【参考答案】
1(1) 刑事訴訟法(以下法令名省略)320条1項により排除される伝聞証拠とは、公判廷外供述を内容とする書面であって、その内容の真実性が問題となるものをいう。
本件供述調書は、公判期日外の甲の供述を録取した書面であり、検察官の立証趣旨に照らし、甲が目撃した通りにXの殺害事実があったことを立証するために用いられる証拠であるから、内容の真実性が問題となる。
321条1項2号前段該当書面として、裁判所は、本件供述調書を証拠採用することができるか。
(2) 甲は自費出国により母国である乙国に帰国しているが、これは自ら航空券を調達したに過ぎず、法的には入管法に基づく退去強制令書の執行にほかならない。退去強制を受けた者は原則として5年間本邦に上陸できないため、甲を公判準備または公判期日に出頭させることはできず、「国外にいるため……供述することができないとき」という供述不能の要件を形式的に充足する。
2 もっとも、321条1項2号前段は、伝聞証拠禁止の例外を規定したものであり、憲法37条2項が被告人に証人審問権を保障している趣旨に鑑みると、形式的に供述不能に当たるといって、常に事実認定の証拠とすることができるとするのは相当でない。
そこで、検察官面前調書が作成され証拠請求されるに至った事情や、供述者が国外にいることになった事由に照らし、当該証拠請求をすることが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、例外的に証拠能力が否定されると解する。
3 本件では、甲の証人尋問が採用され、第1回公判期日に実施されることとなっていたにもかかわらず、公判前整理手続終了後間もなく退去強制令書が執行され、甲は強制送還されている。確かに、甲の出国は自費出国によるものであるが、これも退去強制令書の執行方法の1つであり、国家機関の措置であることに変わりはない。
そして、検察官は、甲がオーバー・ステイにより入管施設に収容されていることを認識していたのであるから、国外退去により公判期日への出廷が困難になることは容易に予見できたはずである。にもかかわらず、入管当局との連絡調整を図り証人尋問期日までの送還猶予を求める、あるいは227条に基づく第1回公判期日前の証人尋問を請求するなどの措置が採られた事情はない。このように、国家機関が漫然と必要な措置を怠ったために甲の証人尋問が行われることなく強制送還が実施されたのであるから、証人尋問が実施不能となったことについて国家機関の側に帰責事由があるといえる。
したがって、被告人に反対尋問の機会が与えられないまま検察官が本件供述調書を証拠請求することは、国家機関側の不備の不利益を被告人にのみ転嫁するものとして、手続的正義の観点から著しく公正さを欠くと認められる。
4 よって、本件供述調書は事実認定の証拠とすることは許容されず、証拠能力は認められない。したがって、裁判所は、本件供述調書を証拠として採用することはできない。
以上

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