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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題25 取締役等の説明義務

目次

【答案構成】

 1 設問に対する応答(本件決議の取消しの訴えを提起した場合の主張:自らの質問に対するDの回答が取締役等の説明義務違反として、「決議の方法が法令……違反」(831条1項1号)するという取消事由に当たる。)

2(1) Y社からなされ得る反論(退職慰労金の額はプライバシーに関わる事項=「その他の者の権利を侵害することとなる場合」(会社法施行規則71条2号)該当→説明を拒んだことには「正当な理由」(314条但書)がある。)
 問題提起(説明義務が認められるか。)

(2) 規範定立(説明義務を拒む「正当な理由」)

(3) 当てはめ

3(1) 問題提起(Dが負う説明義務は、いかなる程度の説明をすれば果たされるか。)

(2) 規範定立(説明義務の程度)

(3) 当てはめ(Dは、基準の存在等について何ら具体的な説明をしていない+質問を一方的に打ち切っている→平均的株主は合理的な判断が不可能。=Dの説明は「必要な説明」を尽くしておらず、314条に違反する。)

4(1) 問題提起(裁量棄却(831条2項)が認められないか。)

(2) 当てはめ(株主に対して合理的な判断材料を提供することは、株主の議決権行使に実効性を持たせるための前提→説明義務違反は、「違反する事実が重大でない」とはいえない。
 Dが説明義務を果たしていれば、議案に反対した可能性は十分に考えられる→当該違反が「決議に影響を及ぼさない」と断定することはできない。
=いずれの要件も充足しないから、裁量棄却否定)

 5 結論

 

【参考答案】

 1 Xは、自らの質問に対するDの回答が取締役等の説明義務(会社法(以下法令名省略)314条本文)違反として、「決議の方法が法令……違反」(831条1項1号)するという取消事由に当たると主張すべきである。

2(1) Xは、本件総会の議題である「退任取締役に対する退職慰労金贈呈の件」について、その金額という「特定の事項」の説明を求めるものであるから、原則として、代表取締役Dは説明義務を負う(314条本文)。
 これに対し、Y社は、各取締役の退職慰労金の額はプライバシーに関わる事項であり、これを説明することは「その他の者の権利を侵害することとなる場合」(会社法施行規則71条2号)に当たり、説明を拒んだことには「正当な理由」(314条但書)があると反論すると考える。
 そこで、説明義務が認められるか問題となる。

(2) 退職慰労金は取締役の報酬(361条1項)に当たり、その決定を株主総会に委ねた趣旨は、取締役によるお手盛りの弊害を防止し、会社の所有者である株主のコントロールを及ぼす点にある。この趣旨を実質的に確保するため、株主には、退職慰労金議案について合理的な判断を下せるだけの情報提供を受ける権利が認められる。

(3) したがって、Xの質問について、説明義務を負わない「正当な理由」は認められない。

3(1) では、Dが負う説明義務は、いかなる程度の説明をすれば果たされたといえるか。

(2) 314条が説明を要求する趣旨は、株主の議決権行使の実効性を担保する点にある。
 したがって、「必要な説明」とは、平均的な株主が、議題について合理的な判断をするために客観的に必要な範囲の説明を指すと解すべきである。

(3) 本件では、退職慰労金の額の決定を取締役会に一任する議案について、株主がその一任の可否を合理的に判断するためには、お手盛りの弊害を防止するという361条1項の趣旨から、少なくとも支給額を一義的に算出できるような確定した基準の存在やその内容、株主がそれを知りうる状況にあることが説明されなければならない。
 にもかかわらず、Dは、Xからの質問に対し、「個人に関わる問題であること、および慣例がないこと」を理由とするのみで、退職慰労金の金額を一義的に算出できる基準の存在やその内容、株主がそれを知りうる状況にあることについて、何ら具体的な説明をしていない。それどころか、Dは「時間でございます。私は適法と考えております」と述べて、一方的にXの質問を打ち切っている。
 このような説明では、平均的な株主が、退職慰労金の決定を取締役会に一任するという本件議案の可否について、合理的な判断をすることは到底不可能であるといえる。
 したがって、本件株主総会決議には、314条の説明義務違反が認められ、「決議の方法が法令……違反」する取消事由が認められる。

4(1) もっとも、裁量棄却(831条2項)が認められないか。

(2) 株主に対して合理的な判断材料を提供することは、株主の議決権行使に実効性を持たせるための前提となる。したがって、本件における説明義務違反は、「違反する事実が重大でない」とはいえない。
 また、Dが退職慰労金の額やその算定基準について説明義務を果たしていれば、本件事件による業績悪化という状況下で、X以外の株主もその金額の妥当性に疑問を抱き、議案に反対した可能性は十分に考えられる。そうだとすれば、当該違反が「決議に影響を及ぼさない」と断定することはできない。
 したがって、裁量棄却は認められない。

 5 よって、本件決議の取消しの訴えは認められる。

以上

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