参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題21 支配株主の異動を伴う新株発行

目次

【答案構成】

第1 小問(1)について

 1(1) 導入(請求権の特定:新株発行の差止請求(210条1号)→差止請求の要件:①法令違反、②不利益を受けるおそれ→論点:本件で株主総会決議を欠くことが要件①「法令に違反」にあたるか)

  (2) 問題提起(前提:特定引受人該当 → 原則として株主総会決議が必要→Y社の想定反論:206条の2第4項但書「緊急の必要がある」に該当→「緊急の必要があるとき」の意義が問題となる。)

2 規範定立(「緊急の必要があるとき」の意義)

 3(1) 当てはめ1(要件①:Y社の危機的状況を認定(Y社に有利な事実)→存立が危ぶまれるほどではないと評価(Y社に不利な事実:X社との取引は売上の半分にすぎない、Z社との協議の存在)→「緊急の必要があるとき」には当たらない→株主総会決議を欠くことは法令違反(要件①充足))

  (2) 当てはめ2(要件②:持株比率の低下・影響力の希釈化 →「不利益を受けるおそれ」認定(要件②充足))

4 結論

第2 小問(2)について

1 問題提起(XのYに対する、本件新株発行に関する新株発行無効の訴え(828条1項2号)は認められるか。)

 2(1) 規範(新株発行無効の訴えの要件:(ⅰ)株主等(828条2項2号)、(ⅱ)発行の効力発生日から6箇月以内であること(828条1項2号)、(ⅲ)無効事由の存在)

  (2) 規範定立(要件(ⅲ):新株発行の無効事由)

 3(1) 当てはめ1-1(原則:公開会社における内部手続の瑕疵(株主総会決議の欠缺)≠無効事由→本件の特殊性(206条の2の株主総会決議は、支配権の異動に関する重要手続→同規定違反はその趣旨を没却するものとして「重大な法令違反」に当たる)

  (2) 当てはめ1-2(本件新株発行は株主総会決議に諮ることなく行われた→206条の2違反。+一度は株主総会を招集する姿勢を見せながら、最終的にはこれを開催しなかった→Xらによる新株発行の差止請求(210条)という事前の救済手段を講じる機会を不当に奪った→極めて重大な瑕疵→したがって、「重大な法令違反」に該当(要件(ⅲ)充足))

  (3) 当てはめ2(要件(ⅰ)・(ⅱ))

4 結論

 

【参考答案】

第1 小問(1)について

 1(1) XはYに対し、本件新株発行の差止請求(会社法(以下法令名省略)210条1号)を行うものと考える。
 その要件は、①新株発行が「法令に違反」すること、②当該株主が「不利益を受けるおそれ」があること(210条1号)である。
 そこで、本件新株発行が株主総会決議を経ずに行われようとしている点をもって、要件①「法令に違反」するといえるか。

  (2) 前提として、本件新株発行により、引受人であるZは発行済株式総数の過半数を有するに至るから、「特定引受人」に当たる(206条の2第1項)。
 そして、X及びAという総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が本件新株発行に反対の通知をしている以上、Y社は、原則として、払込期日前日までに株主総会の承認決議を経なければならない(206条の2第4項本文)。
 これに対し、Y社は、206条の2第4項但書に基づき、不正会計事件の影響による資金繰りの悪化等を理由に「会社の事業の継続のため緊急の必要がある」と主張し、株主総会決議は不要であるため、株主総会に諮ることなく本件新株発行を行うことは、法令違反に当たらないと反論すると考える。
 そこで、Y社の状況が、206条の2第4項但書にいう「緊急の必要があるとき」に当たるか、その意義が明らかでないため問題となる。

2 206条の2が、支配権の異動を伴う新株発行に株主総会決議を要求した趣旨は、会社支配権のような重要事項の決定を、会社の実質的所有者である株主自身の意思に委ねる点にある。
 そうだとすれば、この原則に対する例外を定めた同条4項但書は、株主の重要な利益を保護するという法の趣旨を没却しないよう、厳格に解釈すべきである。
 したがって、「会社の事業の継続のため緊急の必要があるとき」とは、単に資金繰りが厳しいといった状況では足りず、倒産の危機が迫っている場合など、株主総会の決議を経ることなく募集株式を発行しなければ、会社の存立自体が危ぶまれるような、極めて限定的な場合を指すと解する。

 3(1) 本件では、不正会計事件を原因として銀行からの融資を断られていること、そして、売上げのほぼ半分を占めるX社との取引がいつ停止されるか分からない状況であることからすれば、Y社の資金繰り及び事業運営が極めて困難であることは間違いない。
 しかし、売上の半分はX社以外との取引であり、仮にX社との取引が停止されたとしても、直ちに会社の事業継続が不可能になるとまでは断定できない。また、Y社はすでにZ社との間で出資に関する協議を開始できている。このことは、他の選択肢を模索し、交渉するだけの時間的な猶予が残されていることを示しており、会社の存立自体が危ぶまれるほどに事態が切迫しているとはいえない。
 したがって、Y社の状況は、206条の2第4項但書にいう「緊急の必要があるとき」には当たらないから、Y社が株主総会決議を経ずに行おうとしている本件新株発行は、206条の2第4項本文に違反する(要件①充足)。

  (2) また、本件新株発行によってXの持株比率は著しく低下し、会社に対する影響力が希釈化されるから、「不利益を受けるおそれ」も認められる(要件②充足)。

4 よって、XはYに対し、本件新株発行の差止めを請求することが認められる。

第2 小問(2)について

1 XのYに対する、本件新株発行に関する新株発行無効の訴え(828条1項2号)は認められるか。

 2(1) 新株発行無効の訴えの要件は、(ⅰ)株主等(828条2項2号)、(ⅱ)発行の効力発生日から6箇月以内であること(828条1項2号)、(ⅲ)無効事由の存在である。

  (2) 要件(ⅲ)無効事由につき、明文の規定はないものの、取引の安全と法的安定性を保護する観点から、その無効事由は、新株発行の効力に影響を及ぼすような重大な法令・定款違反に限られると解する。

 3(1) 公開会社における株主総会決議の欠缺は、会社内部の意思決定手続の瑕疵であり、取引の安全を重視する観点から、原則として無効事由にはならない。
 しかし、本件で問題となっている206条の2第4項の株主総会決議は、単なる内部手続とは性質が異なり、支配権の異動という、株主の地位の根幹に関わる事項について、株主の意思を問うために特別に設けられた手続きである。
 したがって、同規定に違反することは、その趣旨を没却するものであり、「重大な法令違反」に当たる。

  (2) 本件においてY社は、206条の2第4項本文が要求する株主総会決議を経ずに本件新株発行を行っており、同法令に明確に違反している。
 加えて、Y社は、XやAからの反対を受けて一度は株主総会を招集する姿勢を見せながら、最終的にはこれを開催しなかった。このようなY社の行為は、Xらが新株発行の差止請求(210条)という事前の救済手段を講じる機会を、事実上、不当に奪ったものと評価できる。このような株主の権利を軽視する一連の手続の瑕疵は、全体として極めて重大な瑕疵に当たる。
 したがって、本件新株発行には無効事由となる「重大な法令違反」が存在する(要件(ⅲ)充足)。

  (3) また、Xは株主であり(要件(ⅰ)充足)、期間内の提起であると考えられるから(要件(ⅱ)充足)、本件新株発行に関する新株発行無効の訴えの要件を充足する。

4 よって、Xの提起した本件新株発行無効の訴えは認められる。

以上

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