果を直接惹起した第2行為について検討し、次いで第1行為について検討する。

 2(1) Xが、生存しているAの身体を車のトランクに入れ、その車を海中に転落させた行為は、Aを溺死させる生命侵害の現実的危険性を有する行為であり、殺人罪の実行行為に当たる。そして、Aは海水がトランク内に入ったことによって溺死しているから、第2行為とAの死亡結果との間には因果関係も認められる。
 したがって、第2行為は、客観的には殺人罪(199条)の構成要件を充足する。

  (2)ア もっとも、第2行為の時点で、XはAが既に死亡したものと認識しており、死体を海中に遺棄するつもりで第2行為に及んでいる。すなわち、Xは死体遺棄罪(190条)に当たる事実を認識しながら、客観的には殺人罪に当たる事実を実現しているから、抽象的事実の錯誤が生じている。

   イ 軽い罪の故意で重い罪を実現した場合について、38条2項は「重い罪によって処断することはできない」と規定する。これは、重い罪に当たる事実を認識していないにもかかわらず重い罪について故意責任を負わせることは責任主義に反するため、重い罪の成立を否定する趣旨であると解する。
 したがって、Xに第2行為について殺人罪は成立しない。

  (3)ア では、Xが認識していた軽い死体遺棄罪が成立するか。
 Xには死体遺棄罪の故意があるものの、Aは第2行為の時点では生存しており、死体遺棄罪に対応する客観的犯罪事実は存在しない。そこで、死体遺棄罪と殺人罪との構成要件に実質的な重なり合いが認められるか。

   イ 構成要件の中核的要素は実行行為と結果であるから、両構成要件について保護法益及び行為態様が共通し、実質的な重なり合いが認められる限度で、軽い罪の成立を認めることができると解する。

   ウ 死体遺棄罪は死者に対する社会的・宗教的感情を保護法益とするのに対し、殺人罪は人の生命を保護法益とするものであり、両罪の保護法益に共通性は認められない。
 したがって、両罪の構成要件に実質的な重なり合いは認められず、死体遺棄罪の故意に対応する客観的犯罪事実があるとはいえない。

   エ よって、第2行為について死体遺棄罪も成立しない。

  (4) もっとも、Aは単に失神していたにすぎないところ、XはAが死亡したものと誤信して第2行為に及んでいる。そして、Aが死亡しているかは、3徴候等を確認することで容易に確認することができたといえるから、Xには、Aが死亡したと誤信した点に過失が認められる。
 したがって、第2行為について過失致死罪(210条)が成立する。

 3(1) 次に、XがAの首をネクタイで絞めた第1行為について、殺人罪(199条)が成立するか。

  (2)ア 人の首をネクタイで絞める行為は、呼吸を阻害して死亡させる生命侵害の現実的危険性を有する行為であるから、殺人罪の実行行為に当たる。
 もっとも、Aの直接の死因は第1行為による窒息ではなく、第2行為による溺死である。そして、第1行為と死亡結果との間には、X自身による第2行為が介在している。そこで、第1行為とAの死亡結果との間に因果関係が認められるか。

   イ 結果発生の危険性を有する実行行為と結果との因果関係は、偶然的結果を排除し、適正な帰責範囲を画するために、客観的に存在する全ての事情を判断資料とし、条件関係があることを前提に、行為の持つ危険が結果に現実化したか否かによって判断されるべきである。

   ウ Xは、Aを殺害し、その後死体を海に沈めることを計画していた。そして、第1行為によってAが失神し、Aが死亡したものと思い込まなければ、計画に従って第2行為が行われることもなかった。そうすると、第1行為がなければ第2行為が行われることもなく、Aが溺死することもなかったといえ、条件関係が認められる。
 確かに、Aの死因は溺死であるから、介在事情である第2行為の寄与度は大きい。しかし、殺害後に死体を隠匿・遺棄しようとすることは、行為者の心理状態からみて著しく不自然・不相当な行為とはいえない。つまり、第1行為が第2行為を誘発し、第1行為の有する生命侵害の危険が第2行為を介してAの死亡結果として現実化したといえる。
 よって、第1行為とAの死亡結果との間には因果関係が認められる。

  (3)ア Xは、Aを殺害することを計画した上で、その首をネクタイで絞めているから、第1行為によってAを死亡させることについての認識・認容、すなわち殺意は認められる。
 もっとも、Xが認識していたのは、絞頸行為によってAが死亡するという因果経過であるのに対し、現実には、第1行為によって失神したAを海中に転落させたことでAが溺死している。そこで、このような因果経過の錯誤がある場合にも、現実に発生したAの死亡について殺人の故意責任を認めることができるか。

   イ 故意責任の本質は、犯罪事実を認識・認容したことにより規範の問題に直面したにもかかわらず、あえて犯罪行為を行うと意思決定したことに対する法的非難である。そして、規範は構成要件の形で与えられるから、現実の因果経過を認識せずとも、同一構成要件に該当する因果経過を認識していた以上、反対動機の形成は可能であり、発生事実に対する故意犯としての主観的帰責を肯定することができる。

   ウ 現実の因果経過である第1行為とAの死亡結果との間の因果関係は、第7-3(2)ウのとおり認められる。
 また、Xが認識していた、ネクタイでAの首を絞めてAを死亡させるという因果経過についても、当然に刑法上の因果関係が認められる。
 したがって、Xが認識していた因果経過と現実の因果経過は、いずれも殺人罪の構成要件の範囲内で符合しており、因果関係の錯誤は殺人の故意を阻却しない。

  (4) よって、第1行為について、XにはAに対する殺人罪(199条)が成立する。

4 以上より、第1行為について殺人罪、第2行為について過失致死罪が成立する。
 もっとも、両罪はいずれもAの死亡という同一の生命侵害結果に向けられたものであり、第2行為も第1行為に続く一連の経過の中で行われ意思の連続性が認められることから包括一罪となる。
 したがって、法定刑の軽い過失致死罪は殺人罪に吸収され、Xには殺人罪(199条)一罪が成立する。

以上

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