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【参考答案】
1(1) XはYに対し、株主代表訴訟(会社法(以下法令名省略)847条1項)により、任務懈怠責任(423条1項)を追及する。
(2) その要件は、①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失)である。
(3) 前提として、YはA社取締役であるから「役員等」(要件①)に当たる。
次に、Xは、Yの②任務懈怠として、本件献金が(ⅰ)定款目的外の行為であり定款遵守義務(355条)に違反すること、仮に(ⅰ)の主張が認められないとして(ⅱ)善管注意義務(330条、民法644条)に違反することを主張すると考える。
そこで、会社の「目的の範囲」がいかなる範囲に及ぶかが問題となる。
2(1) この点、取引安全の観点から、その範囲は柔軟に解釈する必要がある。
したがって、株式会社における「定款……で定められた目的の範囲」は、定款に明示された目的自体に限らず、その目的を遂行するうえで直接または間接に必要な行為も含まれる。また、その行為が目的遂行に必要か否かは、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断する。
(2) 確かに、A社定款記載の目的は、「精密機器の製造および販売ならびにこれに付帯する事業」であるから、本件献金は定款に明示された目的の遂行に直接必要な行為でないと思われる。
しかし、会社は、社会の一員である社会的実在でもある。そのため、社会通念上、会社として行うことが期待・要請される行為は、社会基盤の維持・発展に寄与するものであり、ひいては会社の事業活動を円滑に進めることにも繋がるから、広く目的の範囲に含まれると解すべきである。
そして、政治献金も、政治的意思を形成する最も有力な媒体である政党の健全な発展に協力する行為であって、社会の健全な発展に寄与する行為といえる。したがって、政治献金を行うことも会社の目的遂行に間接的に必要な行為として、定款の「目的の範囲」内の行為といえ、(ⅰ)の主張は認められない。
3(1) では、政治献金を行ったことが任務懈怠に当たるか。
(2) 取締役が政治献金をするにあたっては、会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内で行われるべきであり、その範囲を超える不相応な寄附は、会社の不利益のもとで他を利する行為として忠実義務違反を構成すると解する。
(3) A社の経営実績を見ると、経常利益が約1億円出ている一方、整理解雇などの事業のスリム化を進めている。整理解雇が必要となる会社は、経営状況が厳しいことが伺われ、少なくとも大きなコスト削減が迫られている状況にあると解される。
そのような状況で、Yは経常利益の25%に当たる2500万円を献金していることからすると、著しく不合理かつ不相応な寄附に当たる。
したがって、Yによる政治献金は忠実義務違反として、任務懈怠(要件②)に当たる。
(4) そして、Yの任務懈怠により、A社は2500万円の損害(要件③)を被っていて、その間には因果関係(要件④)も認められる。また、YはA社の経営状況を知りつつ、忠実義務違反となる政治献金を決定しているから、忠実義務違反について少なくとも過失(要件⑤)が認められる。
以上より、Yは423条1項の要件を充足する。
4 よって、XのYに対する請求は認められる。
以上

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