目次
【答案構成】
1 設問に対する応答(Xは、Y社が本件定款変更提案を株主総会の目的事項としなかったことが、招集手続の法令違反に該当するとして、Y社に対し株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起すべき)+検討対象となる決議の提示(①本件取締役会提出議案の可決決議、②本件役員選任提案の否決決議)
2(1) 問題提起(②本件役員選任提案の否決決議は、決議取消しの訴えの対象となるか。)
(2) 規範定立(否決決議の決議取消しの訴え)
(3) 当てはめ(②=否決決議→新たな法律関係を生じない→その取消しを求める訴えは訴えの利益を欠き、不適法却下)
3(1) 問題提起(Y社が本件定款変更提案を上程しなかったことは、違法となるか。)+前提処理(株主提案権の要件充足性)
(2) 規範定立(取締役会の権限事項に介入する定款変更提案の可否)
(3) 当てはめ(本件定款変更提案=弁護士との顧問契約締結の承認、及び当該弁護士に対する報酬を株主総会の決議により決定するというもの→取締役会の権限事項→本件定款変更提案は、株主提案権の範囲を逸脱した内容として不適法=Y社がこれを上程しなかったことは、違法とはならない。)
4(1) 問題提起(3の主張が認められない(=Y社の対応が303条違反として違法)として、当該瑕疵は、本件取締役会提出議案の決議を取り消す理由となるか。)
(2) 規範定立(ある議案に関する瑕疵が他の議案の決議の効力に影響を及ぼすか)
(3) 当てはめ(本件定款変更提案(弁護士との契約)⇔本件取締役会提出議案(役員の選任)→内容上、直接の関連性なし。Y社が議事を不当に操作しようとしたといった特段の事情なし。→瑕疵(=Y社が本件定款変更提案を上程しなかったこと)は本件取締役会提出議案の決議に影響を及ぼさず、取消事由とはならない。
5 結論
【参考答案】
1 Xは、Y社が本件定款変更提案を株主総会の目的事項としなかった(会社法(以下法令名省略)303条、305条)ことが、招集手続の法令違反に該当するとして、Y社に対し株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起すべきである。
取消しの対象となる決議は、①本件取締役会提出議案の可決決議、および②本件役員選任提案の否決決議である。
2(1) まず、②本件役員選任提案の否決決議につき、決議取消しの訴えの対象とすることができるか。
(2) 決議取消しの訴えは、成立した決議の効力を事後的に覆す制度である。そして、議案が否決された場合、何ら新たな法律関係は形成されておらず、取り消すべき決議が存在しない。したがって、否決された議案について、決議取消しの訴えをもって争う訴えの利益は認められないと解する。
(3) 本件役員選任提案は反対多数により否決されており、新たな法律関係を生じさせていない。よって、その取消しを求める訴えは訴えの利益を欠き、不適法却下される。
3(1) Y社が本件定款変更提案を上程しなかったことは、違法となるか。
前提として、Xは、Y社の発行済株式総数の5%を超える株式を設立時から継続して保有しており、株主提案権の持株要件および保有期間要件(303条2項)を満たす。また、総会の4か月前に提案しており、期間要件(303条2項後段)も満たす。議案数も10個以内であり(305条4項)、形式的には適法な提案である。
(2) 取締役会設置会社においては、会社の業務執行に関する意思決定は、迅速かつ専門的な経営判断を可能とするため、取締役会に委ねられている(362条)。そのために、株主総会の権限は、法令または定款に定める事項に限定される(295条2項)。
確かに、定款で株主総会の決議事項とすることができる事項について制限する明文規定はなく、定款で株主総会の権限事項を定めることは可能である。一方、会社法が取締役会の決議事項とすると規定した趣旨を没却するような定款規定は、法の趣旨に反し許されないとする。
したがって、取締役会の本来的な権限を実質的に奪い、会社の機動的な経営を阻害するような、個別の業務執行に介入する定款変更提案は、株主提案権の目的を逸脱するものであり、許されないと解すべきである。
(3) 本件定款変更提案は、弁護士との顧問契約締結の承認、及び当該弁護士に対する報酬を株主総会の決議により決定するというものである。これは、顧問弁護士の選定や報酬決定という個別・具体的な業務執行そのものであり、本来、経営状況や法的リスクを専門的に判断する取締役会が機動的に決定すべき事項である。
かかる事項について、いちいち株主総会の決議を要することとすれば、取締役会の裁量を著しく制約し、会社の機動的な経営を阻害することは明らかである。
したがって、本件定款変更提案は、株主提案権の範囲を逸脱した内容として不適法なものであったといえ、Y社がこれを上程しなかったことは、違法とはならない。
4(1) 仮に、Y社の対応が303条違反として違法であったとして、当該瑕疵は、本件取締役会提出議案の決議を取り消す理由となるか。
ある議案に関する招集手続の瑕疵があった場合であっても、通常は、他の議案の決議の効力に影響を及ぼすものではないことから問題となる。
(2) ある議案に関する招集手続の瑕疵が、他の議案の決議の効力に影響を及ぼすかについては、法的安定性を考慮し、原則として影響を及ぼさないと解すべきである。
ただし、両議案が密接に関連している場合や、会社側が特定の株主提案を不当に排除して議事を操作する意図があったと認められる特段の事情がある場合には、例外的に他の決議の取消事由となり得ると解する。
(3) 本件定款変更提案である弁護士との契約と本件取締役会提出議案である役員の選任は、その内容において直接の関連性はない。また、Y社が議事を不当に操作しようとしたといった特段の事情もうかがえない。
したがって、仮にY社の対応に瑕疵があったとしても、その瑕疵は本件取締役会提出議案の決議に影響を及ぼさず、取消事由とはならない。
5 以上より、Xの提起した訴えのうち、②の否決決議の取消しを求める部分は不適法却下され、①の可決決議の取消しを求める部分も、Y社の対応が適法であるか、仮に違法だとしても決議に影響を及ぼさないため、請求棄却される。
よって、Xの訴えは認められない。
以上

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