目次
【答案構成】
第1 小問(1)について
1 問題提起(Aの解任に「正当な理由」(339条2項)が認められるか。)
2 規範定立(「正当な理由」の意義)
3 当てはめ(Aは重篤な病気に罹患+自ら療養に専念する意思→所有する甲社株式の全部をBに譲渡+甲社代表取締役辞任。=Aが病気という身体上の事由により取締役としての職務執行が客観的に困難な状況にあった。
A自身による甲社経営から離脱する明確な意思表示→甲社がAを取締役解任→A自身の意思を追認し、Aに取締役としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない。
→Aの解任は、Aの心身の故障という客観的な事由に基づくものであり、「正当な理由」が認められる。)
4 結論
第2 小問(2)について
1(1) 問題提起(株主Dは、取締役解任の訴えをもって、Cの解任を請求することが認められるか。)
(2) 当てはめ(訴訟要件:D=甲社の発行済株式8000株のうち2500株を保有する「株主」(854条1項)。「当該役員」Cを「解任する旨の議案が株主総会において否決され」ている。甲社は非公開会社=6ヶ月の保有期間要件は課されない(854条2項)。Dは、甲社及び役員Cを被告(855条)として、本件訴えを提起することができる。)
(3) 問題提起(Cの行為が解任事由たる「職務の執行に関し不正の行為」(854条1項)に該当するか。)
2(1) 規範定立(「不正の行為」(854条1項)の意義)
(2) 当てはめ(Cは、取引先と通謀の上で取引価格を水増し→差額分を自己の利益として受領。=会社の財産を直接的に搾取するもの→会社の利益を犠牲に自己の利益を図る忠実義務違反行為に該当。
→Cの行為は「不正の行為」に該当。
3(1) 問題提起(Cの不正行為は、Cが取締役に再任される2021年より前の事由である。かかる再任前の行為を解任事由とすることができるか。)
(2) 規範定立(再任前の事由と解任請求の可否)
(3) 当てはめ(Cの不正行為が株主に発覚したのは2024年→2021年の再任決議当時、株主であるDは不正行為を知らなかった。
→例外の場合に該当し、本件解任請求を妨げない。)
4 結論
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 株主総会の解任決議によって取締役を解任されたAは、会社法(以下、法令名省略)339条2項に基づき、甲社に対して残存任期期間中の報酬相当額の損害賠償を請求することが認められるか。Aの解任に「正当な理由」(339条2項)が認められるか否かが問題となる。
2 339条2項の趣旨は、株主に対する解任自由の保障と取締役の任期に対する期待保護という両者の調和を図る点にある。
そこで、「正当な理由」とは、不正行為や病気等の職務執行が困難と解される事由等、当該取締役に経営を行わしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合をいうと解する。
3 本問において、Aは重篤な病気に罹患し、自ら療養に専念する意思のもと、所有する甲社株式の全部をBに譲渡し、かつ、甲社の代表取締役を辞任している。これらの事実から、Aが病気という身体上の事由により取締役としての職務執行が客観的に困難な状況にあったと解される。
また、A自身が株式譲渡及び代表取締役辞任という形で、甲社の経営から離脱する明確な意思表示を行っている状況下で、甲社がAを取締役から解任することは、Aが自ら作り出した客観的な状況及びA自身の意思を追認するものであり、会社においてAに取締役としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ないといえる。
したがって、Aの解任は、Aの心身の故障という客観的な事由に基づくものであり、「正当な理由」が認められる。
4 よって、Aの甲社に対する損害賠償請求は認められない。
第2 小問(2)について
1(1) 株主Dは、取締役Cの解任を求める株主提案が株主総会で否決されたことを受け、854条1項に基づく取締役解任の訴えをもって、Cの解任を請求することが認められるか。
(2) Dは、甲社の発行済株式8000株のうち2500株を保有する「株主」(854条1項)であり、「当該役員」Cを「解任する旨の議案が株主総会において否決され」ている。また、甲社は非公開会社であるため、6ヶ月の保有期間要件は課されない(854条2項)。そのため、Dは、甲社及び役員Cを被告(855条)として、本件訴えを提起することができる。
(3) そこで、Cの行為が解任事由たる「職務の執行に関し不正の行為」(854条1項)に該当するか。
2(1) 「不正の行為」とは、取締役が忠実義務(355条)等の義務に違背し、会社に損害を生じさせる故意の行為をいうと解する。
(2) Cは、取引先と通謀の上で取引価格を水増しさせ、その差額分を自己の利益として受領している。かかる行為は、会社の財産を直接的に搾取するものであり、会社の利益を犠牲に自己の利益を図る忠実義務違反行為に当たる。
したがって、Cの行為は「不正の行為」に該当する。
3(1) もっとも、Cの不正行為は、Cが取締役に再任される2021年より前の事由である。かかる再任前の行為を解任事由とすることができるか。
(2) この点、株主が役員の不正行為の事実を認識しながら、株主総会において当該役員を再任した場合には、株主は当該行為に対する責任を宥恕したものと解される。
したがって、その後に当該行為を解任事由として主張することは、信義則に反し許されないのが原則である。
もっとも、株主が不正の事実を全く知らずに再任決議をした場合には、株主の信頼を裏切るものであり、宥恕があったとはいえない。したがって、再任後に当該不正行為が発覚した場合には、これを解任事由とすることができると解すべきである。
(3) 本問において、Cの不正行為が株主に発覚したのは2024年であり、2021年の再任決議当時、株主であるDはこれを知らなかった。
したがって、Cの行為が再任前のものであることは、本件解任請求を妨げない。
4 以上より、Cには解任事由が存在し、Dの提起した訴えは訴訟要件・本案勝訴要件をいずれも満たす。よって、Dの請求は認められる。
以上

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