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【参考答案】
1(1) X銀行は、本件競売手続の取消決定に対し、まず、A社の商事留置権(商法(以下法令名省略521条))は成立していないとの法的主張を行うことが考えられる。
(2) そこで、商事留置権の要件は、①当事者双方が商人であること、②当事者双方のために商行為となる行為によって生じた債権であること、③債権の弁済期が到来していること、④債務者所有の「物」または「有価証券」であること、⑤債務者との間における商行為によって、その目的物が自己の占有に帰したことである。
(3) Yは、個人で海外貿易事業を行う商人であり、A社も株式会社であるから(会社法5条、4条1項)、①を充足する。また、本件建築請負契約は双方にとって商行為となるから、②を充足し、請負代金債権の弁済期も到来しているといえる(③充足)。
そして、本件土地は債務者Yの所有する不動産であるため、④も充足する。
そこで、「自己の占有に帰した」とは、いかなる状態をいうか、条文上明らかでなく問題となる。
2 この点、商事留置権は目的物と被担保債権との牽連性を要しない強力な権利であり、その成立を安易に認めれば第三者の取引安全を著しく害する。
そこで、商法521条が規定する「自己の占有に属した」といえるためには、自己のためにする意思をもって目的物が事実的支配に属すると認められる客観的状態、すなわち、請負契約等とは独立した占有状態にあることを要すると解すべきである。
3 本件において、A社は建物建築という請負契約に基づく一時的な事実行為のために本件土地を利用しているにすぎず、これは注文主であるYの占有補助者としての使用にすぎない。したがって、A社に本件土地に対する独立した占有は認められず、⑤の要件を充足しない。
よって、A社の本件土地に対する商事留置権は成立していない。
4(1) 上記、商事留置権不成立の主張に対しては、521条の文言上、占有の趣旨や目的は限定されていないとして、商事留置権の成立が認められるとの反論が考えられる。
そこで、X銀行は、予備的に仮にA社の商事留置権が成立するとしても、先に設定登記を備えた抵当権者たるX銀行にはこれを対抗できないとの主張を行うことが考えられる。
(2) 商事留置権は目的物と被担保債権との間の牽連性を要求しないため、意図的に高額な請負代金債権を発生させて不動産に対する留置権を主張すれば、抵当権等の担保権の実効性を容易に害することができる。かかる事態は、帰責性のない第三者に不測の損害を与え、不動産担保法制の基本的な信用秩序を著しく乱すため許されない。
そこで、抵当権設定登記後に成立した不動産に対する商事留置権については、民事執行法59条4項の「使用及び収益をしない旨の定めのない質権」と同様に扱い、同条2項の「対抗することができない不動産に係る権利の取得」にあたるものとして、先に登記を備えた抵当権者には対抗できないと解すべきである。
(3) 本件において、X銀行が本件土地に抵当権を設定し、その登記を具備した後に、A社は本件土地に対する占有を開始し、商事留置権を取得している。
したがって、A社の商事留置権は、X銀行に対抗することができない。
以上

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