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【参考答案】
第1 小問(1)について
1(1) X社は、Y₁・Y₂およびY₃(以下「Yら」という。)に対し、Yらの退社は無効であると主張し、支払った持分払戻金について、不当利得返還請求(民法703条)をすると考える。
(2) 本件において、X社はYらに対し、退社に伴う持分払戻金(以下「本件払戻金」という。)を支払ったことで「損失」を被っている。一方、Yらは本件払戻金を受領したことで「利益」を受けており、両者の間には因果関係が認められる。そこで、Yらの退社が法的に無効であるならば、本件払戻金の支払いは「法律上の原因」を欠くことになり、不当利得返還請求権の要件を充足する。
2(1) 持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合、各社員は、事業年度の終了6か月前までに会社に予告をすることにより、当該事業年度の終わりに退社することができる(会社法(以下法令名省略)606条1項)。
(2) X社は定款で存続期間の定めを置いていない。そして、Yらは、事業年度末である2023年3月31日に退社する旨を、2023年1月初旬に申し出て、了解を得ている。しかし、1月初旬から3月31日までは約3か月しかないため、「6か月前まで」の予告期間の要件を満たしていない。
したがって、Yらの退社は、会社法606条1項に基づく任意退社の要件を欠き、無効となるのが原則である。
3(1) そこで、Yらは「やむを得ない事由」(606条3項)の存在を主張し、退社は認められると反論することが考えられる。
(2) 任意退社は、投下資本の回収や会社債権者に対する責任免脱のため認められている一方、無制限に認めると会社や他の社員が予期せぬ損害を被るおそれがある。そこで、「やむを得ない事由」の有無は、社員の利益と会社の利益とを比較衡量して判断する。
(3) Y₁の高齢化や、Y₂とY₃の後継者問題をめぐる家族間の意見対立が深まっていったことをもって、退社を正当化する事情として主張することが考えられる。
一方で、606条1項が予告期間を定めている趣旨は、会社側が持分の払戻し資金を準備する期間を与える点にある。本件では、Yらが約3か月の予告期間で退社した結果、その払戻しが過大な額であったことも相まって、X社は現に資金繰りが厳しくなったという深刻な不利益を被っている。
これらを比較すると、X社の不利益に比して、Yらの事情が6か月の予告期間を待つことができない切迫した事情とは認められない。
したがって、本件において「やむを得ない事由」(606条3項)の存在は認められず、Yらのこの反論は認められない。
4(1) そこで、Yらは、法定退社事由である「総社員の同意」(607条1項2号)を主張することが考えられる。
(2) X社の総社員は、YらとA・Bの5名である。そして、YらとAの4名で話し合い、了解を得たとされているところ、有限責任社員であるBが、その話し合いに参加し、同意したという事実は認められない。むしろ、Bは後にAから相談を持ち掛けられていることからすると、同意はなかったと考えるのが自然である。
したがって、「総社員の同意」があったとは認められず、Yらは607条1項2号を根拠に退社の有効性を主張することもできない。
5 以上より、Yらの退社は無効であり、本件払戻金の受領は「法律上の原因」を欠くから、X社のYらに対する不当利得返還請求は認められる。
第2 小問(2)について
1(1) 小問(1)と同様に、X社はYらに対し、Yらの退社は無効であると主張して、支払った持分払戻金につき不当利得返還請求(民法703条)をすると考える。
(2) この請求に対し、Yらは「社員の過半数の同意によって退社できる旨の規定」(以下、「本件定款規定」という。)に基づき、退社は有効であると反論すると考えられる。そこで、X社としては、本件定款規定は、法定退社事由であり、社員の意思に反して退社させる「除名」(607条1項8号)に規定される厳格な事由と訴えの手続(859条)を潜脱するものとして、無効であると再反論することが考えられるところ、このような主張が認められるか。
2(1) この点、「除名」に厳格な事由と訴えによることが要求されている趣旨は、持分会社の社員たる地位は、人的な信頼関係に基づく共同事業者としての地位であり、この地位を一方的に奪う事のできる重大な効果を有する除名について、多数派による濫用を防止し、社員の地位を不当に奪われないよう手厚く保護する点にある。
したがって、定款規定が、実質的に社員の意思に反する地位の剥奪を可能にするものであり、かつ、社員保護のための強行規定の趣旨を潜脱するものと認められる場合には、当該定款規定は強行規定に違反し、無効になると解すべきである。
(2) 本件において、Yらは後継者問題の収拾策として、自ら退社することを申し出て、その了解を得たのであって、その意思に反して一方的に地位を奪われる「除名」の場面とは事案が異なる。したがって、本件のように自ら退社を申し出た場合に適用する限り、本件定款規定は有効であると解される。
3(1) そうすると、本件は「任意退社」の場面であり、任意退社の6カ月前の予告の代わりに、「社員の過半数の同意」を要件とする特則と解すべきであるが、本件定款規定が有効であるとして、Yらの退社は「過半数の同意」という要件を満たしていないと再反論することが考えられる。
そこで、この「過半数」を算定するにあたって、退社するYら自身を母数に含めるべきかが問題となる。
(2) この点、持分会社は組合的な人的信頼関係を基礎としており、社員は退社後も会社債務について一定の責任を負うことから、誰が会社に残留し、誰が同時に退社するかは、退社申出者自身にとっても具体的な利害関係を有する。
したがって、自らの退社に関し具体的な利害関係を有する者は、同意の母数から除外すべきである。
(3) Yらは、まさに自ら退社しようとする当事者であり、具体的な利害関係を有する者に当たる。したがって、本件定款規定の「過半数の同意」を判断する母数からは、Yら3名は除外される。そうすると、同意が必要な母数は、残る社員であるAとBの2名となる。
しかし、Aは「了解」し退社に同意をしているが、Bが同意したという事実はない。そうすると、Aの同意のみでは、過半数の同意があったとは認められず、Yらの退社は「過半数の同意」の要件を満たしていないから、X社のこの再反論は認められる。
4 以上から、Yらの退社は本件定款規定の要件を満たさず、無効である。よって、X社のYらに対する不当利得返還請求は認められる。
以上

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