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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題42 内部統制構築義務

目次

【答案構成】

 1(1) 請求権の特定(A社代表取締役Yの内部統制構築義務違反により会社に損害が生じたと主張し、株主代表訴訟により、Yに対し任務懈怠責任を追及)

(2) 423条の要件(①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失))
 問題提起(内部統制システムの構築・運用に関し、①「役員等」である取締役Yに任務懈怠が認められるか。)

 2 規範定立(内部統制システムの構築・運用と善管注意義務違反)

 3(1) 当てはめ1:内部統制構築義務(A社では、業務のプロセス毎に業務分担+財務部・監査法人による売掛金残高確認の手続きが採られていた。→不正防止のための内部統制システムは構築されている。
 →財務部がB事業部の提出する明細によって入金処理を行い、売掛金債権と入金の直接の照合を行っていなかった点は、内部統制上の問題点あり。⇔財務部・監査法人が行う売掛金残高確認書の送付・回収という社外の販売会社を通じたチェック機能により、補完を予定。→本件不正は、B事業部長らが社外のチェック機能の中核である売掛金残高確認書自体を積極的に偽造・回収するという、極めて巧妙かつ通常想定し難い手口で行われていた。
 →A社の内部統制システムが、構築された時点において著しく不合理であったとまでは評価できない=Yに構築義務違反は認められない)

(2) 当てはめ2:内部統制運用義務(Yが、B事業部による不正につき悪意であった、あるいは容易に認識可能であったのに放置したという事情は認められない。
 ⇔B事業部長らが残高確認書を偽造し対応していたことからすれば、Yの立場において、内部統制システムは外形上問題なく機能しているように見えていたはず。
 →Yは、各部門や監査法人が適切に職務を行っていると信頼することが許される。=Yに運用義務違反も認められない。)

(3) 小結論(Yには内部統制構築義務違反・運用義務違反はない=②任務懈怠は認められない。)

 4 結論

 

【参考答案】

 1(1) 株主Xは、A社代表取締役Yが、内部統制システム構築義務に違反し、それにより会社に損害が生じたと主張して、株主代表訴訟(会社法(以下法令名省略)847条)により、Yに対し任務懈怠責任(423条1項)を追及するものと考えられる。

(2) その要件は、①「役員等」(423条1項)、② 会社に対する任務懈怠、③ 損害、④ ②と③との間の因果関係、⑤ ②についての帰責事由の存在(故意・過失)である。
 そこで、内部統制システムの構築・運用に関し、①「役員等」である取締役Yに任務懈怠が認められるか。

 2 任務懈怠とは、善管注意義務(330条・民法644条)・忠実義務違反、および具体的法令違反(355条)をいう。
 そして、取締役は、会社に対し、善管注意義務及び忠実義務の一内容として、会社が営む事業の規模や特性等に応じた内部統制システムを構築し、これを適切に運用する義務を負う(体制整備義務・運用義務)。
 そして、内部統制システムが構築され、外形上機能している場合には、他の役職員がその報告のとおりに職務を遂行しているものと信頼することが許される。そのため、システムが機能不全に陥っていることをうかがわせるような、あえて疑念を差しはさむべき事情があるにもかかわらず、これを調査・是正することなく放置したなどの特段の事情がない限り、取締役の運用義務違反は認められない。

 3(1) A社では、受注、検収、売上処理の各プロセスにおける業務分担が行われており、不正防止のチェック体制として、財務部・監査法人による売掛金残高確認の手続きが定められていた。このことから、Yは内部統制システムを全く構築していなかったとはいえない。
 確かに、財務部がB事業部の提出する明細によって入金処理を行い、売掛金債権と入金の直接の照合を行っていなかった点は、内部統制上の問題であったといえる。しかし、財務部や監査法人が行う売掛金残高確認書の送付・回収という社外の販売会社を通じたチェック機能により、補完することを予定していたと考えられる。本件の不正は、B事業部長らがそのチェック機能の中核である売掛金残高確認書自体を積極的に偽造・回収するという、極めて巧妙かつ通常想定し難い手口で行われていた。
 そうだとすれば、財務部による直接照合を欠いていたとしても、社外のチェックを組み込んでいたA社のシステムが、構築された時点において著しく不合理であったとまでは評価できず、Yに構築義務違反は認められない。

(2) Yが、B事業部による不正の存在をうかがわせる特段の事情を認識していた、あるいは容易に認識できたにもかかわらず、それを放置したという事情は認められない。
 むしろ、B事業部長らは、監査法人や財務部からの残高確認書を偽造し対応していたことからすれば、Yの立場において、内部統制システムは外形上問題なく機能しているように見えていたはずである。
 そうすると、Yは、各部門や監査法人が適切に職務を行っていると信頼することが許される。したがって、Yに運用義務違反も認められない。

(3) 以上より、Yには内部統制システム構築義務違反および運用義務違反も認められず、②任務懈怠は認められない。

 4 よって、XのYに対する請求は、任務懈怠の要件を欠くため、認められない。

以上

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