目次
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 X社は、監査役Yを適法に解任するためには、株主総会の特別決議を経る必要がある(会社法(以下法令名省略)309条2項7号、339条1項)。
2(1) 解任されたYは、任期中の報酬を請求できるか。339条2項は、解任された者は、その解任について「正当な理由」がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができると規定する。
そこで、本件解任に「正当な理由」が認められるか。その意義が明らかでなく問題となる。
(2) 339条2項の趣旨は、株主に対する解任自由の保障と役員の任期に対する期待保護との調和を図る点にある。
そこで、「正当な理由」とは、不正行為や病気等の職務執行が困難と解される事由等、当該役員に職務を行わしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合をいうと解する。
(3) Yは、財務や会計の知識に乏しいにもかかわらず、自ら研鑽を積んだり専門家の助言を仰いだりすることなく、経理部長Bの説明を鵜呑みにし、独自の調査を一切行わなかった。これは、監査役としての善管注意義務(330条、民法644条)に違反し、職務遂行能力を著しく欠くといえる。
また、X社の取締役会は週1回開催されていたにもかかわらず、Yは月1回程度しか出席していなかった。これは、監査役の取締役会出席義務(383条1項)の不履行にあたる。
これらの事実は、Yに監査役としての適格性が欠如していることを示すものであり、Yに職務を継続させることが困難な客観的状況、すなわち「正当な理由」があると認められる。
(4) したがって、本件解任には「正当な理由」があるため、YはX社に対し、339条2項に基づく損害賠償を請求することはできない。
第2 小問(2)について
1(1) X社は、Yに対し、任務懈怠に基づく損害賠償請求(423条1項)をすることができるか。
(2) その要件は、①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失)である。
2 まず、YはX社の監査役であるから、「役員等」に当たる(要件①充足)。
次に、監査役は取締役の職務執行を監査する義務(381条1項)及び取締役会への出席義務(383条1項)を負う。しかし、Yは財務・会計の知識不足を放置し、専門家の助言を求める等の措置を講じず、経理部長Bの説明を鵜吞みにして独自の調査を一切行わなかった。また、週1回の取締役会に月1回しか出席していない。これは、監査役としての善管注意義務(330条、民法644条)に違反するものであり、任務懈怠が認められる(要件②充足)。
そして、X社にはBの横領等による5000万円の損害が発生している(要件③充足)。
もっとも、経理部長Bによる横領と粉飾決算の手口は、X社取締役全員が粉飾決算に気づかないほど巧妙なものであった。そのため、仮にYが善管注意義務を尽くして会計監査を行っていたとしても、この巧妙な手口による粉飾決算を発見できなかった可能性が高いと評価できる。
したがって、Yの任務懈怠と、X社に生じた5000万円の損害との間には因果関係が認められない(要件④不充足)。
3 以上より、X社はYに対して、任務懈怠に基づく損害賠償をすることができない。
なお、仮に因果関係が認められる場合、Yの上記任務懈怠は、自らの能力不足を放置し職務を放棄したに等しい著しい注意義務違反であり、「重大な過失」に当たる。そのため、責任限定契約(427条1項)による免責は認められない。
以上
【悩みどころ】
解説3-第3段落目では、因果関係が認められない可能性がある等して、Yの423条責任を否定する方向性の記述がなされていた。そのため、参考答案も因果関係が認められないとして、Yの423条責任を否定した。
もっとも、問題文には責任限定契約の締結についての記述がある。これは、責任限定契約の条文理解や、「重過失」のあてはめができるかを問いたいと考えている可能性が高いと思われる。423条責任を否定した場合、責任限定契約について論じる必要性がないため、論点落ちのリスクが考えられる。
そのため、本参考答案では、余事記載ともいえそうであるが、第2-3の結論の後に、なお書きとして付記することとした。

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