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参考答案 徹底チェック刑法 第6講 被害者の同意

徹底チェック刑法
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【初学者向け前提知識】

【前提知識:各事例で検討する構成要件】
 本記事で扱う事例は刑法総論 同意論がメインテーマですが、各論を未修の方のために、前提となる各罪の基本的な構成要件と定義を整理しておきます。答案を読む前の頭の整理にご活用ください。

■ 事例1、事例2(1)・(2)、事例3
・殺人罪(199条)
 (客体:人)
 行為態様・結果:殺害行為
・殺人未遂罪(203条)
 殺人罪(199条)の実行に着手して、これを遂げなかった(=殺人結果が発生しなかった)場合
・自殺関与罪(203条前段)
 (客体:人)
 行為態様:自殺教唆(自殺の意思を持たない者に対して、自殺の決意を生じさせ、実行させる行為)、自殺幇助(既に自殺の決意を有している者に対し、その実行を援助・容易にして、自殺を実行させる行為)
 結果:被害者の自殺


■ 事例4
・傷害罪(204条)
 (客体:人の身体)
 行為態様:「暴行を加え」る行為 ※「暴行」=身体に対する有形力の行使
 結果:「傷害した」 ※「傷害」=身体の生理的機能の障害

【参考答案】

第1 事例1について

 1(1) Xが追死するかの如く装い毒薬をAに与え、服用させて死亡させた行為に、殺人罪(刑法(以下、法令名省略)199条)と自殺関与罪(202条前段)のいずれが成立するか。
 毒薬を服用したのはA自身であるため、外形的にはAの自殺であり、Xは手段を提供した自殺関与罪にとどまるようにも思える。
 しかし、XはAに対し「追死する」という嘘をついて毒薬を服用させている。仮に、錯誤によりAの同意が無効となるとすれば、Aは自由意思で死を選択したとはいえず、XがAの行為を一方的に利用して結果を実現したと評価できる。その場合、Aを利用する行為がXの直接正犯と同視でき、殺人罪の間接正犯が成立し得ることになる。
 そこで、Aの心中についての同意が有効であるかが問題となる。

  (2) 被害者の同意が有効といえるには、被害者の自由真意に基づくものでなければならない。一方で、錯誤がある場合に一律に無効とすると、被害者の意思を過度に軽視し、殺人罪の処罰範囲を不当に拡大することになる。
 そこで、意思決定に重大な影響を与える錯誤がある場合に限り、同意は自由真意に基づくものとはいえず、無効となると解すべきである。

  (3) Aは、Xが追死するかの如く装った欺罔行為の結果、Xが追死してくれるものと誤信し、心中を決意している。
 確かに、心中を最初に申し出たのはA自身である。しかし、Aは、熱愛するXから別れを切り出されたのに対し、これに応じず、むしろ心中を申し出ている。このことから、単に自己の生命を絶つこと自体を望んでいたわけではなく、Xと共に死ぬことこそが自殺を決意する上での本質的要素であったといえる。そうすると、Xが追死を装うという欺罔行為を行わなければ、Aが自殺の決意を固めることはなかったのであるから、Aの心中の意思は自由な真意に出たものとはいえない。
 したがって、Aの自殺の決意には意思決定に重大な影響を与える錯誤があったといえ、Aの同意は無効である。
 よって、Xに自殺関与罪(202条前段)は成立しない。

  2(1) では、Xに殺人罪の間接正犯が成立するか。
 間接正犯が成立するのは、他人を利用する行為が直接正犯と同視できる場合であるから、他人の行為を一方的に利用して結果の実現過程を支配したことが必要である。
 具体的には、①利用者と被利用者との関係、②利用行為の態様、③被利用者の状況等を考慮して判断する。

  (2) AはXを熱愛し、Xから別れを切り出されてもこれに応じず、Xとの心中を申し出るほど、Xとの関係を重要視していた。
 そして、Xは、Aが自己を熱愛し、Xも追死してくれると信じていることに乗じ、実際には追死する意思がないにもかかわらず、追死するかの如く装って毒薬を渡している。
 その結果、Aは、Xが追死しないという事実を知らないまま、重大な瑕疵ある自殺意思に基づいて毒薬を服用し、死亡している。この錯誤はX自身の欺罔によって生じたものであり、Xはこれを認識しながら利用してAに毒薬を服用させたものいえる。
 そうすると、Xは、Aとの関係に基づき、欺罔により生じさせた錯誤に基づくAの自殺行為を利用して、Aの死亡結果発生の実現過程を支配していたと評価できる。
 したがって、XによるAの利用行為は自己の直接的な殺人罪の実行行為と同視でき、客観的構成要件を充足する。

  (3) また、Xは、Aの錯誤を利用して毒薬を服用させ、Aが死亡することを認識・認容していることから、殺人罪の故意が認められる。

3 以上より、Xには、殺人罪(199条)の間接正犯が成立する。

第2 事例2 小問(1)について

 1(1) Xが、暴行・脅迫を交えつつAに車ごと海中に転落して自殺するよう執拗に要求し、Aに車を海中に転落させて死亡させた行為に、殺人罪(199条)と自殺関与罪(202条前段)のいずれが成立するか。
 車を海中に転落させたのはA自身であるため、外形的にはAの自殺であり、Xには自殺関与罪が成立するにとどまるようにも思える。
 しかし、Xは、自己を極度に畏怖して服従していたAに対し、暴行・脅迫を交えつつ自殺を執拗に要求し、自殺するほかないとの心境に陥らせている。仮に、このような強制によってAの自殺意思が無効となるとすれば、A自身が車を海中に転落させているとしても、その行為を利用してAを死亡させたXに殺人罪の間接正犯が成立する余地がある。
 そこで、Aの自殺意思が自由な意思に基づく有効なものといえるかが問題となる。

  (2) 被害者の同意は、自由意思に基づくものでなければならないから、強制により意思を抑圧され形成された同意は無効である。
 被害者の意思が抑圧されたといえるかは、被害者が他の行為を選択することができない精神状態に陥っていたかを、行為者と被害者との関係、強制行為の態様・程度・執拗さ等を考慮して判断する。

  (3) Aは、従前からXによる暴行・脅迫を受け、Xを極度に畏怖し服従する関係にあった。
 その様な関係の下、Xは暴行・脅迫を交えつつ自殺を執拗に要求している。また、猶予を哀願するAに、翌日の実行を確約などすることで、最終的にXの命令に応じて自殺するほかないとの心境に陥らせている。
 これらのことからすると、AはXの命令に応じて自殺する他の行為を選択することができない精神状態に陥っていたといえ、その自殺意思は自由な意思に基づくものではない。
 よって、Aの自殺意思は無効であるから、Xに自殺関与罪(202条前段)は成立しない。

 2(1) では、Xに殺人罪の間接正犯が成立するか。
 間接正犯が成立するのは、他人を利用する行為が直接正犯と同視できる場合であるから、他人の行為を一方的に利用して結果の実現過程を支配したことが必要である。
 具体的には、①利用者と被利用者との関係、②利用行為の態様、③被利用者の状況等を考慮して判断する。

  (2) 上述のとおり、Aは、Xの暴行・脅迫により、Xを極度に畏怖して服従する関係にあった。
 Xは、そのようなAとの関係を利用し、暴行・脅迫を交えつつ、車ごと海中に転落して自殺するよう執拗に要求している。また、猶予を哀願するAに翌日の実行を確約させ、当日には、漁港の岸壁から車ごと海中に転落するよう命じている。
 その結果、Aは、Xの命令に応じて自殺するほかないとの心境に陥り、他の行為を選択することができない精神状態で、Xの命令どおり車を海中に転落させて死亡している。
 以上のことからすると、Xは、Aの行為を一方的に利用してAの死亡結果発生の実現過程を支配していたと評価できる。
 したがって、XによるAの利用行為は、自己の直接的な殺人罪の実行行為と同視でき、殺人罪の客観的構成要件を充足する。

  (3) また、Xは、Aを車の海中転落事故に見せかけて死亡させ、保険金を取得することを企てた上で、Aに車ごと海中に転落するよう命じているから、Aを死亡させることについて認識・認容しており、殺人罪の故意も認められる。

3 以上より、Xには、殺人罪(199条)の間接正犯が成立する。

第3 事例2 小問(2)について

1 Xが、Aに車ごと海中に転落するよう命じた行為に殺人未遂罪(203条、199条)の間接正犯が成立するか。
 事例2(1)と異なり、Aは自殺する意思を有しておらず、あらかじめ脱出準備をした上で車を海中に転落させている。そのため、Aには一定の主体的意思が残されており、XがAの行為を一方的に利用して死亡結果の実現過程を支配したといえるか。また、Aには脱出意思及び準備があったことから、XがAに命じて車ごと海中に転落させた行為にAの死亡結果発生の現実的危険性、すなわち、実行行為性が認められるかが問題となる。

 2(1) 間接正犯の成否は、第1-2(1)の基準に従って判断する。

  (2) まず、脱出準備がされていたとしても、車ごと海中に転落すれば、転落時の衝撃や急速な浸水等によって予定どおり脱出できず、そのまま溺死する危険性がある。したがって、XがAに命じて車ごと海中に転落させた行為には、Aの死亡結果を発生させる現実的危険性が認められる。
 確かに、Aは、Xの自殺命令に反して、脱出準備をした上で、生き延びようとする意思で車を海中に転落させている。
 しかし、Aは、Xから暴行・脅迫を受け、畏怖して服従する関係にあった。Xは、この関係を利用し、暴行・脅迫を交えながら自殺を執拗に要求し、猶予を哀願するAに翌日の実行を確約させた上、車ごと海中に転落するよう命じている。
 その結果、Aは、生き延びようとする意思こそ有していたものの、Xの命令に応じて車ごと海中に転落する以外の行為を選択することができない精神状態に陥っていた。
 そうすると、Aに一定の主体的意思が残されていたとしても、Xは、Aとの支配・服従関係に基づき、暴行・脅迫による強制を利用し、Aに自己の命令した行為を行わせていたといえる。
 したがって、Xは、Aを一方的に利用して、死亡の現実的危険性を有する行為に及ばせたものといえ、Aの死亡結果の実現過程を支配していたと評価できる。よって、Xの命令行為はXの直接的な実行行為と同視でき、殺人罪の実行行為に当たる。
 そして、殺人罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合であるから、殺人未遂罪(203条、199条)の客観的構成要件を充足する。

 3(1) もっとも、Xは、Aが自殺する意思を有していると認識していた。そこで、Xには自殺関与罪の故意しかなく、殺人罪の故意が認められないのではないか。

  (2) 故意とは、犯罪事実の認識および認容をいう。したがって、現実と行為者の認識に食い違いがあっても、その食い違いが犯罪事実たる客観的構成要件該当性を基礎づける事実についての認識を欠くものでなければ、反対動機の形成が可能であり故意犯としての責任を問い得ると解する。

  (3) 確かに、Aに自殺する意思があるとのXの認識は事実に反している。
 しかし、Xは、自らの命令により、Aを自己の命令以外の行為を選択できない状態に置き、車ごと海中へ転落させるという死亡の現実的危険性の高い行為を強いていること自体は認識している。
 したがって、殺人罪の客観的構成要件該当性を基礎付ける事実について認識を欠くところはなく、その認容もあるから殺人の故意が認められる。

4 以上より、XにはAに対する殺人未遂罪の間接正犯(203条、199条)が成立する。

第4 事例3について

 1(1) Xが、Aと共謀の上、保険金詐取のために交通事故を偽装し、Aの車に追突してAに軽傷を負わせた行為に傷害罪(204条)が成立するか。

  (2) XはAの車に追突するという不法な有形力を行使して、Aに軽傷を負わせ生理的機能に障害を加えたといえるから、「傷害」したといえる。
 また、XはあらかじめAに軽傷を負わせることを計画した上で追突行為に及んだのであるから、傷害についての認識・認容があるといえ、故意も認められる。
 したがって、Xの行為には傷害罪の構成要件該当性が認められる。

  (3) もっとも、Aはあらかじめ軽傷を負うことに同意している。そこで、Aの同意により、35条に基づいて違法性が阻却されないかが問題となる。

2 被害者が法益侵害に同意している場合であっても、法益を侵害する行為が当然に正当化されるわけではない。法益侵害行為が正当化されるためには、その目的が正当であり、手段が相当なものであることを要すると解する。
 そこで、同意傷害については、同意の存在、同意を得た動機・目的、傷害の手段・方法、傷害の部位・程度等の諸般の事情を考慮し、違法性阻却の可否を判断すべきであると解する。

3 確かに、A自身が軽傷を負うことについて同意しており、現実に生じた傷害も同意の範囲内の軽傷にとどまっている。
 しかし、XとAが本件傷害を行った目的は、交通事故を偽装して保険会社から保険金を詐取することにあり、その目的は違法なものである。また、走行中の自動車を意図的に追突させるという方法は、衝突によって生ずる傷害の部位や程度を正確に制御することが困難であり、軽傷を生じさせる手段として相当なものとはいい難い。
 したがって、Aの同意が存在することを考慮しても、本件傷害行為を正当化することはできない。
 よって、35条による違法性阻却は認められない。

4 以上より、XにはAに対する傷害罪(204条)が成立する。

以上

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