【参考答案】
第1 設問1について
1 取消訴訟の原告適格は、「処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項)に認められる。そこで、本件開発許可処分の名宛人以外の第三者であるBが「法律上の利益を有する者」に当たるかが問題となる。
2 処分の取消しを求めるにつき、「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項参照)とは、処分の根拠法規において法律上保護された利益を侵害される者をいい、処分の根拠法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としてもこれを保護している場合も含まれる。
なお、この判断は同法9条2項の考慮勘案事項に沿って判断されなければならない。
3(1) 本件開発許可は、都市計画法(以下「法」という。)29条に基づくものであり、その要件は法33条に定められている。
以下、Bが主張する不利益に沿って、原告適格が認められるかを検討する。
(2) まず、緑地の保全による良好な住環境の保全という利益について、法33条1項9号は、「開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため」、樹木の保存等の措置を開発許可の要件としている。この規定の文言及び趣旨からすると、法は、本件開発許可処分に際して、緑地の保全による良好な住環境の保全という利益を少なくとも公益として法律上保護しているといえる。
しかし、緑地の保全による良好な住環境の確保という利益は、生命・身体等の具体的利益とは性質が異なり、仮に違法な処分により当該利益が侵害された場合であっても、周辺住民に直接的かつ重大な損害が生じるとはいえない。また、不利益が及ぶ範囲も明確ではない。したがって、法は、緑地の保全による良好な住環境の保全という利益を、一般的公益として保護しているにとどまり、個々人の個別的利益として保護しているとは解されない。
よって、Bは当該利益を根拠として原告適格を基礎づけることはできない。
(3) 次に、開発区域周辺住民の通行の安全について、法33条1項2号前段は、「通行の安全上」支障がない規模及び構造の道路配置を求めており、同号後段及び都市計画法施行令(以下「施行令」という。)25条等は、開発区域内の道路が開発区域外の道路の機能を阻害することなく接続されるよう定めている。これらの規定の文言及び仕組みからすると、法は、本件処分に際して、開発区域周辺住民の通行の安全の利益を少なくとも公益として法律上保護しているといえる。
しかし、道路は不特定多数者によって自由に利用されるものであり、交通事故等による被害は本件許可によって直接生じるものとはいえず、第一義的には道路交通法等によって対処されるべき性質のものである。そのため、違法な処分がなされた場合であっても、特定の周辺住民に直接的かつ重大な損害が生じるとはいえない。 したがって、法は、周辺住民の通行の安全の利益を、一般的公益として保護しているにとどまり、個々人の個別的利益として保護しているとは解されない。
よって、Bは当該利益を根拠としても原告適格を基礎づけることはできない。
(4) 最後に、開発区域周辺住民の防災の利益について、法33条1項2号前段は、「災害の防止上」支障がない規模及び構造の道路等の配置を求め、その際の勘案事項として同号イは「周辺の状況」を挙げている。これらの規定の文言及び趣旨からすると、法は、本件処分に際して、開発区域周辺住民の防災の利益を少なくとも公益として法律上保護しているといえる。
そして、火災等の災害発生時に緊急自動車が開発区域内に進入・通行できない場合、予定建築物の消火や救助活動が遅れ、倒壊や延焼等により開発区域外にも被害が拡大するリスクがある。かかる被害は生命・身体という極めて重大な法益に関するものであり、ひとたび違法な処分により当該利益が侵害されれば、周辺住民に直接的かつ重大な損害が生じることになる。このことからすると、法は、本件処分に際して、開発区域周辺住民の防災の利益を、単に一般公益として保護しているにとどまらず、予定建築物の火災等の災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の者の防災の利益を、個々人の個別的利益としても保護していると解するのが相当である。
Bは、高さ約45mの本件予定建築物から約20mという至近距離に居住している。そのため、Bは、災害時の予定建築物の倒壊や延焼等により、直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の者に該当する。
よって、Bは法33条1項2号により保護される個別的利益を侵害されるおそれのある者に当たり、原告適格が認められる。
第2 設問2について
1 第1の通り、Bに原告適格が認められるとしても、取消訴訟においては、「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由として取消しを求めることはできない(行訴法10条1項)。そこで、Bが本件開発許可の取消訴訟において主張しうる違法事由の範囲が問題となる。
2 行訴法10条1項の主張制限は、同法9条1項の原告適格の制限と同様に、取消訴訟の主観訴訟たる性格を徹底する趣旨である。また、文言の統一的解釈を図る必要があることから、10条1項の制限は9条1項の制限の範囲と同一であると解すべきである。
したがって、「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは、原告適格を基礎づけない法規定への違反をいうと解する。
3 第1の通り、Bの原告適格を基礎づける法規定は、法33条1項2号の災害防止に関する要件のみである。
したがって、Bが本件開発許可の取消訴訟において違法事由として主張しうるのは、自己の原告適格を基礎づける法33条1項2号の災害防止要件の違反に限られる。
よって、Bは、本案審理において緑地の保全による良好な住環境の保全に関する法33条1項9号、及び開発区域周辺住民の通行の安全に関する同項2号前段違反を主張することは、行訴法10条1項により制限される。
4(1) 第2-2の立場に対して、第三者としての原告適格が認められた原告は、当該処分が処分要件を充足している限りにおいてのみ、利益の侵害を甘受すべき地位に置かれるのであるから、本案においては、原告以外の第三者の利益を保護する規定違反を除き、あらゆる違法事由を主張することができるとの見解がある。
(2) この見解によると、Bが違法事由として主張している法33条1項9号の環境保全要件、及び同項2号前段等の通行安全要件は、いずれも一般的公益の保護・実現を目的とする要件であり、原告以外の第三者の利益を保護する規定には当たらない。
したがって、Bは、自己の原告適格を基礎づける災害防止要件の違反にとどまらず、上記公益要件違反についても違法事由として主張できることになる。
以上

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