【参考答案】
第1 設問(1)について
1 裁判所は、証人甲の公判廷での供述の証明力を争うため、乙の供述を録取したK作成の供述録取書を、刑事訴訟法(以下、法令名省略)328条に基づき証拠として採用することができるか。同条により許容される証拠の範囲が問題となる。
2 328条は、公判期日における供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判期日における供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨の規定である。そのため、他者による矛盾供述を用いる場合には、その供述内容が真実であることが前提となり、伝聞法則が骨抜きになるおそれがある。
したがって、328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした本人の自己矛盾供述に限られると解する。
3 本件において、検察官が取調べを請求した供述録取書は、証人甲自身の供述ではなく、第三者である「乙の」供述を録取したものである。したがって、甲の自己矛盾供述を内容とする証拠には当たらないため、328条が許容する証拠には該当しない。
4 よって、裁判所は、乙の供述を録取したK作成の供述録取書を328条の弾劾証拠として採用することはできない。
第2 設問(2)前段について
1 裁判所は、自己矛盾供述の存在を証明する書面として、供述者甲の署名・押印がない捜査報告書を328条により証拠採用できるか。
2 自己矛盾供述の存在は、実質証拠の証明力に大きな影響を及ぼすため、その立証には刑事訴訟法の定める厳格な証明を要すべきである。
したがって、自己矛盾供述を録取した書面を証拠として許容するには、録取者が原供述を正確に書面化したかという録取過程の伝聞性を解消して証拠能力を具備する必要があり、原供述者の署名又は押印が不可欠であると解する。
3 本件の捜査報告書は、甲の自己矛盾供述を録取した供述録取書であるが、作成者である司法警察員Lの署名・押印があるのみで、原供述者である甲の署名・押印が存在しない。そのため、321条1項柱書が定める供述録取書の要件を充足しておらず、自己矛盾供述の存在について厳格な証明があったとはいえない。また、署名・押印と同視し得る事情もない。
4 よって、裁判所は、設問(2)前段の捜査報告書を328条により証拠採用することはできない。
第3 設問(2)後段について
1 裁判所は、公判期日における証言よりも「後」になされた自己矛盾供述を録取した書面を、328条の弾劾証拠として証拠採用できるか。自己矛盾供述の時期が問題となる。
2 321条1項2号後段と異なり、328条は「別の機会にしたその者の供述」と規定し、時期について何らの限定もしていない。また、公判期日における供述よりも後になされた自己矛盾供述であっても、証言の証明力を減殺する機能に違いはない。
したがって、公判期日における証言後の自己矛盾供述も、328条により証拠とすることが許容されると解する。
3 本件供述録取書は、甲の証言後になされた供述を録取したものであるが、公判期日における証言と矛盾する甲自身の供述を内容としている。また、甲の署名・押印が存在するため、供述を録取した書面としての厳格な要件も満たしている。
4 よって、事後になされた自己矛盾供述であっても弾劾証拠として許容されるため、裁判所は、設問(2)後段の供述録取書を328条により証拠採用することができる。
第4 設問(3)について
1 裁判所は、甲の自己矛盾供述が録音されたICレコーダーを328条により証拠採用することができるか。供述録取書等とは異なり、原供述者の署名・押印を観念できない録音媒体が、328条により許容される「証拠」に当たるかが問題となる。
2 判例は、328条により許容される証拠として、自己矛盾供述が記載された供述書や供述録取書のほか、「これらと同視し得る証拠」を挙げている。
そして、ICレコーダー等の記録媒体への録音は、供述者の供述が機械的正確性をもって直接記録されるものであり、書面のように録取者の知覚・記憶・表現・叙述という供述過程を経ないため、作成過程に人為的な誤謬が介入するおそれがない。
したがって、ICレコーダーは、、録取過程の正確性を担保するための原供述者の署名・押印がなくとも、「これらと同視し得る証拠」に当たると解する。
3 本件のICレコーダーは、証人甲の捜査段階における自己矛盾供述を司法警察員Mが直接録音したものである。したがって、機械的正確性をもって記録されており、録音過程に誤謬が介入するおそれはないため、原供述者の署名・押印がなくても「これらと同視し得る証拠」に該当する。
4 よって、裁判所は、設問(3)のICレコーダーを328条により証拠採用することができる。
以上

コメント