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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題28 違法収集証拠排除法則(1)

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【参考答案】

1 土地売買契約書等の関係書類(以下「本件書類」という。)は、Z宅の捜索・差押え(以下「本件捜索・差押え」という。)により収集された証拠である。
 しかし、本件捜索・差押えに際して、警察官KはZに対し、事前に捜索差押許可状を呈示していない(刑事訴訟法(以下法令名省略)222条1項、110条本文)。
 確かに、証拠隠滅の急迫した危険があり、かつ執行着手後直ちに呈示が行われた場合には、例外的に事後呈示も適法となり得る。しかし、本件ではKが関係証拠の隠滅に主観的な不安を抱いていたにすぎず、客観的な危険は認められない上、実際に呈示が行われたのは翌日であり、直ちの呈示ともいえない。
 したがって、例外的に事後呈示が許容される事情はなく、本件捜索・差押えは違法である。そこで、このような違法な手続により収集された本件書類の証拠能力が違法収集証拠排除法則により否定されないか問題となる。

 2(1) まず、本件捜索・差押えは第三者であるZの自宅に対して行われたものであり、被告人X自身の権利は侵害されていない。そこで、違法捜査の直接の被害者ではないXが、本件書類の証拠能力を争うことが認められるかが問題となる。

  (2) この点、違法収集証拠排除法則は、司法の廉潔性維持および将来の違法捜査抑制の見地から、違法収集証拠を排除する必要性に基づき認められるものである。これらの趣旨は、違法捜査により権利利益を侵害された者が誰であるかとは無関係に妥当するものである。
 したがって、被告人自身の権利が侵害されていない場合であっても、被告人には証拠排除の申立適格が認められると解すべきである。

  (3) よって、被告人であるXに証拠排除の申立適格が認められる。

 3(1) Xに申立適格が認められるとして、本件書類の証拠能力は否定されるか。

  (2) 司法の廉潔性維持および将来の違法捜査抑制の見地から、違法収集証拠を排除する必要がある。他方、証拠価値は不変であり、軽微な違法に留まる場合にまで証拠を排除すると、実体的真実発見(1条)を害する。
 そこで、①証拠収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、かつ②違法捜査抑制の見地から当該証拠を排除することが相当である場合には、証拠能力が否定されると解する。

  (3)ア 本件では、適法に捜索差押許可状が発付されており、Kは実質的には捜索・差押権限を有していた。また、令状記載の範囲を超える捜索・差押えではなかった。しかし、Kは手元に令状がないまま、令状の内容確認もなく、捜索・差押えを完了させている。令状の事前呈示は、被処分者の権利保護と処分の適正を確保する重要な手続保障であり、その逸脱の程度は大きいというべきである。
 また、Kは、証拠隠滅の不安から「手違いがあって今は手元にない」と申し向けて捜索を強行している。さらに翌日、Kは捜索差押調書等に「事前に呈示した」旨の虚偽記載を行っている。この虚偽記載は証拠収集手続後の事後的な違法行為であり、既に終了した手続の違法性に影響を与えるものではない。しかし、手続の違法を糊塗する態度として、当初の捜索実施時点においても、Kに令状主義に関する諸規定を潜脱する強い意図があったことを推認させるものであるといえる。
 以上を総合すると、本件捜索・差押えには、令状主義の精神を没却するような重大な違法があるといえる(要件①充足)。

   イ 本件のように、令状が発付されていることを奇貨として令状呈示を意図的に省略する行為は、捜査便宜のために容易に反復され得る性質のものである。これを許容すれば、今後の同種の違法行為を助長し、令状事前呈示という重要な手続規定を空文化させるおそれがある。
 また、Kは事後に虚偽の調書を作成して違法行為を隠蔽しようとしており、その法規違背の態度は悪質である。このような悪質な事後工作を伴う場合、証拠排除という強力な制裁を科さない限り、捜査機関の遵法精神を喚起し、違法捜査を抑制する効果は期待し難い。
 確かに、適法に令状が発付されていた以上、適法な手続によっても本件書類が獲得された蓋然性は認められる。しかし、現に重大な手続違反が行われた以上、かかる「不可避的発見」的な事情のみをもって免責することは、手続的適正を犠牲にして結果のみを重視する姿勢を司法が追認することになり、司法の廉潔性を著しく害するものである。
 したがって、本件書類の排除相当性が認められる(要件②充足)。

4 よって、上記土地売買契約書等の関係書類は、違法収集証拠として証拠能力が否定され、Xの公判において証拠とすることはできない。

以上

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