スポンサーリンク

参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題11 おとり捜査

事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕
スポンサーリンク

【参考答案】

 1(1) おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するよう働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで、現行犯逮捕等により検挙する捜査手法をいう。

  (2) 本件では、警察官Kの依頼を受けたSが、その意図を秘してXに覚醒剤5kgを注文し、Xがこれに応じて覚醒剤を所持してホテルに現れたところを逮捕している。したがって、本件捜査はおとり捜査に当たる。

  (3) そこで、おとり捜査について刑事訴訟法は「特別の定」を置いていないことから、おとり捜査が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下法令名省略)197条1項但書)に当たる場合、強制処分法定主義に反し許されない。そこで、「強制の処分」の意義が問題となる。

 2(1) 「強制の処分」とは、個人の明示または黙示の意思に反し、重要な権利・利益に実質的に制約を加える処分をいう。

  (2) 本件においてXは、Sの身分及び意図について錯誤に陥っているにすぎず、覚醒剤を所持して取引場所に赴くこと自体は自らの意思で決定しているから、明示又は黙示の意思に反しない。また、強制又は脅迫等による意思決定の自由その他の重要な権利・利益の実質的制約もない。
 したがって、本件おとり捜査は「強制の処分」には当たらず、任意処分である。

 3(1) おとり捜査は、捜査機関が対象者を介して、刑罰法規が保護する法益の侵害又はその危険を自ら惹起・創出し、捜査の公正を害する危険を有する捜査手法であり、任意捜査であっても無制約に許されるものではない。
 そこで、おとり捜査による犯人検挙及び証拠収集の必要性と、これによって惹起・創出される法益侵害又はその危険の程度及び捜査態様の不公正性とを総合考慮し、前者が後二者を正当化し得る場合に限り、「目的を達するため必要な」(197条1項本文)捜査として、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されると解する。
 具体的には、①対象犯罪の性質、嫌疑の具体性等からみた捜査の必要性・補充性、②侵害される法益の性質・程度、法益侵害が現実化する危険性及びその防止態勢、③捜査機関による働き掛けの態様、影響の程度等を考慮する。

  (2) まず、Kは、Xが覚醒剤数十kgを密輸入し、大口売却先を探しているとの確度の高い情報を得ていたから、Xの覚醒剤所持・密売について具体的な嫌疑が認められる。また、覚醒剤犯罪は重大かつ密行性が高く、KがXの住所、立ち回り先及び隠匿場所を鋭意捜査しても把握できなかったことから、通常の捜査方法による摘発は困難であり、本件捜査の必要性・補充性は高い。
 次に、覚醒剤5kgが流通した場合の公衆の健康への危険は重大である。しかし、Xは既に数十kgを所持しており、本件捜査が覚醒剤を新たに取得させたものではない。また、Kほか数名が取引場所で待機し、Xが現れると直ちに逮捕しているため、覚醒剤の流出を防止する態勢も整えられていた。したがって、法益侵害が現実化する危険は抑えられていた。
 さらに、SはXに注文したにすぎず、強要や執拗な説得等をしていない。Xが従前から大口売却先を探していたことからすると、Sの働き掛けは新たな犯罪意思を生じさせたものではなく、既存の密売意思を具体化する機会を与えたにとどまる。したがって、働き掛けの影響は小さく、捜査態様の不公正性も低い。
 以上より、本件おとり捜査による犯人検挙及び証拠収集の高度の必要性・補充性は、これによって惹起される法益侵害の危険及び捜査態様の不公正性を正当化し得る。
 したがって、本件おとり捜査は、「目的を達するため必要な」捜査として、具体的状況の下で相当と認められる限度にとどまり、任意捜査として適法である。

以上

コメント