目次
【答案構成】
第1 小問(1)について
1 設問に対する応答(Xは、C及びDに対する本件決議の招集通知を欠いたことが株主総会招集手続の法令違反(831条1項1号、299条)を取消事由として主張する)
+問題提起(自己の権利を侵害されていない株主が、他の株主対する瑕疵を理由として、決議取消しの訴えを提起する原告適格を有するか)
2 規範定立(他の株主に対する瑕疵を理由とする取消訴訟の原告適格)
3 当てはめ(他の株主C・Dに対する招集通知の欠缺→招集手続の瑕疵=決議取消事由(831条1項1号)の存在認定。
X=Y会社の「株主」→C及びDに対する招集通知漏れという瑕疵を理由として、本件決議の取消しを求める原告適格を有する)
4(1) Y社の想定反論(裁量棄却(831条2項)の主張)
(2) 当てはめ(招集通知の趣旨(株主総会の開催と目的事項を知らせることにより、出席の機会と準備の機会を与えること)→重要な手続→「その違反する事実が重大でな」い(831 条2 項)とはいえない。+α(全体の3割に当たる議決権行使の機会が会社側の過失によって完全に奪われている→瑕疵が「重大でな」いとは評価できない)
→裁量棄却(Y社の想定反論)は認められない。
5 結論
第2 小問(2)について
1 問題提起(取消訴訟の出訴期間との関係で、出訴期間経過後に新たな取消事由を追加することが許されるか)
2 規範定立(出訴期間経過後の取消事由の追加の可否)
3(1) 当てはめ1(取消事由の認定:Y社=非公開会社かつ取締役会非設置会社→株主総会の1週間前までに招集通知を発する必要がある(299条1項括弧書)。
→本件で通知が発せられたのは5日前)
(2) 当てはめ2(本件決議取消の訴えの出訴期間=同年6月15日まで→Xが上記招集期間不足の主張を追加したいと考えている口頭弁論期日は同年7月31日=出訴機関経過後であり追加不可。)
4 結論
第3 小問(3)について
1(1) 設問に対する応答1(2023年8月は、出訴期間(831条1項)徒過後→不適法却下)
(2) 設問に対する応答2(他に本件決議の効力を争う方法=株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項))
問題提起(本件招集手続の瑕疵が決議不存在事由と評価できるか、決議不存在事由の明文規定がないことから問題となる)
2 規範定立(株主総会決議不存在確認の訴えにおける決議不存在事由)
3 当てはめ(決議の存在を肯定する方向の事由:招集通知漏れは、Y社側の過失によるもの→特定の株主を意図的に排除する悪質な事情不存在。
決議が不存在か否かは、客観的事情から判断すべき→C及びDは、議決権全体の3割を有する株主=影響は比較的大→7割の議決権行使しかなされていない株主総会決議は株主全体の意思を反映したとはいえない→株主の意思を反映するという株主総会の根幹に関わる瑕疵=著しい瑕疵→法律上決議が存在したと評価できず、決議の法的不存在と評価)
4 結論
【参考答案】
第1 小問(1)について
1 Xは、C及びDに対する本件決議の招集通知を欠いたことが株主総会招集手続の法令違反(831条1項1号、299条)を取消事由として主張することが考えられる。
本件において、X自身は招集通知を受け、本件総会に出席している。そのため、自己の権利を侵害されていないXが、他の株主C及びDに対する招集手続の瑕疵を理由として、決議取消しの訴えを提起する原告適格を有するかどうかが問題となる。
2 取消訴訟の趣旨は、法令・定款を遵守した会社運営にあり、条文の文言上も原告適格を有する者を「株主等」と規定し、限定されていない。
したがって、瑕疵によって直接権利を害されていない株主も、他の株主に対する瑕疵を理由として、取消しの訴えを提起する原告適格を有すると解する。
3 本件において、Y社は、株主であるC及びDに対し、会社側の過失により招集通知を発しなかった。これは、会社法299条1項に違反する招集手続の瑕疵であり、決議取消事由(831条1項1号)に該当する。
そして、XはY会社の「株主」であるから、たとえ自身は招集通知を受け取っていたとしても、C及びDに対する招集通知漏れという瑕疵を理由として、本件決議の取消しを求める原告適格を有する。
4(1) これに対し、Y社からの反論として、本件瑕疵は軽微であり、決議に影響を及ぼさないとして、裁量棄却(831条2項)の主張がなされることが考えられる。
(2) しかし、招集通知は、株主総会の開催と目的事項を知らせることにより、出席の機会と準備の機会を与えることを目的とする重要な手続といえ、「その違反する事実が重大でな」い(831 条2 項)とはいえない。また、通知を欠いたC及びDは、合計で発行済株式総数である100株の3割に当たる30株を保有する株主であり、その議決権行使の機会が会社側の過失によって完全に奪われている。この点からも、瑕疵が「重大でな」いとは評価できない。
したがって、裁量棄却は認められない。
5 よって、Xの請求は認められる。
第2 小問(2)について
1 2023年3月15日に行われた株主総会決議取消の訴えについて、同年7月31日に開かれる口頭弁論において、招集期間(299条1項括弧書)不足に関する主張を追加することが認められるか。
株主総会決議取消しの訴えには、決議の日から3か月以内という出訴期間が定められている(831条1項)ところ、出訴期間内に訴えが提起された後、当該期間が経過した後に、新たな取消事由を追加することは許されるかが問題となる。
2 法が出訴期間を3か月という短期に定めた趣旨は、会社の法律関係を早期に安定させる点にある。仮に、出訴期間経過後も新たな取消事由の追加を無制限に認めると、決議の効力が覆される不安定な状態に置かれることになり、法的安定性を図った同条の趣旨が没却される。
したがって、新たな取消事由の追加も、出訴期間である3か月以内に行わなければならないと解すべきである。
3(1) Y社は非公開会社であり、取締役会非設置会社であるから、定款に別段の定めがない限り、株主総会の1週間前までに招集通知を発する必要がある(299条1項括弧書)。
にもかかわらず、本件では、株主総会開催日である3月15日の5日前である3月10日に通知が発せられており、招集期間が不足しているという瑕疵が存在する。
(2) 本件総会決議は2023年3月15日に行われているため、取消しの訴えの出訴期間は、同年6月15日までである。
そして、Xがこの招集期間不足の主張を追加したいと考えている口頭弁論期日は同年7月31日であり、すでに出訴期間である6月15日を経過している。
4 よって、Xは出訴期間経過後に招集期間不足という新たな取消事由を追加することはできない。
第3 小問(3)について
1(1) Xが2023年8月に本件決議の取消しの訴えを提起することは、決議の日である同年3月15日から3か月の出訴期間(831条1項)を徒過しているため、不適法な訴えとして却下される。
(2) 出訴期間の徒過により取消しの訴えを提起できない場合、他に本件決議の効力を争う方法としては、株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)を提起することが考えられる。
そこで、本件の招集手続の瑕疵が決議不存在事由と評価できるか、決議不存在事由につき、明文規定がないことから問題となる。
2 決議不存在確認の訴えに取消訴訟のような期間制限(831条1項柱書)設けられていないのは、決議不存在という瑕疵が決議の効力の早期安定の要請を上回るほどに重大だからである。
そこで、「決議が存在しない」場合とは、①決議の物理的不存在のほか、②決議の法的不存在(決議の手続に著しい瑕疵があるために法律上決議が存在したと評価できない場合)と評価できる場合と解すべきである。
3 確かに、本件における招集通知漏れは、Y社側の過失によるものであり、特定の株主を意図的に排除しようとしたといった悪質な事情はうかがわれない。
しかし、決議不存在と評価すべきか否かは、会社の主観的な事情よりも、当該瑕疵によって株主の権利がどれほど客観的に侵害されたかという観点から判断すべきである。
そこで、招集通知が発せられなかったC及びDは、議決権全体の3割を有する株主であり、その影響は決して軽微ではない。このような状態で行われた決議は、株主全体の意思を反映したものとは到底評価できず、株主総会という制度の根幹を揺るがすほどの著しい瑕疵と解する。
したがって、決議の手続に著しい瑕疵があるために法律上決議が存在したと評価できず、決議の法的不存在と評価できる。
4 よって、Xは株主総会決議不存在確認の訴えを提起することができ、この訴えは認められる。
以上

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