スポンサーリンク

参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題56 買収防衛策

目次

 

【参考答案】

 1(1) XはY社に対し、本件新株予約権無償割当ての差止めを会社法247条類推適用により請求する。
 そこで、247条は募集新株予約権の発行差止請求権についての規定であり、無償割当てには直接適用できないところ、類推適用が認められるか。

(2) 247条が新株予約権無償割当てには直接適用されないのは、新株予約権無償割当てにおいては、通常、既存株主の持株比率が変動せず、既存株主が持株比率の低下という不利益を受けることがないと考えられているからである。
 しかし、新株予約権無償割当てによっても、既存株主の持株比率を低下させる場合があり、そのような場合には 247 条が類推適用されると解すべきである。

(3) 本件でY社が割り当てようとしている甲種新株予約権は、Xグループに対し、普通株式を割当てず、代わりに実質的に価値のない、あるいは行使が極めて困難な乙種新株予約権を交付する差別的取得条項・差別的行使条件の付されたものである。
 したがって、本件新株予約権無償割当ては、Xグループの持株比率を著しく低下させるものであるから、会社法247条の類推適用が認められる。
 また、実質的にXグループという株主の持ち株比率という地位に重大な不利益を生じさせるものでもあるから、「不利益を受けるおそれ」(247条柱書)も認められる。

 2(1) では、差止事由が認められるか。まず、本件新株予約権無償割当ては、Xグループだけを狙い撃ちにして差別的に取り扱うものである。新株予約権の無償割当てとその差別的条項等は株式の内容ではないものの、株主としての地位に基づいて割当てられるものであるから、その内容は実質的に平等であるべきであり「株主平等の原則」(109条1項)の趣旨が及ぶと解すべきである。
 そこで、Xグループだけを不利に扱う本件割当てが、株主平等の原則の趣旨に反し、「法令に違反」する(247条1号類推)ことにならないか。

(2) この点、株主平等原則も絶対のものでなく、合理的理由に基づく一定の区別は許容される。そこで、買収者によって企業価値ひいては株主共同の利益が害されるおそれがあり、その防止のために用いられた差別的取扱いが相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨には反しない。そして、会社の企業価値が毀損されるか否かは、会社利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきである。

(3) XはMBO価格600円に対し、対抗的買付けを1210円で行うなど、Y社の株価を引き上げる行動をとっている。今回の再公開買付けも、旧公開買付け価格1210円から、特別配当である300円を控除した910円と合理的な価格を提示しており、買付予定数に上限下限を設けず、その後の手続きも開示している。これらから、Xの買収が直ちに「企業価値ひいては株主共同の利益が害される」ような濫用的買収であると断定することは困難である。そのため、買収者によって企業価値ひいては株主共同の利益が害されるおそれがあるとはいえない。
 加えて、Y社は本件新株予約権無償割当てを、2024年3月22日の取締役会決議のみで決定している。そして「本件臨時株主総会においては、上記対抗措置の発動の是非等の議案を付議する予定はない」と公表し、株主に企業価値の毀損されるか否かの判断する機会を与えていない。これは、Y社の株主共同の利益を守るという名目にも反するものである。
 したがって、本件新株予約権無償割当ては、株主平等の原則の趣旨に反し、「法令に違反」(247条1号類推適用)すると認められる。

 3(1) 次に、「著しく不公正な方法」(247条2号類推適用)に当たるかを検討する。

(2) 「著しく不公正な方法」とは、不当な目的達成の手段として新株発行を用いる場合をいう。
 具体的には、支配権争いのある場合、経営支配権の維持確保を主要な目的として新株発行する場合をいう。なぜなら、権限分配秩序に反するためである。
 ただし、企業価値毀損により株主共同の利益が害される場合には、特段の事情があるとして、例外的に経営支配権維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しない。

(3) 本件では、Y社がMBOに対抗したXに対し、特別配当や本件新株予約権無償割当てという一連の防衛策を講じていることは、事実経過から明らかである。これは、Xグループによる買収を阻止しようとするもので、専ら現経営陣の経営支配権を維持することを主要な目的として本件無償割当てが行われるものだと推認される。
 そして、2(3)のとおり、Xが濫用的買収者として企業価値を毀損するとは断定し難く、株主総会決議を行っていないことからも特段の事情は認められない。
 したがって、本件新株予約権無償割当ては、専ら現経営陣の経営支配権の維持を主要な目的とするものであり、これを正当化する特段の事情もないから、「著しく不公正な方法」(247条2号類推適用)にも当たる。

 4 以上より、差止事由として1号・2号のいずれの事由も存在し、XのYに対する本件新株予約権無償割当ての差止請求は認められる。

以上

コメント