【参考答案】
1 裁判所は、Xの「Cから現金20万円の供与を受けた」旨の自白(以下「本件自白」という。)が録取された供述調書を証拠とすることができるか。
本件自白は、警察官Kから「確実に不起訴にしてやるから」と申し向けられたことを契機になされたものである。そこで、本件自白は、「任意にされたものでない疑のある自白」(刑事訴訟法(以下法令名省略)319条1項)に当たり、証拠能力が否定されないか。その判断基準が問題となる。
2 319条1項が規定する類型の自白の証拠能力が否定される趣旨は、類型的に虚偽が含まれる蓋然性が高いため、これを排除して事実認定の正確性を担保する点にある。
そこで、「任意にされたものでない疑のある自白」とは、他者の外部的誘因によって供述者が心理的影響を受け、類型的に虚偽の自白を誘発する可能性が高い状況でなされた自白をいうと解する。
3 本件において、取調べにあたっていた警察官Kは、Xに対し、「事実を認めたら……確実に不起訴にしてやるから」と申し向けており、これは捜査官からの不起訴約束という利益誘導として外部的誘因に当たる。
確かに、約束の主体であるKは警察官であり、起訴・不起訴の決定権限を有しない。しかし、Kは、Xに対して「俺がうまく検事に話して」と申し向けており、これを聞いたXとしては、Kが検察官の処分に対して強い影響力を持っていると信じたとしてもおかしくはない。現に、逮捕から15日間も否認を貫いていたXが、Kの上記発言を契機として直ちに自白に転じていることからも、XがKの約束を真に受けていたことは明らかである。したがって、Kに客観的な権限がなくとも、Xの主観においてはKの言葉に従えば不起訴という利益が得られると信じており、Kの言動はXに対し強い心理的影響を与えたと認められる。
そして、長期間の勾留で疲弊した被疑者に対し、絶対的な利益である「不起訴」を提示して生じさせた心理状態にかんがみれば、たとえ真犯人でなくとも、その利益を獲得し現在の苦境から逃れるために事実を認めてしまう蓋然性が極めて高い。すなわち、本件は類型的に虚偽の自白を誘発する可能性が高い状況にあったといえる。
事実、Xは、15日間の否認から突如として自白に転じており、Kの言葉によって強い心理的影響を受け、それを直接の契機として本件自白に至ったといえるから、当該言動と自白との間の因果関係も認められる。
4 以上より、Xの本件自白は、「任意にされたものでない疑のある自白」として、証拠能力が否定されるため、裁判所はXの自白を証拠とすることができない。
以上

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