目次
【答案構成】
第1 小問(1)について
1 問題提起(本件合併を行うにあたり、ある種類株主に「損害を及ぼすおそれ」が認められ、種類株主総会決議が要求されるか。「損害を及ぼすおそれ」の意義が問題となる。)
2 規範定立(「損害を及ぼすおそれ」の意義)
3 当てはめ(合併対価は110万円→シナジーが反映された価格=客観的価値に損害は生じていないようにも思える。
普通株主との比較→Xは合併後の事業成長から生じる利益を将来にわたって享受する機会を一方的に剥奪される→株式が本来有する事業成長から生じる価値が客観的にみて損なわれると評価→「損害を及ぼすおそれ」認定。)
4 結論
第2 小問(2)について
1 問題提起(株式併合を行うにあたり、ある種類株主に「損害を及ぼすおそれ」が認められるか。)
2 当てはめ(株式合併前の客観的価値:1株につき15万円まで優先配当を受けられる権利あり→株式併合前、Xは10株を保有=受けられる優先配当の年間上限額は150万円。
合併後の価値:Xの保有株式数は1株=受けられる優先配当の年間上限額は15万円。→配当上限額の大幅な減少を認定→Xの有する株式の財産的価値を直接的かつ客観的に毀損する=「損害を及ぼすおそれ」認定。)
3 結論
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 会社法(以下、法令名省略)322条1項7号は、種類株式発行会社が吸収合併を行うにあたり、ある種類株主に「損害を及ぼすおそれ」がある場合、当該種類株主総会の特別決議を要すると定める。Y社定款には、これを排除する規定(同条2項)はないため、本条の適用の有無が問題となる。
2 322条1項の趣旨は、特定の種類株主の利益が会社の行為により害されることを防止する点にある。
したがって、「損害を及ぼすおそれ」がある場合とは、会社の行う特定の行為によって、客観的・外形的にある種類の株式が有する従前の客観的価値に損害が生じる具体的なリスクがある場合を指す。
3 Y社の優先株主であるXに交付される対価は、合併後の収益性を前提とした鑑定評価額と同額の110万円である。この点だけを見れば、Xの有する株式の客観的価値に損害は生じていないようにも思える。
しかし、普通株主には存続会社であるD社の株式が交付され、株主としての地位が維持されるのに対し、Xは金銭交付によってその地位を強制的に失うことになる。これにより、Xは合併後の事業成長から生じる利益を将来にわたって享受する機会を一方的に剥奪されることになる。
このような株主たる地位の喪失及びそれに伴う将来の機会逸失は、たとえ現時点での鑑定評価額相当の金銭が交付されたとしても、株式が本来有する価値が客観的にみて損なわれるものといえる。したがって、「損害を及ぼすおそれ」が認められる。
4 よって、本件合併契約の承認には、会社法322条1項7号に基づき、Xの有する優先株式に係る種類株主総会決議が必要である。
第2 小問(2)について
1 会社法322条1項2号は、株式会社が株式併合を行うにあたり、ある種類株主に「損害を及ぼすおそれ」がある場合、当該種類株主総会の特別決議を要すると定める。そこで、小問(1)と同様に「損害を及ぼすおそれ」の有無が問題となる。
2 本件では、Xが保有するY社優先株式は、1株につき15万円まで優先配当を受けられる権利を有する。そして、株式併合前、Xは10株を保有していたから、受けられる優先配当の年間上限額は150万円となる。
一方、10株を1株にする本件株式併合が実施されると、Xの保有株式数は1株となる。その結果、受けられる優先配当の年間上限額は15万円にまで激減することになる。このような配当上限額の大幅な減少は、Xの有する株式の財産的価値を直接的かつ客観的に毀損するものであり、「損害を及ぼすおそれ」が認められる。
3 よって、本件株式併合の実施には、会社法322条1項2号に基づき、X保有の優先株式に係る種類株主総会決議が必要である。
以上

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