参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題18 有利発行・不公正発行と取締役の責任

目次

【答案構成】

第1 小問(1)について

1 問題提起(423条1項の要件を充足するか)

2 規範(①役員等、②任務懈怠、③会社への損害発生、④②・③の間の因果関係、⑤②につき帰責事由があること)

 3(1) 当てはめ1(Y=A社代表取締役→要件①充足)

  (2) 当てはめ2(問題文から新株有利発行であることを引用→株主総会特別決議(199条3項、309条2項5号)の欠缺を指摘→法令違反、忠実義務(355条)違反→②任務懈怠認定。Yが有利発行該当性及び株主総会特別決議を要することを認識しつつ、あえて行わなかった→故意=⑤帰責事由認定)

  (3) 当てはめ3(反対説→差額を損害と捉えるべき+理由付け→③損害認定。任務懈怠行為から損害発生→④因果関係認定)

4 結論

第2 小問(2)について

1 問題提起(429条1項の要件を充足するか、特に株主が「第三者」に当たるか)

 2(1) 規範((ⅰ)役員等、(ⅱ)任務懈怠、(ⅲ)第三者への損害発生、(ⅳ)(ⅱ)・(ⅲ)の間の因果関係、(ⅴ)(ⅱ)について悪意又は重大な過失があること)

  (2) 規範定立(「第三者」に株主が含まれるか)

 3(1) 当てはめ1((要件(ⅰ)・(ⅱ)・(ⅴ)については、小問(1)と共通)

  (2) 当てはめ2(要件(ⅲ):持株比率低下は、株主代表訴訟による回復不可→直接損害性を肯定。株式の希釈化により、経済的価値も200万円分毀損→損害額。X=「第三者」該当、200万円の損害認定。
 要件(ⅳ):Yの任務懈怠行為→直接損害発生→両者の間の因果関係肯定。)

4 結論

 

【参考答案】

第1 小問(1)について

1 株主Xは、A社代表取締役Yが株主総会の特別決議を経ずに有利発行(会社法(以下法令名省略。)199条3項)を行った任務懈怠により、会社に4000万円の損害が生じたと主張し、423条1項に基づき株主代表訴訟(847条)を提起している。そこで、Xの請求が認められるか否かにつき、423条1項の要件充足性が問題となる。

2 423条1項の要件は、①役員等、②任務懈怠、③会社への損害発生、④②・③の間の因果関係、⑤②につき帰責事由があること(428条1項反対解釈)である。

 3(1) Yは、A社の代表取締役であり、①「役員等」に当たる。

  (2) Yは、本件新株発行の払込金額が1株700円であり、公正な払込金額である1株900円に比して特に有利な金額であることを認識していた。にもかかわらず、株主総会特別決議(199条3項、309条2項5号)を意図的に経ることなく、自己の支配権確保の目的で本件新株発行を実行している。これは明確な法令違反であり、忠実義務(355条)に違反するから、②任務懈怠が認められる。
 また、Yは有利発行であること及び株主総会特別決議が必要なことを認識しながらあえて行っており、故意が認められるから、⑤任務懈怠に対する帰責事由も認められる。

  (3) 損害につき、会社は現実に1億4000万円の資金を調達しており、損害はないとの見解もあり得る。
 しかし、Yの任務懈怠がなければ、会社は本来、公正な価額である1株900円で資金を調達できたはずであり、この差額を会社の損害と捉えるべきである。このことは、有利な価額で株式を引き受けた者が会社に対し公正な価額との差額支払義務を負う(212条1項1号)こととも整合する。したがって、4000万円の③損害が会社に発生している。
 また、Yの上記任務懈怠行為によってA社に4000万円の損害が生じていることから、両者の間には④因果関係も認められる。

4 よって、423条1項の要件をすべて充足するから、XのYに対する請求は認められる。

第2 小問(2)について

1 Xは、Yの有利発行により自己の有する株式の価値が希釈化され200万円の損害を被ったと主張し、Yに対し、429条1項に基づく損害賠償請求をしている。
 本請求が認められるかにつき、429条1項の要件を充足するか、特に株主が「第三者」に当たるかが問題となる。

 2(1) 429条1項の要件は、(ⅰ)役員等、(ⅱ)任務懈怠、(ⅲ)第三者への損害発生、(ⅳ)(ⅱ)・(ⅲ)の間の因果関係、(ⅴ)(ⅱ)について悪意又は重大な過失があることである。

  (2) 「第三者」に株主が含まれるかにつき、株主の損害が間接損害の場合、株主は「第三者」には当たらないと解する。なぜなら、間接損害は、株主代表訴訟による会社の損害回復を通じて填補されるべきであり、取締役の二重賠償の危険を回避する必要があるためである。

 3(1) まず、YはA社代表取締役(要件(ⅰ))であり、その任務懈怠(要件(ⅱ))及び悪意(要件(ⅴ))が認められることは、第1-3(1)(2)で検討したとおりである。

  (2) 本件新株発行は、Yが自己の支配権を確保するという不当な目的のために行われたものである。これにより、既存株主Xは、会社に対する議決権割合である持株比率が不可逆的に低下させられている。この持株比率低下は、株主代表訴訟によって会社に損害が填補されたとしても回復し得ない、X固有の損害である。
 そして、この株主の地位への直接的な侵害と一体のものとして、Xの有する株式の希釈化により、経済的価値も200万円分毀損された。この200万円は、Xが被った直接損害の具体的な算定額と評価できる。
 したがって、Xは「第三者」に当たり、200万円の損害が認められる(要件(ⅲ))。
 また、Yの上記任務懈怠行為によって、Xに直接損害が生じていることから、両者の間には(ⅳ)因果関係も認められる。

4 よって、429条1項の要件をすべて充足するから、XのYに対する請求は認められる。

以上

 

【悩みどころ】

 上記参考答案では、小問(1)・(2)共に請求を認めたことから、本問解説4の調整問題が生じている。しかし、仮にこの調整問題を考慮するとしても、それは各請求が認められた後の履行段階における事後的な調整の問題であって、請求自体の当否を判断する本問の結論に影響を与えるものではない。あくまで、本問で問われているのは各請求の当否であることから、参考答案では立ち入らないこととした。

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