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【参考答案】
第1 小問(1)について
1 P社が取締役と本件補償契約(会社法(以下法令名省略)430条の2第1項)及び本件Ⅾ&O保険契約(430条の3第1項)を締結する際、会社法上どのような手続が必要か。
2(1) 本件補償契約は、取締役の防御費用(430条の2第1項1号)及び第三者への賠償金(430条の2第1項2号)をP社が補償するものであるから、430条の2第1項が定める補償契約に当たる。
そして、P社は、監査役会設置会社であるから、取締役会設置会社でもある(327条1項)。そのため、補償契約の内容は、取締役会決議によって定めなければならない(430条の2第1項)。
(2) なお、本件補償契約は、取締役とP社との間で締結される契約であるため、利益相反取引である直接取引に該当する側面がある。しかし、補償契約の締結については、承認手続に関する利益相反取引規制(356条1項、365条2項)や、任務懈怠の推定規定(423条3項)、自己のために直接取引をした取締役の無過失責任規定(428条1項)は適用されない(430条の2第6項)。
また、本件補償契約の内容が取締役会決議によって定められたときは、民法108条の規定も適用されない(430条の2第7項)。
3(1) 本件Ⅾ&O保険契約は、P社が保険料を支払い、Q社が取締役の損害を填補するものであり、430条の3第1項の役員等賠償責任保険契約に当たる。
したがって、取締役会設置会社であるP社において、本件Ⅾ&O保険契約を締結するには、その内容について取締役会の決議を経る手続が必要となる(430条の3第1項)。
(2) なお、補償契約の場合と同様に、利益相反取引規制(356条1項、365条2項)、任務懈怠推定(423条3項)、無過失責任の特則(428条1項)は適用されない(430条の3第2項)。また、民法108条の適用も排除される(430条の3第3項)。
第2 小問(2)について
1 YのP社に対する、本件補償契約に基づく2億1000万円の支払請求が認められるか。
2(1) まず、YがM弁護士に支払った1000万円は、本件補償契約1(430条の2第1項1号)に基づき補償されるか。
原則として、弁護士費用は、取締役が防御のために支出する費用であり、補償契約の対象となる(430条の2第1項1号)。もっとも、「通常要する費用の額」を超える部分については補償範囲外となることから(同条2項1号)、その意義が問題となる。
(2) この点、補償範囲を限定している趣旨は、過大な額の補償は会社利益を損ない、会社財産を不当に流出させることに繋がるため、これを防止する点にある。
したがって、「通常要する費用の額」とは、防御費用として必要かつ十分な程度として、社会通念上相当と認められる額に限定されると解する。
(3) 本件で、Yが弁護士費用として支払った1000万円の内訳は、着手金300万円とタイム・チャージ制による報酬金700万円である。
まず、着手金300万円については、訴額2億円の1.5%であり、弁護士会において定められていた報酬基準以下であり、相当といえる。
報酬金700万円については、確かに、成功報酬制であれば支払う必要がなかったといえる。しかし、弁護士との契約方式につき、成功報酬制かタイム・チャージ制とするかは自由であり、タイム・チャージ制を選択したことが不合理とはいえない。また、金額も訴額の3.5%であることからすると、著しく高額とはいえない。
しがって、弁護士費用1000万円は、全体として「通常要する費用の額」(430条の2第2項1号)の範囲内として、YはP社に請求できる。
3(1) 次に、YがT社に支払った賠償金2億円は、本件補償契約2(430条の2第1項2号)に基づき補償されるか。
(2) 原則として、取締役が第三者に損害を賠償した場合も、補償契約の対象となる(430条の2第1項2号)。もっとも、当該賠償責任が、取締役の職務執行に関する悪意又は重大な過失が原因で生じたものの場合、会社はその賠償金を補償することができない(430条の2第2項3号)。
(3) Yは、P社が倒産の危機に瀕していることを知りながら、P社の資本金50億円と比較して多額である2億円の約束手形を、取締役会に諮ることなく振り出している。
このように、会社の存亡の危機を知りながら、会社の重要な業務執行である「多額の借財」(362条4項2号)に当たる可能性が極めて高い行為を、必要な手続である取締役会決議を踏まずに独断で行うことは、取締役としての善管注意義務に違反しているといえる。
したがって、Yの職務執行には「重大な過失」があったと認められる。そのため、Yは賠償金2億円について、P社に補償を請求することはできない。
4 以上より、Yには、本件補償契約に基づき、P社に対して弁護士費用1000万円の支払いのみが認められる。
以上

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