【参考答案】
1 尿の鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)をXの公判で証拠として用いるためには、証拠能力が認められる必要がある。
本件鑑定書は、警察署における採尿手続においてXが任意提出した尿を鑑定したものである。この採尿手続自体はXの自由な意思に基づくものであり、何ら強制は加えられておらず、固有の瑕疵は認められない。もっとも、その前提として行われた先行の任意同行に違法がある場合、その違法が後行の採尿手続に影響し、違法収集証拠として本件鑑定書の証拠能力が否定されないかが問題となる。
2(1) まず、先行手続である任意同行の適法性について検討する。本件において、Kは、任意同行を嫌がるXを有形力を行使してパトカーに乗車させ、警察署まで連行している。そこで、本件任意同行は、実質的に「強制の処分」(刑事訴訟法(以下法令名省略)197条1項但書)である逮捕(199条)に該当するとして、令状主義(憲法33条)に反し、違法とならないか。
(2) 「強制の処分」(197条1項但書)とは、立法的統制たる強制処分法定主義及び、司法的統制たる令状主義の両面から厳格な手続きが要求されるものであるから、「強制の処分」はそれに見合う重要な法益侵害を伴うものである必要がある。また、同意がある場合には法益侵害は観念できないから、意思に反して行われたものである必要がある。
具体的には、個人の明示または黙示の意思に反し、重要な権利・利益に実質的に制約を加える手段をいう。
(3) 本件において、Xは任意同行を嫌がっていたのであるから、同行はXの明示の意思に反して行われている。
また、KがXをパトカーに乗車させ警察署まで連行した行為は、Xの「身体の自由」という重要な権利を制約し得る行為に当たる。
そして、Kの嫌がるXに有形力を行使してパトカーに乗車させ、隣席に着座して警察署まで連行した一連の行為は、Xがその場から自由に立ち去ることを事実上困難にするものであって、Xのみだりに場所的移動を強制されない自由という意味での身体の自由に対し、実質的に制約を加えたものといえる。
したがって、本件任意同行は「強制の処分」である逮捕に実質的に当たるところ、逮捕状なく行われたものであるから、令状主義(憲法33条)に反し、違法である。
3(1) 本件採尿手続自体には固有の瑕疵はないものの、先行する本件任意同行は実質的逮捕にあたり違法である。そこで、違法な手続に密接に関連して獲得された派生証拠である本件鑑定書の証拠能力はいかに解すべきか。
(2) 違法収集証拠排除法則の根拠である司法の廉潔性維持および将来の違法捜査抑制の見地から、第一次証拠に基づいて獲得された第二次証拠の証拠能力も否定するべきである。しかし、第二次証拠の証拠能力を一律に否定することは、実体的真実発見(1条)の要請に反する。
そこで、第二次証拠(派生証拠)の証拠能力の肯否は、①第一次証拠の収集方法の違法の程度、②収集された第二次証拠の重要さの程度、③第一次証拠と第二次証拠との関連性の程度等を総合考慮して判断すべきと解する。
(3) 本件任意同行は令状なく行われた実質的逮捕であり違法である。しかし、用いられた有形力は背中を1回押したにとどまり、両脇を固めるなど強固なものではない。また、Xは同行を拒否したり帰宅を申し出たりしておらず、警察官に令状主義を意図的に潜脱するような悪質性までは認められないから、違法の程度が極めて大きいとまではいえない。
また、本件鑑定書は、Xの覚醒剤使用罪を立証するための直接証拠であり、不可欠かつ極めて重要な証拠である。
そして、警察署において直ちに排尿を求めている点では時間的・場所的近接性が認められる。しかし、採尿手続自体には何らの強制も加えられることなく、Xの自由な意思による応諾・任意提出に基づいている。すなわち、Xの自発的な意思決定が介在しているため、違法な先行手続と証拠獲得との間の関連性は相当程度希釈されているといえる。
以上を総合考慮すると、本件鑑定書を証拠として許容することが司法の廉潔性を害し、将来の違法捜査抑制の見地から相当でないとまではいえず、その証拠能力は否定されない。
4 よって、尿の鑑定書をXの公判で証拠として用いることができる。
以上

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