目次
【答案構成】
第1 Xによる代表訴訟の提起の適法性について
1 株主代表訴訟における提訴請求手続(株主が監査役設置会社に株主代表訴訟を提起し、取締役の責任追及する場合、監査役Cに対して提訴請求しなければならない。)
→問題提起(株主Xは、提訴請求書面を代表取締役Bに送付しているため、適法な提訴請求がなされたとはいえず、訴訟要件を充足しないのではないか。)
+前提(提訴請求できる株主は6か月前から引き続き株式を有する株主→本問では、この点を問題点としていないためXは充足しているはず。)
2 規範定立(提訴請求の相手方)
3 当てはめ(代表取締役Bが、監査役Cが出席する取締役会において、Xの提訴請求書面を読み上げた。→監査役Cは提訴請求の内容を正確に認識し、訴訟を提起するか否かを自ら判断する機会を実質的に有していた。→Xによる提訴請求は適法。)
+その他の要件(XはA社による不提訴通知を受け、提訴請求から60日経過後に本件訴訟を提起。)
小結論(Xによる代表訴訟の提起は適法。)
第2 Xの請求の当否について
1(1) 問題提起1(Xが追及するA社への残代金支払請求権=取引債務。→取引債務が847条1項の「責任」に含まれるか。)
(2) 規範定立(847条1項の「責任」の範囲)
(3) 当てはめ・小結論(YのA社に対する残代金支払債務も847条1項の「責任」に含まれ、株主代表訴訟の対象となる。)
2(1) 問題提起2(Xによる代表訴訟提起後、A社はYに対する残代金支払請求権等をDに譲渡。→この譲渡が有効であれば、A社は被代位権利を失い、Xの訴えは訴えの利益を欠き不適法却下。→本件請求権譲渡の効力が問題となる。)
(2) 規範定立(代表訴訟の対象たる請求権の譲渡有効性)
(3) 当てはめ(代表訴訟が提起された後にDへの請求権譲渡がなされており、責任追及回避目的が推認。
⇔譲渡代金がYの現在の資力を考慮した上で決定されたものであるとして、「特段の事情」があるとの反論。→本件譲渡は、4億円の残代金請求権に対し、譲渡代金がわずか800万円と著しく低廉+Dが1000万円を超える部分を放棄する旨の約定あり。→経済的合理性を著しく欠く。Yの自己破産を回避したいというA社の経営判断も株主代表訴訟制度や責任免除制度の趣旨を没却する方法での達成は不適。
→したがって、「特段の事情」があるとは認められない=本件請求権譲渡は責任追及回避目的でなされたものとして無効。)
3 結論
【参考答案】
第1 Xによる代表訴訟の提起の適法性について
1 株主が株主代表訴訟(会社法(以下法令名省略)847条1項)を提起するには、原則として、まず会社に対して責任追及等の訴えを提起するよう請求しなければならない(847条1項本文)。A社は監査役設置会社であるため、取締役Yに対する責任追及等の訴えに係る提訴請求は、監査役Cに対してすべきである(386条2項1号)。
しかし、本問の株主Xは、提訴請求書面を代表取締役Bに送付しているため、適法な提訴請求がなされたとはいえず、訴訟要件を充足しないのではないか問題となる。
なお、提訴請求できる株主は6か月前から引き続き株式を有する株主(847条1項本文)であることが前提であるが、本問ではこの点は満たしているものと解される。
2 提訴請求の制度趣旨は、会社(監査役設置会社においては実質的に監査役)に訴えを提起するか否かの判断の機会を与える点にある。
そうであれば、名宛人が代表取締役であっても、監査役が提訴請求の内容を正確に認識し、訴えを提起するか否かを自ら判断する機会を実質的に与えられていたと認められる特段の事情がある場合には、適法な提訴請求があったものと同視できると解する。
3 本件では、代表取締役Bが、監査役Cが出席する取締役会において、Xの提訴請求書面を読み上げている。これにより、監査役Cは提訴請求の内容を正確に認識し、Yに対する訴訟を提起するか否かを自ら判断する機会を実質的に有していたといえる。
したがって、Xによる提訴請求は適法なものと認められる。
そして、XはA社による不提訴通知を受け、提訴請求から60日経過後に本件訴訟を提起している(847条3項)。
以上より、Xによる代表訴訟の提起は適法である。
第2 Xの請求の当否について
1(1) XはYに対し、A社への残代金の支払またはこれに代わる損害賠償を請求している。そこで、Xが追及するA社への残代金支払請求権は、A社との土地売買契約に基づく取引債務である。かかる取引債務が847条1項の「責任」に含まれるかが問題となる。
(2) この点、会社が取締役の責任追及を懈怠するおそれは、取引債務についても任務懈怠責任と同様に生じ得るうえ、取締役は会社との取引によって負担した債務についても、会社に対し忠実にこれを履行すべき義務を負う(355条)と解される。
したがって、847条1項にいう「責任」には、取締役の地位に基づく任務懈怠責任のみならず、取締役が会社との取引によって負担することになった取引債務についての責任も含まれると解する。
(3) したがって、YのA社に対する残代金支払債務も847条1項の「責任」に含まれ、株主代表訴訟の対象となる。
2(1) 次に、Xによる代表訴訟提起後、A社はYに対する残代金支払請求権等をDに譲渡している。この譲渡が有効であれば、A社は被代位権利を失い、Xの訴えは訴えの利益を欠くものとして不適法却下されることになる。そこで、本件請求権譲渡の効力が問題となる。
(2) 会社が取締役に対する請求権を譲渡すること自体は禁止されていない一方、会社法は、取締役の任務懈怠責任の免除につき、総株主の同意(424条)を要するなど厳格な規制を置いている。これらを考慮すると、取締役に対する責任追及を回避する目的で取締役に対する損害賠償請求権の譲渡が行われた場合には、その譲渡は、法の趣旨を潜脱するものとして無効となると解すべきである。
そして、株主代表訴訟が提起され、または提訴請求があった場合において、会社が当該損害賠償請求権を譲渡した場合には、特段の事情のない限り、その譲渡は取締役に対する責任追及を回避する目的でされたものと推認されるというべきである。
(3) 本件では、代表訴訟が提起された後にDへの請求権譲渡がなされており、責任追及回避目的が推認される。
これに対し、譲渡代金がYの現在の資力を考慮した上で決定されたものであるとして、「特段の事情」があるとの反論が考えられる。しかし、本件譲渡は、4億円の残代金請求権に対し、譲渡代金がわずか800万円と著しく低廉であり、かつ、譲渡先Dが1000万円を超える部分を放棄する旨の約定まで付されている。これは経済的合理性を著しく欠く。Yの自己破産を回避したいというA社の経営判断があったとしても、それは株主代表訴訟制度や責任免除制度の趣旨を没却するような方法で達成されてはならない。
したがって、「特段の事情」があるとは認められないから、本件請求権譲渡は責任追及回避目的でなされたものとして無効である。
3 よって、Yの残代金支払債務は代表訴訟の対象となる「責任」に含まれ、A社による請求権譲渡は無効であるから、請求権は依然としてA社に帰属しており、XのYに対してA社への残代金の支払を求める請求は認められる。
以上

コメント