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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題38 取締役の報酬規制

目次

【答案構成】

第1 小問(1)について

1 Yの請求権とX社の反論の提示(Yは、X社に対し、2020年10月1日以降の報酬支払請求を求める。
 X社は2020年9月29日臨時株主総会でYの報酬を同年10月1日以降無報酬とする旨有効決議→Yに対する報酬支払義務はないと反論。)
 問題提起(承認済の取締役報酬を、無報酬とする決議が有効か)

2 規範定立(報酬の減額・無報酬化の可否)

3 当てはめ(Yの2020年度分の報酬額は株主総会において承認済=XY間の契約内容となっている。
 →X社はYの同意を得ることなく、一方的に無報酬とする旨の決議→この2020年9月29日臨時株主総会決議はYを拘束しない=Yは当初定められた報酬の請求権を失わない。)

4 結論

第2 小問(2)について

1 問題提起(株主総会決議を経ずに支払われた本件金員について、X社はYに対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることができるか。)

 2(1) 規範定立(報酬請求権の発生時期)

  (2) 当てはめ(本件金員の支給につき、定款の定めおよび株主総会決議を欠く→Yに退職慰労金請求権は認められない。=本件送金は「法律上の原因」を欠くもの→原則、X社はY社に対し、不当利得として本件金員の返還請求可能。

 3(1) 問題提起(X社では退職慰労金を通常は事前の株主総会決議を経ることなく支給してきた→Yに対する不当利得返還請求をすることは、信義則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(民法1条3項)として許されないのではないか。)

  (2) 規範定立(報酬の返還請求と信義則・権利濫用)

  (3) 当てはめ(設立以来10年以上にわたり、株主総会決議を経ず、本件内規に従い退職慰労金支払を行ってきた(①)。+Yの催告→X社は速やかに本件金員を送金。返還請求は送金から1年3か月経過後(②)。+YA間で経営方針を巡る対立以外に、Yの功績を否定し、退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由はない(③)。
 →Yが本件金員を正当に受領したものと信頼するのは当然、かつ信頼は法的保護に値する。
 →既払いの退職慰労金の不当利得返還請求をすることは信義則に反し、権利濫用として許されない。)

4 結論

第3 小問(3)について

1 問題提起(退職慰労金不支給決議があった場合、YはX社に対して何らかの請求をなし得るか。)

2 前提問題:退職慰労金の支払請求権が認められるか。(株主総会の支給決議があって初めて発生=不支給決定が存在する以上認められない)

 3(1) 考えられる請求(YはX社に対し、不支給決議がYに対する不法行為(民法709条)を構成するとして、退職慰労金相当額の損害賠償請求)

  (2) 規範定立(多数決の濫用による不法行為の成否)

  (3) 当てはめ(X社には、長年にわたり本件内規に従って退職慰労金を支給するという確立した慣行が存在(①)。+AはX社の議決権の99%を保有する支配株主であり、Yとの個人的対立を理由に、その支配的地位を利用して不支給決議を主導したと考えられ(③)、Yに退職慰労金を不支給とする合理的な理由は認められない。
 →本件で不法行為が成立するかは、AがYに対し、退職慰労金が支給されるという具体的な期待を抱かせるような言動をしていたか(②)による。)

4 結論

 

【参考答案】

第1 小問(1)について

1 Yは、X社に対し、2020年10月1日以降の報酬支払請求をすることができるか。
 これに対し、X社は2020年9月29日の臨時株主総会において、Yの報酬を同年10月1日以降無報酬とする旨が有効に決議された以上、Yに対する報酬支払義務はないと反論することが考えられる。
 そこで、株主総会で一度承認された取締役の報酬を、会計年度の途中で当該取締役の同意なく無報酬とする決議が有効かが問題となる。

2 会社と取締役との法律関係は委任契約(会社法(以下法令名省略)330条)であり、取締役の報酬は、定款または株主総会の決議によって定められる(361条1項)。そして、一度株主総会の決議によって具体的な報酬額が定められた場合、その報酬額は会社と取締役との間の契約の内容となり、両当事者を拘束する。
 したがって、事後的に株主総会が報酬を減額または無報酬とする決議をしたとしても、契約の一方当事者が、相手方の同意なく契約内容を一方的に変更しようとするものに他ならず、かかる決議は、当該取締役が決議に同意しない限り、その取締役を法的に拘束するものではない。

3 本件では、Yの2020年度分の報酬額はすでに株主総会において承認されており、XY間の契約内容となっていた。
 にもかかわらず、X社はYの同意を得ることなく、一方的に無報酬とする旨の決議をしている。したがって、2020年9月29日臨時株主総会決議はYを拘束せず、Yは依然として当初定められた報酬の請求権を失わない。

4 よって、Yは、X社に対し、2020年10月1日以降の報酬支払請求をすることができる。

第2 小問(2)について

1 株主総会決議を経ずに支払われた本件金員たる退職慰労金について、X社はYに対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることができるか。

 2(1) 退職慰労金も取締役在職中の職務執行の対価であり、「報酬等」(361条1項)に当たる。したがって、取締役の報酬に関するお手盛り防止の観点から、定款の定めまたは株主総会決議がなければ、取締役は会社に対して具体的な請求権は認められないと解される。

  (2) 本件では、本件金員の支給につき、定款の定めおよび株主総会決議を欠くため、Yに退職慰労金請求権は認められない。したがって、本件送金は「法律上の原因」を欠くものであり、原則として、X社はY社に対し、不当利得として本件金員の返還を請求することができる。

 3(1) もっとも、X社では退職慰労金を通常は事前の株主総会決議を経ることなく支給してきたことから、Yに対する不当利得返還請求をすることは、信義則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(民法1条3項)として許されないのではないか。

  (2) この点、会社からの退職慰労金の返還請求が権利濫用にあたるか否かについては、① これまでの支給に関する会社の慣行、② 会社が返還を求めるに至った経緯、③ 不支給とすべき合理的な理由の有無といった事情を総合考慮して判断すべきである。

  (3) X社では、設立以来10年以上にわたり、株主総会決議を経ずに本件内規に従って退職慰労金を支払うという長年の慣行があった(①)。 また、Yが催告するとX社は速やかに本件金員を送金しており、その返還を求めたのは送金から1年3か月も経過した後だった(②)。 加えて、YとAの経営方針を巡る対立以外に、Yの功績を否定し、退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由があったとはいえない(③)。
 これらの事情を総合すると、Yが本件金員を正当に受領したものと信頼するのは当然であり、その信頼は法的に保護されるべきだといえる。
 したがって、X社が既に支払われた退職慰労金の不当利得返還請求をすることは信義則に反し、権利濫用として許されない。

4 よって、X社のYに対する不当利得返還請求は権利の濫用として許されず、Yは本件金員の返還に応じる必要はない。

第3 小問(3)について

1 株主総会で退職慰労金不支給決議がなされた場合、YはX社に対して何らかの請求をなし得るか。

2 まず、YがX社に対して退職慰労金を請求することは、不支給決議が存在する以上、認められない。具体的な請求権は株主総会の支給決議があって初めて発生するためである。

 3(1) そこで、YはX社に対し、不支給決議がYに対する不法行為(民法709条)を構成するとして、退職慰労金相当額の損害賠償請求をすることが考えられる。

  (2) 株主総会決議は、会社の最高意思決定として尊重されるべきであるが、その決議が、会社の正当な利益の実現を目的とするものではなく、もっぱら特定の取締役を害するなどの不当な目的でなされ、多数決原理を濫用したものと認められる特段の事情がある場合には、例外的に違法性を帯び、当該取締役に対する不法行為を構成する。
 具体的には、 ①内規や確立した慣行が存在し、②①基づき、会社の意思決定を事実上支配する支配株主が具体的期待を抱かせるような言動をしていたにもかかわらず、③故意または過失によって、合理的な理由なく、その支配的地位を利用して期待と反する決議を主導した場合には、会社は法的に保護された利益を違法に侵害したものとして、不法行為責任を負うと解する。

  (3) X社には、長年にわたり本件内規に従って退職慰労金を支給するという確立した慣行が存在している(①)。また、AはX社の議決権の99%を保有する支配株主であり、Yとの個人的な対立を理由に、その支配的地位を利用して不支給決議を主導したと考えられる(③)。そして、Yに退職慰労金を不支給とする合理的な理由があったとは認められない。
 したがって、本件で不法行為が成立するかは、AがYに対し、退職慰労金が支給されるという具体的な期待を抱かせるような言動をしていたか(②)による。

4 よって、AがYの取締役就任時に本件内規を示して支給を約束していたなどの特別な事情が認められれば、X社の不支給決議はYに対する不法行為を構成し、YはX社に対し、退職慰労金相当額の損害賠償を請求することができる。

以上

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