【参考答案】
第1 Xの主張(1)について
1(1) Xは、H社によるG党への1000万円の政治資金の寄付は、国民の参政権(憲法(以下法令名省略)15条1項)を侵害する憲法上許されない行為であるから、民法90条に反し無効であると主張する。
選挙権その他の参政権は、自然人たる国民にのみ認められるものである。そこで、参政権を有しない法人であるH社が、政治資金の寄付を通じて政治に関与することが憲法上許容されるかが問題となる。
(2) 法人は、現代社会において⼀個の社会的実在として重要な社会的活動を担っていることから、憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されると解する。
(3) 政治的行為は、自然人のみがなし得る性質のものではなく、法人も、国や政党の特定の政策を支持し、推進し、又は反対するなどの政治的行為をすることができる。したがって、政治的行為をなす自由は、その性質上、法人にも認められる。
そして、政治資金の寄付は、特定の政党の活動を資金面から支援する政治的行為であるから、その自由の一環に含まれる。
よって、H社がG党に政治資金を寄付すること自体は、憲法上許容される。
2(1) もっとも、会社による政治資金の寄付が国民個々の参政権を侵害するものであれば、そのような寄付まで許されるとはいえない。
そこで、本件寄付が国民の選挙権、その他の参政権を侵害するかが問題となる。
(2) 政治資金の寄付が国民の政治意思の形成に作用することと、国民個々の選挙権、その他の参政権の自由な行使を直接に侵害することとは区別すべきである。
したがって、政治資金の寄付が政治の動向に影響を与えるにとどまらず、国民個々の選挙権、その他の参政権の自由な行使を直接に侵害する場合に、参政権を侵害するものと解する。
(3) 本件寄付は、G党の活動を資金面から支援するものであるから、国民の政治意思の形成や政治の動向に一定の影響を与え得る。
しかし、本件では、H社がG党に1000万円を寄付したにとどまり、それによって国民が特定の政党又は候補者への投票を強制されるなど、国民個々の選挙権その他の参政権の自由な行使が直接に妨げられた事情はない。
また、政治資金が選挙人の買収等に用いられることがあり得るとしても、それは政治資金の寄付それ自体に通常伴うものではなく、そのような非違行為については別途これを抑制する制度によって対処されるべきである。さらに、巨額の企業献金による金権政治や政治腐敗等の弊害についても、その規制は第一次的には立法政策に委ねられるべき問題である。
したがって、本件寄付は、国民の選挙権その他の参政権の自由な行使を直接に侵害するものとはいえない。
3 以上より、本件寄付は、国民の参政権を侵害するものとして憲法に反するとはいえない。したがって、本件寄付が憲法に反することを前提として民法90条に反するとするXの主張は、その前提を欠く。
よって、本件寄付は、Xの主張する理由によって民法90条に反し無効となるものではなく、Xの主張(1)は認められない。
第2 Xの主張(2)について
1 Xは、H社の定款2条が「鉄鋼の製造及び販売並びにこれに附帯する事業を営むこと」と定めている以上、G党への政治資金の寄付はH社の事業目的に含まれず、これを行ったYは取締役の忠実義務(会社法355条)に違反すると主張する。
そこで、本件寄付がH社の目的の範囲内の行為であるか、会社の「目的の範囲」(民法34条)がいかなる範囲に及ぶかが問題となる。
2(1) 取引安全の観点から、会社の「目的の範囲」は柔軟に解釈する必要がある。
したがって、株式会社における「定款……で定められた目的の範囲」は、定款に明示された目的自体に限らず、その目的を遂行するうえで直接または間接に必要な行為も含まれると解する。また、その行為が目的遂行に必要か否かは、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断する。
(2) 確かに、H社定款2条は「鉄鋼の製造及び販売並びにこれに附帯する事業を営むこと」を目的としているため、G党への政治資金の寄付は、鉄鋼の製造・販売そのものには当たらない。
しかし、政党は、憲法上明文で特別の地位を与えられてはいないものの、議会制民主主義の円滑な運用に不可欠な存在であり、国民の政治意思を形成する有力な媒体である。そのため、政党の健全な発展に協力することも、社会の一構成単位である会社に期待される社会的役割の一つといえ、政治資金の寄付もその協力の一態様といえる。
また、本件では、Yが特定の株主の利益を図り、その政治的志向を満足させるために本件寄付をしたなど、H社の社会的役割とは異なる目的で寄付をしたことをうかがわせる事情もない。
したがって、本件寄付は、客観的・抽象的にみてH社の社会的役割を果たすための行為であり、その目的遂行上間接的に必要な行為として、H社の定款所定の目的の範囲内に含まれる。
よって、本件寄付がH社の目的の範囲外であることを前提とするXの主張は認められない。
3(1) 本件寄付はH社の目的の範囲内の行為であるから、目的の範囲外であることを理由とするXの主張は認められない。
もっとも、政治資金の寄付が会社の目的の範囲内の行為であるとしても、その具体的な態様によっては、これを行った取締役の忠実義務違反となり得る。そこで、YがH社を代表して本件寄付を行ったこと自体が、忠実義務(会社法355条)に違反するか。
(2) 取締役が会社を代表して政治資金を寄付する場合、会社の規模、経営実績その他の社会的・経済的地位、寄付の相手方その他諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内でその金額等を決すべきであり、その範囲を超える不相応な寄付は忠実義務に違反する。
また、取締役がその職務上の地位を利用し、自己又は第三者の利益を図るために政治資金を寄付した場合にも、忠実義務に違反する。
(3) 本件では、Yがその職務上の地位を利用し、自己又は第三者の個人的利益を図るためにG党へ寄付をしたことを示す事情はない。
また、本件寄付額は1000万円であるものの、H社の資本金、経営規模、経営実績、利益額その他の社会的・経済的地位との関係で、1000万円が不相応な金額であることを示す事情もない。
したがって、本件事情から、Yが合理的な範囲を超える不相応な寄付をしたということもできない。
よって、Yに忠実義務違反は認められず、Xの主張(2)も認められない。
4 以上より、本件寄付は、H社の目的の範囲内にあり、その具体的な寄付行為についてもYの忠実義務違反を認めることはできない。
したがって、XのYに対する責任追及請求は認められない。
以上
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