参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題53 合併の差止め

目次

【答案構成】

第1 Y₁社とA社との合併について

1 Xの請求権の特定(A社に対し、合併比率が著しく不当であることを理由として、Y₁社とA社との吸収合併の差止請求+吸収合併差止めの仮処分)+仮処分の要件充足性

2 規範(Y₁社=A社議決権95%(10分の9以上)を保有=「特別支配会社」→「略式合併」。
 →消滅会社となるA社株主は、①「吸収合併の条件が当該株式会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当」+②「株主が不利益を受けるおそれ」があるとき→合併の差止請求可能。)

3 当てはめ(Xの主張=「合併比率がY₁に著しく有利に定められており、不公正な合併比率のために、自らが保有する株式の価値が毀損される」。
 →この主張が客観的に認められる場合、「合併比率が著しく有利」=①「吸収合併の条件が……著しく不当」である場合に該当。「株式の価値が毀損される」おそれがあること=②「株主が不利益を受けるおそれ」がある場合に該当。)

4 結論

第2 Y₁社とB社との合併について

 1(1) Xの請求権の特定(Y₁社=B社議決権の70%を保有→「略式合併」(784条1項)に当たらず。(784条の2第2号は使えないので)→B社株主Xは、B社に対し、合併比率が著しく不当であることを理由として、Y₁社とB社との吸収合併の差止請求訴訟+吸収合併差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てる)

  (2) 問題提起(784条の2第1号は、差止事由を「法令又は定款に違反する」場合に限定⇔同条第2号と異なり「著しく不当」であることを直接の理由とはしていない。→Xが主張する「合併比率が著しく不当であること」が、いかなる場合に、この「法令違反」に該当するか)

 2(1) Xの考えられる主張1(B社代表取締役Y₃は、公正な合併比率による合併契約締結へ向けた交渉・判断を行う善管注意義務(330条、民法644条)を負う。→著しく不公正な合併比率に合意=善管注意義務違反という「法令違反」に当たる。)

  (2) 規範定立(784条の2第1号の「法令」の範囲)

  (3) 当てはめ(取締役Y₃の善管注意義務違反は、784条の2第1号の「法令違反」に当たらない)

 3(1) Xの考えられる主張2(B社では合併契約の承認につき、株主総会特別決議が必要。→この株主総会決議が、特別利害関係人の議決権行使により成立+決議内容が「著しく不当」→決議取消事由あり。取消事由を有する株主総会決議≠適法な株主総会決議→783条1項に違反)

  (2) 当てはめ(Y₁社=吸収合併存続会社→合併比率がY₁社に有利なら利益を受ける。→この利益は他の一般株主とは共通しない利害→Y₁社は合併議案について「特別の利害関係を有する者」に該当。
 Y₁社はB社議決権の70%を保有→合併承認に必要な特別決議の可決要件=議決権の3分の2以上(=約66.7%)→Y₁社は単独で可決要件を充足=合併議案はY₁社の議決権行使に「よって」可決されることが確実。
 この合併比率が客観的に見て「著しく不当」なものであると認められれば、831条1項3号の要件充足→B社株主総会決議には決議取消事由あり。
 →上記瑕疵ある決議に基づいて合併を進めること=783条1項違反=「法令に違反する」(784条の2第1号)。
 →Xは、B社に対し、784条の2第1号に基づき、吸収合併の差止めを請求可能。)

 4(1) Xの考えられる主張3(Xは、B社代表取締役Y₃個人に対し、Y₃が著しく不公正な合併比率を定めて合併を進めることは、取締役の善管注意義務に違反するとして、取締役の違法行為差止請求(360条1項)をする。)
 問題提起(差止請求の要件→取締役の法令違反+「会社に著しい損害が生ずるおそれ」。Xが主張する「不公正な合併比率による合併」が「会社の損害」にあたるか)

  (2) 規範定立(不公正な合併と「会社の損害」)

  (3) 当てはめ(規範の通り、会社には損害が生じないから「会社に著しい損害が生ずるおそれ」を充足せず、取締役の違法行為差止請求は認められない。)

5 結論

 

【参考答案】

第1 Y₁社とA社との合併について

1 A社株主Xは、A社に対し、合併比率が著しく不当であることを理由として、Y₁社とA社との吸収合併の差止請求訴訟(会社法(以下法令名省略)784条の2第2号)を提起し、併せてこの差止請求権を被保全権利とする吸収合併差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てることが考えられる。なお、合併の効力発生後は争うことが困難となり、その効力発生日が迫っていることから、必要性も認められる。

2 Y₁社はA社議決権の95%(10分の9以上)を保有する「特別支配会社」であるから、この合併はA社での株主総会決議を省略できる「略式合併」に当たる(784条1項)。
 略式合併において、消滅会社となるA社の株主は、①「吸収合併の条件が当該株式会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当」であり、かつ、②それによって「株主が不利益を受けるおそれ」があるときは、A社に対し、この合併の差止めを請求することができる(784条の2第2号)。 

3 本件において、Xは、「合併比率がY₁に著しく有利に定められており、不公正な合併比率のために、自らが保有する株式の価値が毀損される」と主張している。
 この主張が客観的に認められる場合、「合併比率が著しく有利」であることは、①「吸収合併の条件が……著しく不当」である場合に当たる。また、「株式の価値が毀損される」おそれがあることは、②「株主が不利益を受けるおそれ」がある場合に当たる。

4 よって、Xは、A社に対し、784条の2第2号に基づき、吸収合併の差止めを請求することができる。

第2 Y₁社とB社との合併について

 1(1) Y₁社はB社議決権の70%を保有するにとどまるから、「略式合併」(784条1項)には当たらない。
 そのため、B社株主Xは、B社に対し、合併比率が著しく不当であることを理由として、Y₁社とB社との吸収合併の差止請求訴訟(784条の2第1号)を提起し、併せて吸収合併差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てることが考えられる。被保全権利・必要性は第1-1と同様である。

  (2) もっとも、784条の2第1号は、差止事由を「法令又は定款に違反する」場合に限定しており、同条第2号と異なり「著しく不当」であることを直接の理由とはしていない。そこで、Xが主張する「合併比率が著しく不当であること」が、いかなる場合に、この「法令違反」に該当するかが問題となる。

 2(1) 第一に、B社代表取締役Y₃は、B社および株主全体の利益を考慮し、公正な合併比率による合併契約締結へ向けた交渉・判断を行う善管注意義務(330条、民法644条)を負う。Y₃がこの義務に違反して、Xの主張するように著しく不公正な合併比率に合意することは、善管注意義務違反という「法令違反」に当たると主張することが考えられる。

  (2) もっとも、784条の2第1号の差止請求の名宛人は「消滅株式会社等」である。そのため、ここにいう「法令」とは、会社を名宛人とする法令を指し、取締役を名宛人とする法令は含まれないと解する。

  (3) したがって、取締役Y₃の善管注意義務違反をもって、784条の2第1号の「法令違反」として差止めを請求することはできない。

 3(1) 第二に、B社では合併契約の承認につき、株主総会特別決議が必要となる(783条1項)。この株主総会決議が、特別利害関係人の議決権行使によって成立し、かつ、その決議内容が「著しく不当」である場合、決議取消事由が認められる(831条1項3号)。このような取消事由を有する株主総会決議に基づく合併手続は、適法な株主総会決議を要求した783条1項に違反すると主張することが考えられる。

  (2) 本件においてB社は、2か月後に株主総会を開催する予定である。Y₁社は、この吸収合併の存続会社(749条1項)であり、合併比率がY₁社に有利に定められれば利益を受ける立場にある。これは、他の一般株主とは共通しない利害であるから、Y₁社はこの合併議案について「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号)に当たる。
 次に、Y₁社はB社の議決権の70%を保有している。合併承認に必要な特別決議(783条1項、309条2項7号)の可決要件は、議決権の3分の2以上であり、Y₁社は単独でこの要件を充足するから、この合併議案はY₁社の議決権行使に「よって」可決されることが確実となる。
 そして、Xが主張するように、この合併比率が客観的に見て「著しく不当」なものであると認められれば、要件を充足し、B社の株主総会決議には決議取消事由(831条1項3号)が存在することになる。
 したがって、このような瑕疵ある決議に基づいて合併を進めることは、783条1項に違反し、「法令に違反する」(784条の2第1号)場合に当たる。
 以上より、Xは、B社に対し、784条の2第1号に基づき、吸収合併の差止めを請求することができる。

 4(1) 第三に、Xは、B社代表取締役Y₃個人に対し、Y₃が著しく不公正な合併比率を定めて合併を進めることは、取締役の善管注意義務に違反するとして、取締役の違法行為差止請求(360条1項)をすることも考えられる。
 そこで、差止請求の要件として、取締役の法令違反に加え、「会社に著しい損害が生ずるおそれ」が要求されるところ、Xが主張する「不公正な合併比率による合併」が「会社の損害」にあたるかが問題となる。

  (2) この点、不当な合併比率による合併であっても、合併前の会社資産・負債はすべて合併後の会社に引き継がれ、資産が外部に流出するわけではない。したがって、株主間の不公平が生じたとしても、会社自体に損害が生じたとはいえない。

  (3) そうすると「会社に著しい損害が生ずるおそれ」を充足せず、取締役の違法行為差止請求は認められない。

5 よって、XがB社との合併をやめさせるために用いることができる、最も有効な法的手段は、B社に対し、第2-3の主張に基づいて、吸収合併の差止請求訴訟(784条の2第1号)を提起し、併せて吸収合併差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申立てをすることである。

以上

コメント