目次
【参考答案】
第1 本件株式交換前に発生した原因事実に基づく責任について
1(1) Xは、本件株式交換によりA社の「株主」たる地位を失っているが、会社法(以下法令名省略)847条の2第1項は、完全子会社となる会社の株主の救済を図るため、一定の要件を満たす者に原告適格を認めている。
(2) 具体的には、①株式交換等の効力が生じた日の時点で株主であり(公開会社の場合は6ヶ月前から引き続き有すること)(同条2項)、②株式交換等により当該株式会社の完全親会社の株式を取得し、③責任の原因となった事実が株式交換等の効力が生ずる日までに生じていることが必要である。
2 A社は株式の譲渡制限規定を置く非公開会社であるため、6ヶ月の保有期間要件は適用されない(847条の2第2項)。Xは本件株式交換前からA社株主であり、効力発生時も株主であったといえる(要件①充足)。
次に、Xは本件株式交換により、A社の完全親会社となったC社の株式11%を取得している(要件②充足)。
そして、A社代表取締役であったYは、親族Zが代表取締役を務めるB社に利益を得させる目的で、合理的な理由なくA社に損害を与える廉価販売を行っており、A社の利益を害し他者の利益を図る忠実義務違反(355条)が認められる。これにより、YはA社に対し任務懈怠に基づく損害賠償責任(423条1項)を負う。このYによる本件廉価販売は、本件株式交換の前に決定・実行されており、責任の原因事実は効力発生日までに生じている(要件③充足)。
3 以上より、Xは、本件株式交換前に発生した原因事実に基づくYの責任について、旧株主による責任追及等の訴え(847条の2第1項)を提起することができる。
第2 本件株式交換後に発生した原因事実に基づく責任について
1(1) 本件株式交換後の廉価販売について、XはA社株主ではなく、その完全親会社であるC社株主であるが、847条の3第1項は、完全親子会社関係がある場合における親会社株主による監視是正機能を期待し、一定の要件を満たす最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴えを認めている。
(2) 具体的には、①最終完全親会社等の株主であること(公開会社の場合は保有期間要件あり)、②当該株主が議決権の100分の1以上(非公開会社の場合は不要)を有すること、③対象会社が「特定責任」を負う発起人等が属する株式会社であること、④特定責任の原因事実により最終完全親会社等に損害が生じていることを要する。なお「特定責任」とは、子会社株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超える場合における取締役等の責任をいう(同条4項)。
2 C社は非公開会社であるため保有期間要件・議決権保有割合要件は不要であるところ、Xは最終完全親会社等であるC社株主であるため(要件①充足)、原告適格が認められる。
また、C社総資産額は40億円であり、その5分の1は8億円であるところ、C社におけるA社株式の帳簿価額は10億円であり、5分の1を上回っているため、A社取締役の責任は「特定責任」に当たる(要件③)。
そして、特定責任の原因事実である本件廉価販売により、C社グループ全体の評判低下や取引拒絶によりC社の業績が悪化しており、子会社であるB社へ利益が移転したといえる部分以外に、最終完全親会社であるC社自身にも損害が生じている(要件④)。
3 以上より、Xは、本件株式交換後に発生した原因事実に基づくYの責任について、多重代表訴訟(847条の3第1項)を提起することができる。
第3 YがA社株式を1株譲り受けた場合について
1 Xが訴訟提起後、YがA社株式を1株取得したことで、C社はA社の「完全親会社」ではなくなる。この場合、多重代表訴訟の原告適格は「最終完全親会社等」の株主に認められるため、Xは原告適格を欠くことになり、訴訟を継続することが認められるかが問題となる。
2 この点、多重代表訴訟制度の趣旨は、完全親子会社関係においては子会社株主による是正機能が働かないため、親会社株主による監督是正を認める点にある。そうであれば、形式的には完全親会社ではなくとも、親会社以外の株主が責任追及の対象となる役員等のみである場合には、当該役員等が自身に対して代表訴訟を提起することは期待できず、実質的には完全親子会社関係にある場合と同様、是正機能が働かない状況にあるといえる。
また、被告自身が株式を取得することで訴訟を消滅させることを許すことは、制度趣旨を没却し、信義則(民法1条2項)に反する。
したがって、このような特段の事情がある場合には、なお多重代表訴訟の要件を充足しているものと解すべきである。
3 本件では、YがA社株式を1株取得したことで、形式的にはC社のA社株式保有割合が100%ではなくなっている。
しかし、C社以外の株主は、本件訴訟の被告となるYである。そうすると、YがA社の取締役としてY自身を訴えることは期待できず、C社株主による監督是正の必要性は失われていない。したがって、本件では特段の事情があるとして、実質的に完全親子会社関係に関する要件は満たされており、Xの原告適格は維持される。
4 よって、Xは原告適格を欠くことなく、訴訟を継続することが認められる。
以上
【悩みどころ】
第3のYがA社株式を1株譲り受けた場合については、解説4-最終段落に「学説の議論はない」とある。そのため、原告適格が維持される方向性での規範を趣旨等から私なりに書いてみた。
もっとも、会社法847条の3第1項が「完全親会社(100%保有)」を明文の要件としている以上、「形式的要件を欠くため、Xは原告適格を失う(訴え却下)」という結論が条文上は安全な結論だと思われる。

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