目次
【答案構成】
第1 小問(1)について
1 Xの請求権の特定(差止請求訴訟と仮処分申立て)→「不利益を受けるおそれ」(210条柱書)要件を認定→問題提起(「著しく不公正な方法」(210条2号)に当たるか)
2 規範定立(「著しく不公正な方法」の意義、判断基準(主要目的ルール))
3(1) 当てはめ1(支配権争いの存在認定)
(2) 当てはめ2(支配権への影響(本件新株発行がXの持株比率を大幅に低下させる)→経営陣の目的の推認(Y社経営陣の支配権維持目的が推認される))
(3) 当てはめ3(本件事業計画から、資金調達目的もあり→いずれが主要な目的かは、事業計画の具体性・合理性から判断)
4 結論(事業計画の合理性が乏しいことをXが主張・立証できれば、差止請求が認められる)
5 仮処分について(本案の差止請求権=被保全権利。新株発行後の回復困難性=保全の必要性。)
第2 小問(2)について
1 問題提起(新株予約権発行差止請求の根拠条文が247条であることを提示)
2 規範(差止事由(247条2号)も新株発行の場合と同様。判断基準として主要目的ルールが妥当)
3 当てはめ(小問(1)と同様)・結論(小問(1)と同様に事業計画の合理性次第)
第3 小問(3)について
1 問題提起(公募増資の場合に、不公正発行の判断が影響を受けるか)
2 規範(小問(1)と同様、判断基準として主要目的ルールが妥当)
3 当てはめ(公募増資の性質(引受人が不特定多数)→支配権維持目的と発行手段との結びつきが第三者割当増資に比べて弱まる→結果として、相対的に支配権維持が主要な目的とは認定されにくい)
4 結論(公募増資の場合は不公正発行とは認められにくく、小問(1)とは結論が異なる可能性がある)
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 XはY社に対し、本件新株発行の差止請求訴訟(会社法(以下法令名省略)210条)を提起し、併せて、本件新株発行差止めの仮処分(民事保全法23条2項)の申立てを行うものと考える。
本件新株発行により、Xの持株比率は41.7%から約22%へと大幅に低下し、株主総会の特別決議を単独で否決できる地位(309条2項)を失う。これは財産的価値、議決権割合の双方において「株主」Xが「不利益を受けるおそれがある」(210条柱書)といえる。
また、Y社は公開会社(2条5号)であるから、第三者割当てによる募集株式の発行は、199条3項の有利発行に当たらない限り、取締役会の決議によって行うことができる(201条1項)。本件では、その払込金額はとくに有利なものではなかった(199条3項)ことから、取締役会が開催され、募集事項の決定(199条1項)及びその旨の公告(201条4項)という所定の手続が履践されており、法令・定款違反(210条1号)は認められない。
そこで、本件新株発行が「著しく不公正な方法」(210条2号)に当たるか、その意義が問題となる。
2 「著しく不公正な方法」とは、不当な目的達成の手段として新株発行を用いる場合をいう。
具体的には、支配権争いのある場合、経営支配権の維持確保を主要な目的として新株発行する場合をいう。なぜなら、権限分配秩序に反するためである。
3(1) Y社において、筆頭株主Xと経営陣との間で経営をめぐる確執が生じ、役員構成に関しても意見が対立している。したがって、会社の経営支配権をめぐる紛争が存在するといえる。
(2) 本件新株発行は、Xの持株比率を41.7%から約22%にまで低下させるものであり、Xの支配権に重大な影響を及ぼす。他方、Y社経営陣は、投資ファンドAを約45%の筆頭株主として迎えることで、Xの影響力を相対的に低下させ、自らの経営支配権を維持・確保しようとする目的があったと強く推認される。
(3) もっとも、Y社は、本件新株発行によって得た800億円の資金を、B社との業務提携による新規事業に充てるという事業計画を公表しており、正当な資金調達目的があったと主張することが考えられる。
ここで、Y社経営陣の支配権維持目的と、Y社が主張する資金調達目的のいずれが「主要な目的」であるかを判断するにあたり、Y社が公表した本件事業計画の具体的内容や合理性が極めて重要な判断要素となることになる。
本件事業計画が、Y社の企業価値向上に資するものであり、具体的かつ合理的な内容で、その実現のために800億円という大規模な資金調達が真に必要であると認められるならば、資金調達目的が主要な目的であると判断され、不公正発行にはあたらない。一方、本件事業計画の内容が抽象的であったり、その実現可能性や収益性に乏しいなど、合理性を欠くものであれば、支配権維持目的を正当化するための方便にすぎないと評価され、本件新株発行の主要な目的はY社経営陣の支配権維持にあると認定され、「著しく不公正な方法」による発行にあたることになる。
4 したがって、Xは、本件事業計画の具体的内容や合理性が乏しいことを主張・立証することができれば、本件新株発行の差止めを請求することができる(210条2号)。その主張・立証に際しては、本件事業計画の具体的内容が結論を左右する重要な問題となる。
5 以上の検討により、本件事業計画の合理性が乏しい場合には、XのY社に対する新株発行差止請求(210条)が認められることになる。これは、差止仮処分命令申立てにおける「被保全権利」にあたる。
また、本件新株発行が一度行われてしまうと、多数の利害関係人が生じ、その効力を後から覆すことは極めて困難となるから、差止めを命ずる確定判決を待っていては目的を達することができない。したがって、「保全の必要性」も認められる。
よって、Xによる本件新株発行差止めの仮処分申立ても認容されるものと考える。
第2 小問(2)について
1 Y社の行為が新株予約権の発行であった場合、XはY社に対し、247条に基づき、新株予約権発行の差止め請求をすることが考えられる。
2 会社法247条2号は、差止事由として、新株発行の場合と同様に「著しく不公正な方法」による場合を規定している。
新株予約権も、その権利が行使されれば新株が発行され、既存株主の持株比率を希釈化させる効果を持つ点では新株発行と変わらない。したがって、新株予約権の発行が「著しく不公正な方法」によるものか否かを判断するにあたっても、新株発行の場合と同様に主要目的ルールが妥当すると解すべきである。
3 したがって、小問(1)における検討と同様に、本件事業計画の具体性・合理性が乏しい場合には、主要な目的はY社経営陣の支配権維持にあると認定され、不公正発行として差止めが認められる。
第3 小問(3)について
1 Y社が行った新株発行が、第三者割当増資ではなく公募増資であった場合、不公正発行該当性の判断は影響を受けるか。
2 公募増資の場合においても、当該新株発行が「著しく不公正な方法」(210条2号)にあたるか否かの判断基準として、主要目的ルールが妥当する。
3 公募増資は、不特定多数の者を対象に新株を取得させる形式の募集株式発行である。
その性質上、新たに株主となる者が、必ずしも現経営陣に対して友好的であるとは限らないから、Xの持株比率を低下させる効果は認められるが、Y社経営陣の支配権が確実に維持されるとは限らない。そのため、Y社経営陣の支配権維持という目的と、新株発行という手段との間の結びつきが、第三者割当増資の場合に比べて弱くなる。
その結果、資金調達目的が相対的に重視され、支配権維持が「主要な目的」であるとの認定は、第三者割当増資の場合よりも困難となる。
4 よって、Y社が行った新株発行が公募増資であった場合、不公正発行とは認められにくくなり、(1)の問題とは結論が異なる可能性がある。
以上

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