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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題4 身体拘束の諸問題(1)

事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕
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【参考答案】

第1 小問(1)について

1 令状裁判官は、検察官の勾留請求に対し、いかなる裁判をすべきか。
 刑事訴訟法(以下法令名省略)207条1項本文は、「前3条の規定による勾留の請求」と規定し、204条以下が被疑者の逮捕を前提としていることから、被疑者の勾留には同一被疑事実による逮捕が先行しなければならない(逮捕前置主義)。
 本件では、KによるXの逮捕が先行している。もっとも、先行する逮捕手続に違法がある場合には、その違法が後続する勾留に影響し得る。そこで、まずKによるXの逮捕の適法性を検討し、これが違法である場合には、その違法が勾留に及ぼす影響を検討する。

 2(1) Kは逮捕状なくXを逮捕しているため、Xが「現行犯人」(213条)に当たる必要がある。212条1項の現行犯人又は同条2項の準現行犯人に当たれば、213条による逮捕は適法となるため、順に検討する。

  (2)ア 212条1項は、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」を現行犯人と規定する。現行犯逮捕が令状主義の例外として認められるのは、特定の犯罪と被逮捕者との結び付きが明白で誤認逮捕のおそれが低い一方、直ちに身柄を拘束する必要性が高いからである。
 したがって、「現に罪を行い終った者」に当たるためには、①逮捕者にとって特定の犯罪及びその犯人が明白であること、②犯行と逮捕との時間的接着性があり、そのことが逮捕者にとって明白であることを要する。また、現行犯逮捕も身体の自由を制約する強制処分である以上、③逮捕の必要性も要件となると解する。
 なお、①の明白性は、逮捕者が直接認識した逮捕現場の客観的・外部的状況を中心に判断し、被害者等の供述はこれを補充する限度で考慮できる。

    イ 本件では、犯人の特徴は、50歳くらい、身長約170センチメートル、小太りで、Zのエコバッグを持っていたというものである。しかし、年齢、身長及び体格はいずれも一般的な特徴であり、Zのエコバッグも犯人との結び付きを強く示す物とはいえない。
 また、Xのポケットから、被害金と同じ金額及び金種である1万円札5枚が発見されているが、紙幣番号等、この5万円が被害金そのものであると識別できる事情はない。
 確かに、VはXを見て「Xが犯人に間違いない」と供述している。しかし、上記客観的・外部的状況のみではXと本件強盗との結び付きは明白とはいえず、Vの供述がXの犯人性を認めるための決定的な資料となっている。したがって、これを客観的・外部的状況の補充資料として用いることによって、裁判官の令状審査を経るまでもないほど犯人性が明白であったとはいえない。
 さらに、Xが逮捕されたのは犯行の約2時間後であり、犯行現場であるA店から約8キロメートル離れた道路上である。このような時間的・場所的隔たりに照らせば、犯行と逮捕との時間的接着性も認められない。
 よって、①・②を満たさず、Xは212条1項の現行犯人に当たらない。

   (3)ア では、Xが212条2項の準現行犯人に当たるか。
 準現行犯人に当たるためには、①212条2項各号のいずれかに該当し、②犯行と逮捕との時間的近接性があり、③逮捕者にとって特定の犯罪及びその犯人が明白であることを要する。

    イ 本件では、Xは犯人として追呼されておらず、身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるともいえず、誰何されて逃走しようとしたものでもない。
 また、Xが所持していた1万円札5枚は、被害金と金額及び金種が一致するにすぎず、それが本件強盗によって取得された「贓物」であると明らかに認めることはできない。
 したがって、Xは212条2項各号のいずれにも該当せず、準現行犯人にも当たらない。
 以上より、Xは「現行犯人」(213条)に当たらず、Kによる現行犯逮捕は違法である。

 3(1) 逮捕前置主義の趣旨は、短期間の身体拘束である逮捕を先行させ、なお嫌疑及び身体拘束の必要性がある場合にのみ勾留を認めることにより、被疑者の人身保護を図る点にある。そうすると、先行逮捕に違法があることのみによって、その趣旨が直ちに失われるものではないから、逮捕の違法のみから当然に勾留請求が却下されるとはいえない。
 そこで、勾留請求を却下すべき違法の程度が問題となる。

  (2) 207条5項但書、206条2項が、法定の時間制限を遵守しない場合に勾留を許さないことに照らせば、先行逮捕にこれに匹敵する重大な違法がある場合には、司法の廉潔性及び将来の違法捜査抑止の観点から、勾留請求を却下すべきであると解する。

  (3) 本件では、Xに対する被疑事実は強盗罪という重大犯罪であり、VがXを犯人と識別していること、Xの人相風体が犯人の特徴と類似し、犯人と同様のZのエコバッグを所持していたこと、さらに被害金と金額・金種の一致する5万円を所持していたことからすれば、Xについて緊急逮捕(210条1項)の実体的要件は認められる。そうすると、本件逮捕は、逮捕手続の種類を誤ったにすぎず、その違法は重大でないとも思える。
 しかし、緊急逮捕が令状主義の例外として許されるのは、逮捕後直ちに逮捕状を請求し、裁判官による事後的な令状審査を受けることが要求されているからである。本件では、Kは要件を満たさない現行犯逮捕を行うことによって、このような令状審査を経ることなくXの身体を拘束している。したがって、緊急逮捕の実体的要件が認められることをもって、本件逮捕の違法の程度が軽減されるとはいえない。
 よって、本件逮捕には、法定の時間制限違反に匹敵する重大な違法がある。

4 以上より、令状裁判官は勾留請求を却下すべきである。 

第2 小問(2)について

1 検察官が、逮捕手続の違法を理由として勾留を請求せずXを釈放した後、同一被疑事実によってXを再逮捕している。このような再逮捕が許されるか。

2 逮捕及び勾留による厳格な身体拘束期間制限(203条以下)の潜脱防止の観点から、原則、再逮捕は許されない。
 一方、捜査の流動性から、いかなる事情があっても再逮捕できないとするのは相当でない。また、199条3項は、同一犯罪事実について再度の逮捕状請求がされる場合があることを前提としている。
 そこで、先行逮捕の違法が著しく重大でないことを前提に、再度の身体拘束の必要性と、被疑者が被る不利益及び司法の廉潔性の保持・違法逮捕抑止の必要性とを比較衡量し、再逮捕を認める合理的理由がある場合に限り、再逮捕が許されると解する。

 3(1) まず、本件現行犯逮捕は、現行犯人の要件を満たさないにもかかわらず無令状でXを逮捕したものであり、その違法は重大である。もっとも、VがXを犯人であると識別していること、Xの人相風体が犯人の特徴と類似すること、犯人と同様にZのエコバッグを所持していたこと、被害金と金額・金種の一致する5万円を所持していたことからすれば、Xに対する嫌疑がおよそ存在しないのに逮捕したものではない。したがって、その違法は、再度の身体拘束がおよそ相当でないといえるほど著しく重大であるとはいえない。

  (2) 次に、本件は強盗という重大な犯罪であり、上記事情からXに対する相当程度の嫌疑も認められる。また、犯罪の重大性からすると、処罰を免れるため逃亡し、又はアリバイ工作等の罪証隠滅をするおそれがあるから、再度の身体拘束の必要性は高い。
 他方、Xは既に違法な先行逮捕によって身体を拘束されており、再逮捕を認めれば、捜査機関の過誤によって重ねて身体拘束を受けるという不利益を被る。もっとも、本件では勾留には至っておらず、犯罪の重大性や逃亡・罪証隠滅のおそれに照らせば、この不利益を考慮しても、再度の身体拘束の必要性は高い。
 さらに、検察官は、本件逮捕の違法を理由として勾留請求をすることなくXを釈放している。このような釈放は、先行逮捕に対する違法宣言がなされたものと評価できるから、司法の廉潔性保持及び将来の違法逮捕抑止の要請は一定程度満たされている。したがって、司法の廉潔性の保持及び違法逮捕抑止の必要性を考慮しても、再逮捕を否定すべきとはいえない。
 以上を比較衡量すれば、本件では再逮捕を認める合理的理由がある。

4 よって、逮捕の一般的要件を満たす限り、同一被疑事実によるXの再逮捕は許される。

以上

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