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参考答案 事例研究 行政法〔第4版〕第1部 行政法の基本課題 第8問 食品の回収命令をめぐる紛争

事例研究 行政法〔第4版〕
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【参考答案】

第1 設問1について

1 A社は、本件処分の違法性を争うため、甲県を被告として、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項に基づく本件処分の取消しの訴えを提起すべきである。

2 取消訴訟の訴訟要件は、① 処分性(行訴法3条2項)、② 審査請求前置(行訴法8条1項但書)、③ 原告適格(行訴法9条1項参照)、④ 狭義の訴えの利益(行訴法9条1項)、⑤ 被告適格(行訴法11条)、⑥ 出訴期間遵守(14条)、⑦ 裁判管轄(行訴法12条)である。

3 本件処分は、食品衛生法(以下「法」という。)54条に基づき、A社に対して本件米でん粉の回収等の義務を一方的に課す公権力の行使であるため、①「処分」に当たる。
 そして、A社は本件処分の名宛人であり、当該処分によって直接的に法的義務を負わされているため、③原告適格を有する。また、本件処分を取り消すことでA社は当該回収義務等を免れることができるため、④狭義の訴えの利益も認められる。
 本件処分が発出されたのは2020年9月17日であり、法律相談に訪れた同年11月1日時点において、処分があったことを知った日から6箇月(行訴法14条1項本文)を経過していないため、⑥出訴期間内である。
 そして、法には取消訴訟提起前の審査請求前置の定めはないため、直ちに訴えを提起することができ(要件②充足)、本件処分をした行政庁は甲県の機関である乙地方保健所長であるから、当該行政庁の所属する公共団体である⑤甲県を被告として、⑦甲県の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所等へ訴え提起することで、すべての訴訟要件を充足する。

第2 設問2について

 1(1) 本件処分の違法性として、手続的瑕疵を主張すべきである。
 本件処分は、乙地方保健所長が食品衛生法に基づき、A社を名あて人として直接に回収等の義務を課すものであるから「不利益処分」(行政手続法(以下「行手法」という。)2条4号)に該当し、行政手続条例ではなく行手法が適用される(行手法3条3項)。また、法に行手法の適用除外規定はないため、行手法所定の手続を履践しなければならない。

  (2) 本件処分は許認可の取消し等には該当しないため、原則として弁明の機会の付与の手続を執らなければならない(行手法13条1項2号)。
 本件において、A社による実害の発生はなく、またその危険が切迫している事情もないため、「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため」(行手法13条2項1号)などの例外事由にも該当しない。にもかかわらず弁明手続が付与されていないため、行手法法13条に違反し違法である。

  (3)ア また、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない(行手法14条1項本文)。本件処分の通知書には一定の事実が記載されているものの、その記載程度が法が要求する水準にあるか、条文上明らかでなく問題となる。

   イ 理由付記の制度趣旨は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保し、恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える点にある。
 したがって、理由の程度は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して当該処分を行ったかを、相手方がその記載自体から了知し得る程度に具体的に記載されていなければならないと解する。

   ウ 本件処分の通知書には「貴社は、カビの発生等による非食用の事故米穀を原料として米でん粉を製造し、食用と非食用の区別をせずに販売した」とあるのみである。法6条は、不衛生食品の「販売の禁止」(法6条前段)と、販売目的での「製造・使用等の禁止」(法6条後段)という異なる規制を含んでおり、さらに1号から4号までの食品又は添加物に該当する場合に細分化されている。
 本件記載では、A社の「事故米穀を使用した行為」が法6条後段違反に当たるのか、「米でん粉を販売した行為」が法6条前段違反に当たるのかが不明確である。さらに、各号のいずれに該当するのかも不明確である。そのため、A社はいかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用されたのかをその記載自体から了知できないといえ、また、常識から理解できるともいえないから、不服申立て便宜という法の要請を満たさない。 
 したがって、理由の提示として不十分であり、行手法14条1項に違反する。

  (4)ア では、処分の手続における瑕疵が、処分の取消事由となるか。

   イ 法律上、手続規定が設けられている意義は尊重されなければならないが、他方、手続の瑕疵をとらえて処分がやり直されたとしても処分結果に変更が生ずる可能性がない場合等においてまで処分を取り消すと、訴訟経済・行政経済に反するといえる。
 したがって、手続的瑕疵は、原則として取消事由にはあたらないが、例外として、当該手続的瑕疵が処分結果に変更可能性をもたらす場合か、重要な手続きに重大な瑕疵がある場合に限り、取消事由となると解する。

   ウ 弁明の機会の付与(行手法13条1項2号)は、不利益処分の名宛人に手続的保障を与える重要な手続であるところ、A社による本件米でん粉の安全性の主張立証により、行政庁が回収命令という重い処分を思いとどまるなど、処分結果に変更可能性をもたらす場合であったといえる。
 また、理由提示手続(行手法14条1項)が、行政庁の恣意的な判断を抑制するとともに、名宛人の不服申立ての便宜を図るための極めて重要な手続であることに鑑みると、本件処分における理由提示は、前段・後段のいずれの違反かすら不明確であり、A社の防御の機会を実質的に奪うものであるから、重要な手続に重大な瑕疵がある場合に該当する。
 よって、本件処分の手続的瑕疵は、それぞれ独立の取消事由となる。

 2(1) 次に、本件処分の違法性として、法54条の要件を充足していない点、および仮に法54条の要件充足性が認められるとしても、効果裁量の逸脱濫用のある点で違法であることを主張すべきである。

  (2) 法6条前段は、同条1号から4号に掲げる食品の「販売」を禁じているところ、これらは「人の健康を損なうおそれ」があるものを列挙したものである。本件米でん粉は、製造過程でカビ等が完全に除去されており、製品検査でも安全性が証明されている。したがって、「人の健康を損なうおそれ」がない本件米でん粉の販売行為は、法6条前段に違反しない。

  (3) 法6条後段は、販売目的で不衛生な食品を「使用」することを禁じている。公定解釈によると、事故米穀は法6条1号または4号に該当するとされている。しかし、本件事故米穀は一般の普通カビや水濡れ等によるものにすぎず、これらが定量的に直ちに人の健康を損なうおそれがあるもの(1号)や、不潔・異物混入等の事由により健康を損なうおそれがあるもの(4号)に該当するとはいえない。
 したがって、A社の使用行為は法6条後段にも違反しない。

  (4)ア 裁量の有無及び範囲は、処分の根拠法令の文言、処分の内容および性質を総合考慮して判断される。そして、裁量が認められる場合であっても、比例原則違反等が認められる場合には、裁量権の逸脱濫用として処分は違法となる(行訴法30条)。

   イ 本件処分の根拠法令である法54条は、違反食品等について「廃棄を命じ、その他……必要な処置をとることを命ずることができる」と規定している。多様な措置を選択的に「できる」とする文言や判断に行政の専門性が求められる性質から、いかなる措置をとるかについて行政庁に効果裁量が認められる。
 しかし、法の目的は「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止する」ことにある(法1条)から、比例原則上、選択される手段はこの目的達成のために必要かつ最小限度のものでなければならない。
 本件では、仮に本件事故米穀の使用が形式的に法6条後段に違反するとしても、本件米でん粉は製造過程でカビ等が完全に除去されており、製品検査でも安全性が確認されている。すなわち、法が防止しようとする「衛生上の危害の発生」の危険性は実質的に存在しない。他方で、販売済みの全量回収という手段は、A社に対して多大な費用負担を強いるのみならず、得意先からの信用を決定的に毀損し、経営に甚大な不利益をもたらす最も侵害的な措置である。
 したがって、実質的な健康被害の危険性が存在しないにもかかわらず、あえて最も重い全量回収を命じた本件処分は、達成される公益とA社が被る不利益との間の均衡を著しく失しており、比例原則に違反する。
 よって、仮に法54条の要件充足性が認められるとしても、本件処分は裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)に当たり違法である。

以上

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