【参考答案】
第1 憲法19条違反の主張について
1 Xは、Yが採用試験に際して思想・信条に関する事項を申告させた行為が思想の自由を侵害するものとして憲法(以下法令名省略)19条に反し、違憲であると主張している。
2(1) 19条は、多様な価値観を持つ各個人の思想・信条・価値観を尊重する点に趣旨があることから、「思想及び良心」とは、広く世界観・歴史観を含む価値観一般について、内心においてそれらを形成・保持する自由を保障するものと解する。
また、内面的精神活動の弾圧は、その思想・信条の探知から始まることから、同条は、自己の思想・信条を表明することを強制されない自由をも保障すると解すべきである。
(2) 本件において、Yが申告を求めたのは、Xの思想・信条に関する事項である。
したがって、これを意に反して申告することを強制されない利益は、思想・信条を表明することを強制されない自由として、19条の保護範囲に含まれる。
3 また、Yは、採用試験に際してXに上記事項を申告させている。これは、Xに自己の思想・信条に関する事項の表明を求めるものであるから、Xの沈黙の自由を制約する。
4(1) もっとも、本件は、私人であるXとYとの間の関係を規律する場面であるため、憲法19条をYの行為に直接適用して、その違憲性を判断することができるかが問題となる。
(2) 憲法上の権利保障規定は、原則として国家を名宛人とするものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。このことは、私人間に事実上の支配関係がある場合でも同様である。
したがって、憲法上の権利保障を私人相互間に直接適用ないし類推適用することはできない。
私人間の関係は私的自治に委ねられるものの、一方私人による基本的自由・平等への侵害が社会的に許容し得る限度を超える場合には、法が介入してその調整を図る必要がある。
そこで、私人間を規律する法規範に憲法の趣旨・価値を取り込んで解釈・適用することにより、両者の適切な調整を図るべきである。
(3) そこで、Yによる上記申告要求が、Xの思想・信条の自由との関係で社会的に許容し得る限度を超え、民法90条の公序良俗に反するかを検討する。
Xの思想・信条をみだりに明らかにさせられない利益は、人格の核心に関わる重要な利益である。
他方、Yにも22条1項及び29条等を背景とする経済活動の自由が認められ、その一環として、いかなる者をいかなる条件で雇い入れるかを決定する契約締結の自由ないし雇用の自由が認められる。そして、企業者が特定の思想・信条を有する者をそのことを理由として雇い入れることを拒むことが直ちに違法となるものではない以上、採否を決定するために応募者の思想・信条に関係する事項を調査し、その申告を求めることも、それ自体が直ちに社会的に許容し得る限度を超えるものとはいえない。
また、YはXを管理職要員として採用するに際し、その適格性を判断するために上記事項の申告を求めたものであるから、申告を求める必要性もある。
そうすると、Xの思想・信条に関する自由の重要性を考慮しても、Yによる申告要求が社会的に許容し得る限度を超えるものとはいえず、民法90条の公序良俗に反するとはいえない。
5 したがって、Yによる申告要求が19条に反し違憲であるとのXの主張は認められない。
第2 憲法14条1項違反の主張について
1 Xは、Yが特定の思想・信条を有することをもって本採用を拒否したことが、14条1項の「信条」による差別に当たり、違憲であると主張している。
2 14条1項は、国民に対し「法の下の平等」を保障し、合理的な理由のない差別的取扱いを禁止する趣旨の規定である。
そして、思想・信条は14条1項後段列挙事由の「信条」に当たるところ、Xの主張を前提とすれば、Yは、本採用の可否について、特定の思想・信条を有するXと、これを有しない他の試用労働者とを別異に取り扱ったことになる。
3(1) そこで、この別異取扱いに合理的な理由が認められるかが問題となる。
もっとも、14条1項も、私人相互の関係を直接規律するものではないから、私人間を規律する法規範に憲法の趣旨・価値を取り込んで解釈・適用することにより、両者の適切な調整を図るべきであると解する。
(2) 労働基準法3条は、「使用者は、労働者の……信条……を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない」と規定している。これは、14条1項が保障する信条による差別禁止の趣旨を、労働関係において具体化したものと解される。
Xは、既に3か月の試用期間を付してYとの間で雇用関係に入っているから、本採用拒否は新規採用の拒否ではなく、留保解約権の行使として、労働基準法3条の規律を受ける。したがって、YがXの思想・信条それ自体を理由として本採用を拒否したのであれば、「信条……を理由」とする差別的取扱いとして、同条に反し許されない。
もっとも、Yは、Xの思想・信条それ自体を理由としたのではなく、Xが身上書に虚偽の記載をし、面接試験においても虚偽の回答をしたことから、管理職要員としての適格性を欠くと判断したためであると主張している。
本問の事実関係からは、本採用拒否が実質的にXの思想・信条それ自体を理由とするものであるのか、それとも虚偽の記載・回答から認められる管理職要員としての適格性の欠如を理由とするものであるのかは明らかでない。そこで、本採用拒否が留保解約権の行使として許されるかは、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得るかによって判断すべきである。そして、その判断に当たっては、Xの虚偽の記載・回答の内容及び程度、Xの資質・性格・能力その他管理職要員としての適格性を判断する上で有する意味等を具体的に考慮する必要がある。
本問では、これらの事情が明らかでないため、労働基準法3条に反する信条を理由とする差別的取扱いであると認めることはできない。
4 したがって、Yによる本採用拒否が14条1項に反するとのXの主張は、直ちには認められない。
以上
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