目次
【答案構成】
1 問題提起(Y社主張の法的性質+検討すべき論点①~③の提示)
2(1) 論点①問題提起(会社法362条4項1号「重要な財産」の意義が文言上明確でないため、いかなる場合に「重要な財産」に当たるか。)
(2) 規範定立(「重要な財産の処分」の判断基準)
(3) 当てはめ(A社総資産額12億円⇔本件賃料債権処分価格5900万円→総資産の約4.9%を占める価額。=占める割合大(①・②)。A社内部の職務規定:5000万円を超える財産権の処分には取締役会の承認が必要→会社自身5000万円程度の規模の財産処分を重要と認識していた(⑤)。
→本件債権譲渡は、A社において「重要な財産の処分」に該当=取締役会決議が必要。)
3(1) 論点②問題提起(取締役会決議を欠く本件債権譲渡の効力が認められるか。)
(2) 規範定立(取締役会決議を経ない取引の効力)
(3) 当てはめ(X社=悪意という事情なし。X社=A社に10億円余りを融資している金融会社。→融資先企業のガバナンス体制や会社法の規制について精通し、A社の財産状況を示す資料等を当然有している。→5900万円の債権譲渡が「重要な財産の処分」(362条4項1号)に該当しうることを容易に認識可能。
+A社の緊急的状況→代表取締役Bが独断で重要な財産を処分しようとしている→X社は、手続の正当性を通常以上に慎重に確認すべき注意義務あり。→取締役会議事録の提出要求等、決議の有無を確認することは容易。
上記確認をX社が怠った点=過失と評価。
→本件債権譲渡は、A社との関係では無効。)
4(1) 論点③問題提起(無効主張するのは、譲渡された債権の債務者Y社。→Y社のような第三者が取締役会決議の不存在を理由に取引の無効を主張することは許されるか。)
(2) 規範定立(第三者による無効主張の可否)
(3) 当てはめ(Y社は債権譲渡契約の当事者ではない=第三者。特段の事情は不存在。 →Y社は本件債権譲渡の無効を主張することはできない。)
5 結論
【参考答案】
1 Y社は、本件債権譲渡がA社の取締役会決議を経ていないため無効であると主張し、X社への支払いを拒んでいる。Y社による上記主張が認められるためには、①本件債権譲渡が取締役会決議を要する「重要な財産の処分」(会社法(以下法令名省略)362条4項1号)に当たり、②取締役会決議を欠くことが本件債権譲渡の効力に影響を及ぼし、かつ、③Y社がその無効を主張できることが必要となる。
2(1) 会社法362条4項1号は、取締役会設置会社において「重要な財産の処分」を取締役会の法定決議事項と規定する。
そこで、「重要な財産」の意義が文言上明確でなく、いかなる場合に「重要な財産」に当たるかが問題となる。
(2) 「重要な財産の処分」に当たるか否かは、個々の事情により異なるから、①当該財産の価額、②当該財産が会社の総資産に占める割合、③保有目的、④処分行為の態様、⑤会社における従来の取扱いなどの事情を総合考慮して判断すべきである。
(3) 本件では、A社は総資産額12億円であるのに対し、本件賃料債権の処分価格は5900万円であり、総資産の約4.9%を占める価額に当たり、その占める割合は大きい(①・②)。さらに、A社の内部の職務規定において、5000万円を超える財産権の処分には取締役会の承認が必要とされていることからも、会社自身がこの規模の財産処分を重要と認識していたことがうかがえる(⑤)。
したがって、本件債権譲渡は、A社において「重要な財産の処分」に該当し、取締役会決議が必要となる。
3(1) では、取締役会決議を欠く本件債権譲渡の効力が認められるか。代表取締役Bは、包括的代表権を有している(349条4項)ことから、その行為の効果が問題となる。
(2) この点、代表取締役は会社の業務に関し包括的な代表権を有しており(349条4項)、会社の内部的意思決定である取締役会決議を欠いていたとしても、そのことを知らない取引の相手方を保護し、取引の安全を図る必要がある。
そこで、民法93条1項但書の趣旨を類推し、原則としてその取引行為は有効であり、相手方が取締役会決議を経ていないことにつき悪意または有過失であったときに限り、無効になると解する。
(3) 本件では、X社が悪意であったと認められる事情はない。しかし、X社はA社に10億円余りを融資している金融会社である。そのため、融資先企業のガバナンス体制や会社法の規制について精通しており、A社の財産状況を示す資料等を当然有し、5900万円もの債権譲渡が「重要な財産の処分」(362条4項1号)に該当しうることを容易に認識できたはずである。
また、A社はFX取引で多額の損失を被り、その支払いのために急遽資金を必要としている状況にあった。このような通常とは異なる状況で、代表取締役Bが独断で重要な財産を処分しようとしている場合、X社としては、その手続きの正当性を通常以上に慎重に確認すべき注意義務があったといえる。具体的には、取締役会議事録の提出を求めるなど、決議の有無を確認することは容易であった。
以上から、X社が確認を怠った点に、取締役会決議の不存在を知らなかったことに対する過失があったと評価できる。
したがって、本件債権譲渡は、A社との関係では無効となる。
4(1) X社の有過失により、A社との関係で本件債権譲渡が無効となりうるとしても、本件で無効を主張しているのは、譲渡された債権の債務者であるY社である。
Y社のような第三者が取締役会決議の不存在を理由に取引の無効を主張することは許されるか。
(2) 362条4項が重要な業務執行を取締役会の決議事項とした趣旨は、取締役相互の協議による結論に沿った業務執行を確保することによって「会社の利益」を保護することにある。この趣旨からすれば、取締役会決議を経ていないことを理由とする取引の無効は、原則、その利益の帰属主体である会社自身だけが主張できるべきである。
したがって、当事者以外の第三者は、当該会社の取締役会がその無効を主張する旨の決議をしている等の特段の事情がない限り、取引の無効を主張することはできないと解するのが相当である。
(3) 無効を主張しているY社は、債権譲渡契約の当事者ではなく、譲渡された債権の債務者という第三者の立場にすぎない。そして、A社の取締役会が本件債権譲渡の無効を主張する旨を決議したというような特段の事情は認められない。
したがって、Y社は、本件債権譲渡の無効を主張することはできない。
5 結論
以上

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