【参考答案】
1 本件において、検察官は、過失運転致死罪の訴因から犯人隠避罪の訴因への訴因変更を請求している。刑事訴訟法(以下法令名省略)312条1項は、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、……訴因」の「変更を許さなければならない」と規定している。
そこで、本件訴因変更が「公訴事実の同一性」を害しないといえるか、その意義が明らかでなく問題となる。
2 312条1項が公訴事実の同一性を害しない限度で訴因変更を認めたのは、同一事件について改めて別訴を提起させることなく、現在の訴訟手続の中で審判の対象を変更することを認める一方、別個の事件を同一手続内に取り込むことを防止するためである。
そこで、公訴事実の同一性は、新旧両訴因が実体法上一罪の関係にある場合(単一性)、又は、新旧両訴因の基本的事実関係が共通する場合(狭義の同一性)に認められると解する。
狭義の同一性については、日時、場所、被告人の関与形態、被害者、行為及び結果等の事実的共通性を第一次的な基準として判断し、これのみでは判断できない場合には、新旧両訴因が両立し得るかを補充的に考慮する。
3(1) まず、旧訴因である過失運転致死罪と、新訴因である犯人隠避罪とは、保護法益及び犯罪行為を異にする別個の犯罪であり、実体法上一罪の関係にはない。したがって、両訴因の間に単一性は認められない。
(2) 次に、狭義の同一性について検討する。
確かに、両訴因は、同一の交通事故に関連し、いずれもXの行為を対象とする点では共通する。
しかし、旧訴因に係る行為は、事故当日に交差点で自動車を運転し、過失によりVを死亡させた行為であるのに対し、新訴因に係る行為は、事故翌日に警察署へ出頭し、自らが事故車両の運転者である旨の虚偽の申告をした行為である。したがって、両訴因は、行為の日時、場所及び態様を異にする。また、旧訴因では、Xが事故車両の運転者としてVを死亡させたことが問題となるのに対し、新訴因では、Xが運転者ではなく、真犯人Yの身代わりとなったことが問題となる。そのため、Xの関与形態も異なる。さらに、旧訴因ではVの死亡という結果及びVの生命に対する侵害が問題となるのに対し、新訴因では国家の刑事司法作用に対する侵害が問題となる。
このように、両訴因は、その背景に同一の交通事故が存在するにすぎず、日時、場所、行為態様、Xの関与形態、結果及び被害の内容という主要な事実を異にする。したがって、両訴因の基本的事実関係は共通しない。
なお、確かに、旧訴因におけるXが事故車両の運転者であるとの事実と、新訴因におけるXがYの身代わりとなったとの事実とは両立しない。しかし、非両立性は、事実的共通性のみでは基本的事実関係の同一性を判断できない場合に補充的に考慮されるものである。本件では、上記事実的共通性の検討から基本的事実関係が共通しないと判断できるため、非両立性は上記結論を左右しない。
したがって、両訴因の間に狭義の同一性も認められず、過失運転致死罪の訴因と犯人隠避罪の訴因との間には「公訴事実の同一性」が認められない。
4 よって、裁判所は、検察官による訴因変更請求を許可すべきではない。
以上
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