目次
【答案構成】
1(1) 請求権の特定(X₁・X₂によるA社取締役Y₁・Y₂に対する、429条1項に基づく損害賠償請求。)
(2) 429条1項の要件(①「役員等」、② 会社に対する任務懈怠、③ 「第三者」への損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②について悪意・重過失)
2(1) 規範定立1(任務懈怠の意義)
(2) 規範定立2(429条の「損害」の範囲・悪意重過失の対象)
3 Y₁の責任について
(1) 当てはめ:要件①・「第三者」(Y₁=A社代表取締役=「役員等」。X₁=顧客、X₂=取引先→「第三者」該当。)
(2)ア 当てはめ:X₁要件②(A社は、業績悪化+自転車操業状態。→経営破綻に瀕している状況において、取締役は、会社の再建可能性や清算処理を検討すべき善管注意義務を負う。
⇔Y₁は、そのような検討をすることなく、むしろ、採算割れの注文も受けるよう指示。→実質的に履行不能な契約を締結し、X₁のような新規顧客を犠牲にする行為→会社に対する任務懈怠に当たる(要件②)。)
イ 当てはめ:X₁要件③・④(前受金500万円の不返還=直接損害(要件③)。Y₁の上記任務懈怠行為によって、X₁は前受金500万円が返還されないという損害を被っている→因果関係あり(要件④)。)
ウ 当てはめ:X₁要件⑤(Y₁は、A社の赤字が拡大する状況を認識しつつ、実質的に履行不能な契約を締結する指示→任務懈怠について悪意(要件⑤)。)
(3)ア X₂要件②(問題提起:Y₁の赤字を厭わない積極的な経営判断=任務懈怠にあたるか。
→規範定立:経営判断の原則
→当てはめ:Y₁は、住宅需要の減少・資材高騰を認識→注文増により赤字拡大となる状況を知りつつ、採算割れの安価な注文を拡大。→この判断は、会社の再建に何ら資せず、破綻を先延ばしにし会社財産を毀損させるだけの判断→判断内容は著しく不合理。
=Y₁によるこの経営判断は、裁量を逸脱した任務懈怠(要件②)。
イ 当てはめ:X₂要件③・④・⑤(売掛債権5000万円の不回収=A社の会社財産が失われた結果として生じた間接損害→429条1項の「損害」に含まれる(要件③)。
Y₁の放漫経営→A社の財産状況悪化→X₂社が売掛債権を回収できなくなるという損害を被った=因果関係あり(要件④)。
Y₁は、会社財産が毀損される状況を認識しつつ経営判断→任務懈怠について悪意(要件⑤)。)
(4) 小結論(Y₁はX₁・X₂に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負う。)
4 Y₂の責任について
(1) 当てはめ:Y₂要件①(Y₂=A社取締役=「役員等」(要件①)。X₁・X₂=「第三者」)
(2) 当てはめ:Y₂要件②(A社=取締役会設置会社→取締役Y₂は、他の取締役の業務執行を監視する義務を負う(362条2項2号)。
→Y₂=財務部門担当、Y₁が無理な受注をしていることを知りつつ、Y₁の経営方針変更や他の取締役と連携するなどの是正措置を起こさなかった。→Y₁不適正な業務執行を放置したY₂の不作為は、監視義務違反(要件②)。)
(3) 当てはめ:Y₂要件③・④(X₁・X₂の「損害」は、3(2)イ・(3)イで検討した通り。Y₂が監視義務履行→Y₁の不適切な業務執行停止により、A社財産状況の悪化を止められた可能性高。→X₁が実質的に履行不能な契約を締結させられること、X₂が売掛債権を回収できた可能性もあり。
→Y₂の任務懈怠と、X₁・X₂両名の損害との間には、因果関係あり(要件④)。)
(4) 当てはめ:Y₂要件⑤(Y₂は、Y₁の無理な受注を知りながら放置していた→監視義務違反について悪意(要件⑤)。)
(5) 小結論(Y₂もX₁・X₂に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負う。)
5 結論
【参考答案】
1(1) X₁およびX₂は、A社取締役Y₁およびY₂に対し、会社法(以下法令名省略)429条1項に基づく損害賠償を請求している。
(2) その要件は、①「役員等」、② 会社に対する任務懈怠、③ 「第三者」への損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②について悪意・重過失である。
2(1) 要件②の任務懈怠とは、善管注意義務(330条・民法644条)・忠実義務違反、および具体的法令違反(355条)をいう。
(2) また、429条1項における責任の性質は、第三者保護の観点から法が定めた特別の法定責任だと解される。そのため、損害には直接損害と間接損害の双方を含み、「悪意又は重大な過失」は任務懈怠について存すれば足りる。
3 Y₁の責任について
(1) Y₁はA社代表取締役であるから「役員等」(要件①)に当たる。また、X₁は顧客であり、X₂は取引先であるから、「第三者」に当たる。
(2)ア A社は、業績悪化に加え、新規顧客の前受金を既存顧客の建築費に充てる、いわゆる自転車操業状態にあった。このような、経営破綻に瀕している状況において、取締役は、いたずらに債権者の損害を拡大させないよう、会社の再建可能性や清算処理を検討すべき善管注意義務を負う。
にもかかわらず、Y₁は、そのような検討をすることなく、むしろ、採算割れの安価な注文であっても受けるように指示している。これは、実質的に履行不能な契約を締結し、X₁のような新規顧客を犠牲にする行為であるから、会社に対する任務懈怠に当たる(要件②)。
イ X₁が被った損害である前受金500万円の不返還は、Y₁の行為によってX₁が直接被った直接損害に当たる(要件③)。そして、Y₁の上記任務懈怠行為によって、X₁は前受金500万円が返還されないという損害を被っていることから、両者には因果関係が認められる(要件④)。
ウ また、Y₁は、A社の赤字が拡大する状況を認識しつつ、実質的に履行不能な契約を締結する旨の指示をしていることから、任務懈怠について悪意が認められる(要件⑤)。
(3)ア Y₁の赤字を厭わない積極的な経営判断が任務懈怠にあたるか、経営判断の原則が問題となる。
この点、不確実な状況下で将来予測を伴う専門的な経営上の判断によって結果として会社に損害を与えたことのみによって任務懈怠責任を問うことは、取締役の経営判断を過度に萎縮させ、会社ひいては株主の利益を害するおそれがある。
そこで、取締役の経営判断に関する善管注意義務違反の有無は、判断当時において入手可能な情報に照らし、一般的に期待される水準において、判断の過程および内容に著しく不合理な点がなかったか否かによって決すべきである。
本件でY₁は、住宅需要の減少と資材高騰を認識し、注文が増えれば赤字が拡大する状況にあることを知りながら、採算割れの安価な注文を拡大させている。このような判断は、会社の再建に何ら資するものではなく、破綻を先延ばしにして会社財産を毀損させるだけの判断であるから、その判断内容は著しく不合理といえる。
したがって、Y₁によるこの経営判断は、裁量を逸脱した任務懈怠に当たる(要件②)。
イ X₂社が被った売掛債権5000万円の不回収という損害は、A社の会社財産が失われた結果として生じた間接損害であり、429条1項の「損害」に含まれる(要件③)。
そして、Y₁の任務懈怠に当たる放漫経営によって、A社の財産状況が悪化し、X₂社が売掛債権を回収できなくなるという損害を被ったのであるから、因果関係も認められる(要件④)。
また、Y₁は、会社財産が毀損される状況を認識しつつ経営判断を行っているから、任務懈怠について悪意が認められる(要件⑤)。
(4) 以上から、Y₁はX₁およびX₂社に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
4 Y₂の責任について
(1) Y₂はA社取締役であるから「役員等」(要件①)に当たり、X₁・X₂社が「第三者」に当たる点はY₁と同様である。
(2) A社は取締役会設置会社であるから、取締役であるY₂は、他の取締役の業務執行を監視する義務を負う(362条2項2号)。
Y₂は、財務部門担当であり、Y₁が無理な受注をしていることを知りながら、取締役会においてY₁の経営方針の変更を迫ったり、他の取締役と連携するなどの是正措置を全く起こさなかった。Y₁の行為は、会社の財産状況を著しく悪化させる不適正な業務執行であるから、これを放置したY₂の不作為は、監視義務違反として任務懈怠に当たる(要件②)。
(3) X₁およびX₂が損害を被ったことは、3(2)イ・(3)イで検討した通りである。そして、Y₂が適切に監視義務を果たし、Y₁の無理な受注という継続的な方針を是正していれば、A社の財産状況の悪化が食い止められた可能性が高い。そうなれば、X₁が実質的に履行不能な契約を締結させられることも、X₂が売掛債権を回収できた可能性も認められる。
したがって、Y₂の任務懈怠と、X₁・X₂両名の損害との間には、因果関係(要件④)が認められる。
(4) また、Y₂は、Y₁の無理な受注を知りながら放置していたことから、監視義務違反について悪意が認められる(要件⑤)。
(5) 以上から、Y₂もX₁およびX₂に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
5 よって、Y₁およびY₂は、X₁に対し500万円、X₂に対し5000万円の損害賠償責任を負う。これらの責任は連帯責任となるから(430条)、X₁およびX₂の請求は認められる。
以上

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