【初学者向け前提知識】
本記事で扱う事例は刑法総論 正当防衛がメインテーマですが、各論を未修の方のために、前提となる各罪の基本的な構成要件と定義を整理しておきます。答案を読む前の頭の整理にご活用ください。
■ 事例1(1)・(2)・(3)・(5)、事例3
・暴行罪(208条)
(客体:人の身体)
行為態様:「暴行を加え」る行為 ※「暴行」=身体に対する有形力の行使
結果:「傷害するに至らなかった」 ※「傷害」(204条)=身体の生理的機能の障害
・傷害罪(204条)
(客体:人の身体)
行為態様:「暴行を加え」る行為
結果:「傷害した」 ※「傷害」=身体の生理的機能の障害
■ 事例1(4)
・強迫罪(222条1項)
(客体:人)
加害対象:相手方の「生命、身体、自由、名誉、財産」
告知内容:害を加える旨の告知 ※告知者が支配し得る将来の害悪
行為態様:「脅迫」した ※「脅迫」=一般人を畏怖せしめるに足りる害悪の告知
■ 事例2
・殺人罪(199条)
(客体:人)
行為態様・結果:殺害行為
保護法益:人の生命
【参考答案】
第1 事例1 小問(1)について
1(1) XがAの顔面を手拳で殴打して軽傷を負わせた行為について、傷害罪(刑法(以下法令名省略)204条)が成立しないか。
(2) 手拳で顔面を殴打する行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使として、「暴行」に当たり、その結果、Aに軽傷を負わせているから、「傷害」したといえる。
また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、暴行の故意があれば足りるところ、Xには、殴打行為に対する認識・認容があることから故意も認められる。
したがって、傷害罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Xは、殴打行為前にAから顔面を殴打されているため、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
2(1) 正当防衛が成立するためには、「急迫不正の侵害」が必要である。「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか、または間近に押し迫っていることをいう。
(2) Aは、Xを殴打した後、走って逃げ去ろうとしていた。にもかかわらず、Xは逃げるAを追いかけ、50m先で追いつき、Aを殴打している。そうすると、XがAを殴打した時点では、AがXに対してさらに攻撃を加える可能性はなく、Aによる侵害は既に終了しているといえる。
したがって、「急迫不正の侵害」は認められず、正当防衛は成立しない。
また、急迫不正の侵害を欠く以上、過剰防衛(36条2項)も成立しない。
3 よって、違法性阻却事由は認められないから、Xには傷害罪(204条)が成立する。
第2 事例1 小問(2)について
1(1) XがAの顔面を手拳で殴打して軽傷を負わせた行為について、傷害罪(刑法(以下法令名省略)204条)が成立しないか。
(2) 手拳で顔面を殴打する行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使として、「暴行」に当たり、その結果、Aに軽傷を負わせているから、「傷害」したといえる。
また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、暴行の故意があれば足りるところ、XはとっさにではあるもののAの顔面を手拳で殴打し返していることから、Aに対して有形力を行使すること自体は認識・認容していたといえ、暴行の故意も認められるのであるから、傷害罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Xは、傷害行為前にAから顔面を殴打されているため、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
2(1)ア 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか、間近に押し迫っていることをいう。
イ Xが殴打し返した時点では、AがさらにXを殴打する危険が存在していたから、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)ア 次に、「防衛するため」の行為といえるためには、36条1項が「防衛するため」と規定していることから、防衛の意思が必要である。防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。
イ 確かに、Xは、Aから殴打されたのに対してとっさに殴打し返しているから、防衛の意思を自覚していないとも思われる。
しかし、緊急状況における防衛行為は反射的・本能的になされることも通常であるから、身を守る目的を明確に自覚していなかったとしても、防衛の意思は否定されない。
したがって、Xの行為は「防衛するため」の行為といえる。
(3)ア 「やむを得ずにした」行為とは、反撃行為が防衛手段として必要最小限度のもの、すなわち相当性を有することをいう。防衛行為が防衛手段として必要最小限度のものであるかは、防衛行為の危険性を侵害行為の危険性および採り得た代替行為の危険性と比較して判断する。
イ AがXの顔面を手拳で殴打したのに対し、XもAの顔面を手拳で1回殴打したにすぎず、侵害行為と防衛行為の危険性はおおむね同程度である。
また、XはAから顔面を殴打されたのに対し、とっさに殴打し返しているのであり、より危険性の低い手段を選択する余裕があったとはいい難い。加えて、Xが容易に採ることのできた、より危険性の低い有効な防衛手段があったこともうかがわれない。
したがって、Xの反撃行為は防衛手段として必要最小限度のものであり、「やむを得ずにした」行為といえる。
3 よって、Xの行為には正当防衛が成立し、傷害罪は成立しない。
第3 事例1 小問(3)について
1(1) XがAの顔面を手拳で殴打して軽傷を負わせた行為について、傷害罪(刑法(以下法令名省略)204条)が成立しないか。
(2) 手拳で顔面を殴打する行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使として、「暴行」に当たり、その結果、Aに軽傷を負わせているから、「傷害」したといえる。
また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、暴行の故意があれば足りるところ、Xには、殴打行為に対する認識・認容があることから故意も認められる。
したがって、傷害罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Xの殴打行為は、Aによる殴打に対する反撃として行われたものであるから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
2(1)ア 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか、間近に押し迫っていることをいう。
イ Xの反撃時にも、Aによるさらなる攻撃のおそれが存在していたから、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)ア 次に、36条1項が「防衛するため」と規定していることから、防衛の意思が必要である。防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。
もっとも、反撃行為が、防衛状況を利用して、専ら攻撃の意思に基づいて行われた場合には、防衛の意思が否定される。
イ 確かに、Xは、Aの言動に憤激してAの顔面を殴打しているから、Aに対する攻撃の意思を有していたともいえる。
しかし、XはAから顔面を殴打され、なお、Aによる侵害が継続している状況において反撃したものである。また、XはAの顔面を手拳で殴打したにとどまり、Aを執拗に攻撃したなど、専らAを攻撃する意思で行為したことをうかがわせる事情もない。
したがって、Xには攻撃の意思があったとしても、防衛の意思と併存していたにすぎず、専ら攻撃の意思であったとはいえない。
よって、Xには防衛の意思が認められ、その行為は「防衛するため」の行為に当たる。
(3)ア 「やむを得ずにした」行為とは、反撃行為が防衛手段として必要最小限度のもの、すなわち相当性を有することをいう。防衛行為が防衛手段として必要最小限度のものであるかは、防衛行為の危険性を侵害行為の危険性および採り得た代替行為の危険性と比較して判断する。
イ まず、AはXの顔面を手拳で殴打しており、これに対してXもAの顔面を手拳で殴打したにすぎない。したがって、侵害行為と防衛行為はいずれも素手による顔面への殴打であり、その危険性はおおむね同程度である。
また、XがAによる侵害を排除するために容易に採ることのできた、より危険性の低い有効な防衛手段があったこともうかがわれない。
したがって、Xの反撃行為は防衛手段として必要最小限度のものであり、「やむを得ずにした」行為といえる。
3 よって、Xの行為には正当防衛が成立し、傷害罪は成立しない。
第4 事例1 小問(4)について
1(1) Xが包丁を両手で構え、Aに対して「それ以上近づくな。切られたいのか」と申し向けた行為について、脅迫罪(222条1項)が成立しないか。
(2) Xは、包丁を両手で構え、Aに対して「それ以上近づくな。切られたいのか」と申し向けている。これは、XがAを包丁で切りつけるという、Xが支配し得る将来の身体に対する害悪を告知するものであり、一般人を畏怖させるに足りる。
したがって、Xの行為は「身体」に対し「害を加える旨を告知して人を脅迫した」ものといえる。
また、Xは上記事実を認識しているから故意も認められる。
よって、Xの行為は脅迫罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Xの上記申し向けは、Aによる攻撃を防ぐための行為であるから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
2(1)ア 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか、間近に押し迫っていることをいう。
イ Xが逃げようとしているのに対して、体格・腕力でXを圧倒するAがさらに迫っているから、Xの身体に対する違法な侵害が現に存在し、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)ア 次に、36条1項が「防衛するため」と規定していることから、防衛の意思が必要である。防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。
イ Xは包丁を構えて警告することで、Aの接近を阻止し、さらなる殴打行為を避けようとしているのであるから、防衛の意思が認められる。
(3)ア 「やむを得ずにした」行為とは、反撃行為が防衛手段として必要最小限度のもの、すなわち相当性を有することをいう。
防衛行為が防衛手段として必要最小限度のものであるかは、防衛行為の危険性を侵害行為の危険性および採り得た代替行為の危険性と比較して判断する。
イ まず、Aは体格及び腕力においてXを圧倒しており、Xが逃げようとしているにもかかわらず、さらにXに迫っている。これに対し、Xは包丁を取り出して両手で構えているものの、Aに切りつけるなどの直接的な攻撃には及ばず、「それ以上近づくな。切られたいのか」と申し向けて、Aの接近を阻止しようと威嚇したにとどまる。そうすると、包丁自体は殺傷能力の高い凶器であるものの、その使用態様は防御的なものにとどまり、Aによる侵害との関係で防衛行為の危険性が著しく大きいとはいえない。
また、Xは既にAから逃げようとしていたにもかかわらず、Aがさらに迫ってきたのであるから、逃走というより危険性の低い手段によって侵害を回避することは困難であった。さらに、体格・腕力でAに劣るXにとって、素手による制止などのより危険性の低い手段によってAの侵害を有効に排除することも容易であったとはいえない。
したがって、Xの行為は防衛手段として必要最小限度のものであり、「やむを得ずにした」行為といえる。
3 よって、Xの行為には正当防衛が成立し、脅迫罪は成立しない。
第5 事例1 小問(5)について
1(1) XがAの顔面を手拳で殴打し、Aに全治2か月の傷害を負わせた行為について、傷害罪(204条)が成立するか。
(2) 手拳で顔面を殴打する行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使として、「暴行」に当たり、その結果、Aは転倒して全治2か月の「傷害」を負っている。
また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、暴行の故意があれば足りるところ、殴打行為について認識・認容も認められることから、故意も認められる。
したがって、傷害罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Aによる殴打に対する反撃であるから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
2(1)ア 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか、間近に押し迫っていることをいう。
イ Xの反撃時には、Aによるさらなる攻撃のおそれがあるから、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)ア 次に、36条1項が「防衛するため」と規定していることから、防衛の意思が必要である。防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。
イ Xは、Aから顔面を手拳で殴打され、なおAによる侵害が継続している状況で、これに対応してAの顔面を殴打している。したがって、Xは急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする心理状態にあったといえる。
(3)ア 「やむを得ずにした」行為とは、反撃行為が防衛手段として必要最小限度のもの、すなわち相当性を有することをいう。
防衛行為が防衛手段として必要最小限度のものであるかは、防衛行為の危険性を侵害行為の危険性および採り得た代替行為の危険性と比較して判断する。
イ まず、AはXの顔面を手拳で殴打しており、これに対してXもAの顔面を手拳で殴打したにすぎない。確かに、Xの殴打によりAは全治2か月の重傷を負っているが、これは、Aがたまたまバランスを崩し、停められていた車のバンパーに頭部を強打したことによって重大な結果が生じたにすぎず、この結果からXの殴打行為自体の危険性が高かったとはいえない。そのため、侵害行為と防衛行為はいずれも素手による顔面への殴打であり、その危険性はおおむね同程度である。
また、本件事情からは、XがAによる侵害を排除するために容易に採ることのできた、より危険性の低い有効な防衛手段があったこともうかがわれない。
したがって、Xの反撃行為は防衛手段として必要最小限度のものであり、「やむを得ずにした」行為といえる。
3 よって、Xの行為には正当防衛が成立し、傷害罪は成立しない。
第6 事例2について
1(1) Xが、包丁でAの胸部を刺して死亡させた行為について、殺人罪(199条)が成立するか。
(2) 包丁という殺傷能力の高い凶器で、人体の枢要部である胸部を刺す行為は、人の死亡結果を発生させる現実的危険性を有する行為であるから、殺人の実行行為に当たる。そして、Aは上記刺傷によって死亡しているから、因果関係も認められる。
また、Xは殺意をもってAを刺しているから、殺人の認識・認容があり、故意も認められる。
したがって、Xの行為は殺人罪の構成要件を充足する。
(3) もっとも、Xの上記行為は、Aがハンマーで殴りかかってきたことに対する反撃としてなされたものであるから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。Xは、Aからの侵害を予期して現場に赴いていることから、「急迫不正の侵害」が認められるかが問題となる。
2(1) 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在するか間近に押し迫っていることをいう。
そして、36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下、公的機関による法的保護を求めることが期待できない場合に、私人に対抗行為を例外的に許容したものである。
そこで、行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合には、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況において、36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を満たさないと解する。
(2) Xは、前日夕方からAによって玄関扉を消火器で何度も叩かれ、十数回にわたって電話で因縁をつけられていた。その上で、午前4時頃にマンション前へ呼び出されていることから、Xは、呼出しに応じれば凶器等による暴行を受けることを十分に予期していた。
また、Xは、Aの呼出しに応じることなく、マンション6階の自宅にとどまっていれば侵害を避けることができ、警察に通報してその保護を求めることも容易であった。にもかかわらず、Xは包丁を携帯して自らマンション前の路上に赴いており、対抗行為の準備をして侵害場所へ出向いている。
そして、実際にAが予期どおりハンマーで殴りかかってくると、Xは包丁を示して威嚇するなど、より危険性の低い行動をとることなく、その攻撃をかわしつつ、殺意をもってAの胸部を刺している。
以上の事情からすれば、Xが侵害を回避しなかったことに合理的な理由はなく、Xの行為には36条が例外的に私人の実力行使を許容する前提となる緊急状況性を認めることができない。
したがって、Xの対抗行為は36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえず、侵害の急迫性が否定される。
(3) 以上より、「急迫不正の侵害」の要件を充足しないから、正当防衛は成立しない。
また、「急迫不正の侵害」の要件を欠く以上、過剰防衛(36条2項)も成立しない。
3 以上より、Xには殺人罪(199条)が成立する。
第7 事例3について
1(1) XがAの顔面を手拳で1回殴打した第1暴行について、暴行罪(208条)が成立するか。
(2) 顔面を手拳で殴打する行為は、身体に対する不法な有形力の行使であるから、「暴行」に当たる。
また、Xには「暴行」行為を行う認識・認容も認められることから、暴行の故意も認められる。
(3) したがって、第1暴行について暴行罪(208条)が成立する。
2(1) Xが特殊警棒でAの顔面等を数回殴打し、加療3週間の傷害を負わせた第2暴行について、傷害罪(204条)が成立するか。
(2) 特殊警棒での殴打行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使として「暴行」に当たり、その暴行によって加療3週間の「傷害」結果が生じている。
また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、暴行の故意があれば足りるところ、Xは、特殊警棒を取り出して数回殴りつけているのであるから、少なくとも暴行についての認識・認容があり、故意が認められる。
したがって、第2暴行は傷害罪の構成要件を充足する。
(3)ア もっとも、第2暴行は、AがXの背中上部を強打したことに対する反撃としてなされたものであるから、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
Aによる背部強打は、XがAに第1暴行を加えたことを契機として生じている。そこで、不正な侵害を自ら招いた場合に正当防衛が成立するかが問題となる。
イ 正当防衛(36条1項)は、急迫不正の侵害により公的機関の保護を求めることができない緊急状況において、私人に対し自力による権利の防衛を許容する制度である。
したがって、自らの不正な行為によって相手方の侵害を招致した場合において、その一連の経緯から反撃行為に出ることが正当とされる緊急状況を欠くといえるときは、正当防衛は成立しないと解する。
具体的には、①行為者が不正の行為により相手方の侵害を招致し、②その侵害が先行行為に触発された直後における近接した場所での一連・一体の事態といえ、かつ③相手方の侵害行為が行為者の先行行為の程度を大きく超えるものでない場合には、一連の経緯が不法な相互闘争にすぎず、正当防衛の成立は否定される。
ウ XはAと口論になった際、いきなりAの顔面を手拳で1回殴打している。この第1暴行はAの身体に対する違法な侵害であり、これに憤激したAがXを追いかけて攻撃していることから、Xは自らの不正な行為によってAの侵害を招致したといえる。
また、Xが第1暴行を加えた直後、Aは逃げるXを自転車で追いかけ、約90m離れた地点で追いついて攻撃している。したがって、Aの侵害はXの第1暴行に触発され、その直後に時間的・場所的に近接して生じた一連・一体の事態といえる。
さらに、Xの第1暴行がAの顔面を手拳で1回殴打するものであったのに対し、Aの侵害も、自転車に乗ったまま伸ばした腕でXの背中上部を強打するものであり、Xの第1暴行の程度を大きく超えるものとまではいえない。
以上から、Xの第1暴行からAの侵害に至る一連の経緯は、不法な相互闘争の範囲内にあるといえる。したがって、Xには反撃行為に出ることが正当とされる緊急状況が存在せず、Xの第2暴行について正当防衛は成立しない。
よって、第2暴行には正当防衛も過剰防衛も成立せず、傷害罪(204条)が成立する。
(4) 以上より、Xには傷害罪(204条)が成立する。
3 Xの第1暴行に暴行罪(208条)、第2暴行に傷害罪(204条)が成立し、両罪はいずれもAの身体という同一の法益を侵害する時間的・場所的に近接した一連・一体の事態の中で行われた行為であるから、包括一罪となる。
したがって、法定刑の軽い暴行罪が傷害罪に吸収され、傷害罪のみが成立する。
以上

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