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【参考答案】
第1 小問(1)について
1(1) 株式の併合(会社法(以下法令名省略)180条1項)をする場合において、併合によって「1株に満たない端数が生じるときは、その端数の合計数」に相当する株式を競売または任意売却し、その代金を当該端数の割合に応じて株主に交付しなければならない(235条1項、234条2項乃至5項)。この金銭交付の結果、当該株主は株主たる地位を失う。
(2) 本件決議は、Y社の株式1569株を1株に併合するという内容である。XはY社株式を1500株保有する株主であるところ、本件株式併合により、Xの保有する株式は1株未満の端数となる。
(3) したがって、Xは、本件決議の効力発生によりY社株主としての地位を失い、その保有していた株式の端数の合計数に相当する金銭の交付を受けることになる。
2(1) Xの救済手段として、第1に、株式買取請求権(182条の4第1項)の行使が考えられる。この株式買取請求権を行使するには、原則として、①当該株主総会に先立って会社に対し当該株式併合に反対する旨を通知し、かつ、②当該株主総会においてこれに反対することが必要である(同条2項)。
(2) 本件において、Xは「本件総会に先立って本件株式併合に反対する旨の通知をしておらず」、かつ「本件総会にも出席しなかった」とされている。この事実から、Xは要件①・②を充足しない。
したがって、Xは、会社法182条の4第1項の株式買取請求権を行使することはできない。
3(1) 第2のXの救済手段として、株式併合の効力発生前であることを前提に、株式併合の差止請求(182条の3)と併せて仮処分の申立て(民事保全法23条2項)を行うことが考えられる。
差止請求は、(ⅰ)当該株式併合が法令または定款に違反し、かつ、(ⅱ)それによって株主が不利益を受けるおそれがある場合に認められる。
(2) 本件においてXは、小問(2)において検討する株主平等原則(109条1項)違反を法令違反として主張し(①充足)、これにより株主の地位を不当に失うという重大な不利益を受けるおそれがある(②充足)として、本件株式併合の差止めを請求することができると考える。なお、差止請求権が被保全権利となり、効力発生によりXが株主の地位を失うという回復困難な損害が生じることを保全の必要性として仮処分も認められる。
4(1) 第3のXの救済手段として、株式併合の効力発生後においては、本件決議取消しの訴え(831条1項)を提起すべきであると考える。
その要件は、訴訟要件として、(a) 原告適格(831条1項柱書)、(b) 被告適格(834条17号)、(c) 提訴期間(831条1項柱書)、(d) 訴えの利益である。
なお、本案要件は、小問(2)において検討する。
(2) Xは、本件株式併合により株主たる地位を失うことになるが、決議が取り消されれば株主の地位を回復することから、「当該決議の取消しにより株主となる者」(831条1項後段括弧書)に当たる。したがって、Xの(a)原告適格は認められる。
被告は、(b)Y社(834条17号)であり、本件決議の日から3か月以内に提起することで(c)提訴期間を充足する。また、取消訴訟は形成訴訟であるから、他の訴訟要件を充足することで(d)訴えの利益は原則、認められる。
(3) 以上より、Xは訴訟要件を充足する。本案要件は小問(2)において検討する。
第2 小問(2)について
1 Xは、本件決議の効力を争うため、本件決議取消訴訟を提起する。そして、その本案要件として、① 831条1項1号事由として、株主平等原則(109条1項)違反を、②831条1項3号事由として特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議を主張すると考える。
2(1) 109条1項は、株式会社が株主を、その有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならないという株主平等の原則を定めている。同原則は、会社の基本原則であり、強行法規と解されるため、これに違反する株主総会決議は、「法令に違反」するものとして、決議取消事由(831条1項1号)に該当する。
(2) ただし、株主平等原則も絶対のものでなく、合理的理由に基づく一定の区別は許容される。そこで、株主平等原則に反するか否かは、当該株式併合の目的、その目的を達成するための手段としての合理性、株主が被る不利益の程度、その不利益を回避・緩和するための措置の相当性等を総合的に考慮して判断する。
(3) Y社は、事前開示書面において「意思決定の迅速性確保」や「株式の管理を容易にする」ことを株式合併の理由として挙げている。しかし、Y社は非公開会社であり、X・D側とA・E側との間では、遺産分割や株式譲渡、遺留分減殺請求訴訟などを巡る深刻な紛争が継続しているという背景がある。このような状況下で、Xの保有株式数である1500株をわずかに上回る「1569株を1株」という極端な併合割合が設定されている。これらの事情からすれば、Y社が掲げる目的は抽象的な名目に過ぎず、真の目的は、経営陣と対立する少数株主であるXを会社から排除することにあると推認される。会社法は、スクイーズアウト自体は直ちに直ちに禁止しているものではなく、むしろ反対株主の株式買取請求権(182条の4)などの手続を整備することで、一定の要件下ではこれを許容していると考えられる。
もっとも、本件ではX以外に1569株未満を保有する株主は存在しないとの事実がある。そうすると、本件の併合割合は、Xのみが1株未満の端株主となり、他の株主は株主としての地位を維持するという結果をもたらすものである。これは、ただ一人を狙い撃ちにして株主の地位を奪うものであり、その不平等の程度は極めて著しいと言わざるを得ない。
加えて、Xは本件総会に先立つ反対通知等を怠ったため、公正な価格での補償を求めるための株式買取請求権(182条の4)を行使できない状況にある。そのため、Xにとって、価格の公正性を争う手続きが機能していない状況にある。
以上から、本件株式併合は、対立株主Xの排除という不当な目的のために、Xのみを狙った極端な併合割合という著しく不平等な手段を用い、かつ、Xには価格の公正さを争う手段も保障されていない状況でなされたものであるから、本件決議には合理的な理由があるとは到底言えず、株主平等原則(109条1項)に違反するものとして、取消事由(831条1項1号)に該当する。
(4) 株主平等原則は会社の基本原則であり、強行法規であるから、その違反は「重大」であるといえる。そのため、裁量棄却(831条2項)は認められない。
3(1) 次に、② 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(831条1項3号)について検討する。
(2) 「特別の利害関係を有する者」とは、当該決議事項により、他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主をいう。
また、「著しく不当な決議」とは、決議の成立によって他の株主に著しい不利益が及ぶ不公正な決議をいう。
(3) まず、Aは、Y社代表取締役であると同時に、X・D側とは遺産分割や遺留分減殺請求訴訟などで深刻に対立している当事者である。第2-2-(3)より、本件決議の真の目的は、経営陣と対立する少数株主であるXを会社から排除することにあり、これは他の一般株主と共通しない、A個人の特殊な利益に当たる。そのため、Aは「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号)に該当する。
次に、決議の内容は、上記第2-2-(3)で検討したとおり、紛争相手であるXのみを狙い撃ちにする極端な併合割合を用い、Xが株式買取請求権(182条の4)を行使できず公正な価格補償を争う手段を失っている状況で排除を強行するものであり、「著しく不当な決議」に当たる。
また、本件ではX以外の株主全員が出席・賛成しており、形式的にはAの議決権がなくとも特別決議(309条2項4号)は成立したように見える。しかし、Aは単なる一株主ではなく、代表取締役かつ本件総会の議長として理由を説明し、決議を主導した立場にある。Aのこの主導的な役割が、Aと利害を共通にする他の株主の賛成行動を実質的に導いたといえる。したがって、Aの議決権行使がの著しく不当な決議の成立に実質的な影響を与えたとして、因果関係が認められる。
したがって、本件決議は831条1項3号の取消事由にも該当する。
4 以上より、本件決議は、831条1項1号および3号の取消事由に該当し、Xは本件決議の効力を争うことができると考える。
以上

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