【参考答案】
1 Kは、Xに対する殺人罪の嫌疑が固まったことから、Xを取り調べる目的で警察署への同行を求めている。したがって、本件同行は、警察官職務執行法2条2項の職務質問に伴う同行ではなく、刑事訴訟法(以下法令名省略)198条1項に基づく被疑者に対する出頭要求の一態様として行われた任意同行である。
任意同行は、198条1項に基づく出頭要求の一形態として、又は197条1項本文に基づく任意捜査として許容される。もっとも、逮捕又は勾留されていない被疑者には出頭・滞留義務がなく、出頭を拒み、又は出頭後いつでも退去することができる(198条1項但書)。
本件では、Xは任意同行に応じて警察署に出頭したものの、その後、警察署及び警察の用意した宿泊施設において、4泊5日にわたり警察官の監視下に置かれている。
そこで、このようなXの身体の扱いが、実質的には「強制の処分」(197条1項但書)である逮捕(199条)に当たり、令状主義(憲法33条)に反し、違法とならないか。
2(1) 「強制の処分」(197条1項但書)は、明示または黙示の意思に反し、重要な権利・利益に実質的に制約を加える手段をいうと解する。
そして逮捕は、被疑者の身体移動の自由を直接かつ継続的に制約する手段であることから、任意同行及び同行後の滞留が実質的逮捕に当たるかは、①同行を求めた時刻・場所、同行の方法・態様、②同行後の取調べの時間・方法、監視状況、③宿泊の経緯・態様、被疑者の対応等の諸事情を総合し、被疑者の明示又は黙示の意思に反して、その身体移動の自由を逮捕と同視できる程度に制約したかによって判断する。
(2) KがXに同行を求めたのは、午後9時過ぎのX方居宅であり、その際に有形力を行使したり、威迫的言動を用いたりした事情はない。また、XもKの求めに応じて警察署に出頭している。したがって、当初の任意同行自体は、Xの意思に反するものでない。
もっとも、同行後は、取調室にKのほか警察官1名が常時在室し、同警察官は出入口のドアの前に座り、Xの用便時にも付き添っていた。さらに、Kは午前0時を過ぎた後、Xに警察の用意した施設への宿泊を執拗に勧め、Xは渋々これに従っている。そして、宿泊施設でもKが同室し、出入口には警察官1名が配置され、用便時にも付き添いがなされていた。その後も、Xは警察車両で警察署と宿泊施設との間を送迎され、午前9時から午後11時まで取調べを受けた上、同様の監視下で宿泊するという状態が4泊5日にわたり継続している。
確かに、Xが退去又は帰宅を明示的に申し出たり、警察官がこれを制止した事情はない。
しかし、上記取り調べおよび宿泊中の客観的な状況からすると、少なくとも初日の宿泊以降、Xは、帰ろうと思えば現実に帰ることができるような状態にはなく、その意思に反して身体移動の自由を逮捕と同視できる程度に制約されていたといえる。
したがって、遅くとも初日の宿泊以降のXの滞留は、実質的逮捕に当たる。
(3) よって、Kらは、逮捕状の発付を受けることなくXを実質的に逮捕しており、本件取調べは、令状主義(憲法33条、199条)に反する違法な身体拘束下で行われたものとして違法である。
3(1) 仮に、Xが取調べ及び宿泊に形式上応じていたことなどから、本件の滞留が実質的逮捕に当たらないとしても、本件取調べが任意捜査として許容される限界を超えて、違法とならないかが問題となる。
(2) 任意処分であるとしても、同捜査により何らかの人権侵害の危険がある以上、捜査比例の原則(197条1項本文「必要な」の文言)の観点から、無制約になし得るわけではない。
したがって、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度等の必要性と、被疑者の態度、取調べの方法・態様等の権利制約の程度を考慮し、社会通念上相当と認められる限度において許容されるものと解する。
(3) 本件被疑事実は殺人罪という重大犯罪であり、Xに対する嫌疑も固まっていたことから、Xから直接事情を聴き、その弁解を聴取する必要性は高かったといえる。もっとも、Xを宿泊を伴って常時監視する必要があったとの事情はない。したがって、本件のような方法・態様による取調べを行う必要性は高くなかった。
他方、Xは、取調室では出入口の前に警察官を配置され、用便時にも付き添われていた。また、Kから執拗に勧められて渋々警察の用意した施設に宿泊し、そこでもKと同室とされた上、出入口には警察官が配置され、用便時にも付き添われている。さらに、警察車両で警察署との間を送迎され、午前9時から午後11時まで取調べを受けるという状態が4泊5日にわたり継続している。このように、Xは、取調べ中のみならず、宿泊・移動中も継続して警察の監視下に置かれており、その行動の自由に対する制約は大きく、連日の長時間の取調べによる精神的・肉体的苦痛及び疲労も大きかったといえる。
以上からすれば、本件のような方法・態様による取調べを行う必要性に比して、Xに加えられた自由の制約及び精神的・肉体的負担は過大である。
したがって、本件取調べは、社会通念上相当と認められる方法・態様及び限度を超え、違法である。
4 以上より、本件取調べは、令状主義(憲法33条、199条)に反する違法な身体拘束下で行われたものとして、または、任意捜査として許容される限界を超える取調べとして違法である。
以上

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