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参考答案 Law Practice 商法〔第5版〕 問題31 株式会社の機関設計と権限分配

目次

 

【参考答案】

第1 問1について

1 甲社は、公開会社(会社法(以下、法令名省略)2条5号)であり、資本金50億円の大会社(2条6号)かつ監査役会設置会社(328条1項)である。したがって、甲社は取締役会設置会社である(327条1項1号、2号)。そして、取締役会設置会社において、取締役会は「重要な財産の処分及び譲受け」(362条4項1号)、その他「重要な業務執行の決定」(同条4項柱書)を個々の取締役に委任することはできないと規定する。 
 しかるに、本件アジェンダは30億円を超えない取引の決定権限を代表取締役Aに委任するものであるところ、かかる委任が取締役会の権限を定めた362条4項に違反しないか、同規定を定款で変更することの可否が問題となる。

 2(1) 362条4項の趣旨は、会社の業務や財産に重大な影響を及ぼす事項について、取締役相互の協議による意思決定を経ることで、業務執行に対する牽制を働かせ、会社ひいては株主の利益を保護する点にある。
 したがって、本規定は強行法規であり、定款で別段の定めを設けたとしても、本規定に反する定款規定は無効となると解すべきである。

  (2) また、上記362条4項の趣旨に鑑み、「重要な財産の処分及び譲受け」(362条4項1号)にいう「重要」であるか否かは、当該会社との関係で相対的に決せられる。
 具体的には、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様、従来の取扱いなどの事情を総合的に考慮して判断すべきである。

3 本件アジェンダが対象とする「30億円を超えない取引」というのは、最大で甲社資本金50億円の6割にも達する規模であり、その取引は甲社の財産状態にきわめて重大な影響を与えるものだといえる。
 確かに、甲社が置かれている競争環境の中で、海外メーカーとの事業提携等を迅速果断に行うという目的自体には、経営上の合理性がある。しかし、甲社の資本金に比して大規模な取引の決定権限を、取締役会での協議を経ることなく、個別の代表取締役に委任することは、取締役相互の牽制を働かせるという同条項の趣旨に著しく反する。
 したがって、本件アジェンダの対象取引には「重要な財産の処分及び譲受け」(362条4項1号)に該当するものが含まれており、その決定権限の代表取締役への委任は許されないと解される。

4 以上より、本件アジェンダを甲社定款に規定することは、強行法規である会社法362条4項1号に違反するため、認められない。

第2 問2について

1 問1の通り、甲社の現状の機関設計では、本件アジェンダは、会社法362条4項1号に違反し認められないことになる。
 そこで、甲社が本件アジェンダを効率的に実行するためには、同項の適用を受けない機関設計に変更する必要がある。具体的には、①指名委員会等設置会社(415条以下)または②監査等委員会設置会社(399条の2以下)への移行が考えられるが、どちらを勧めるべきか。

2 ①として、甲社が指名委員会等設置会社に移行した場合を検討する。
 指名委員会等設置会社に移行し、Aを執行役に選任すれば、416条4項に基づき、本件アジェンダの目的を達成することが可能となる。
 ただし、この形態は、指名・報酬・監査の三委員会を設置し、各委員会の過半数を社外取締役とする必要がある(400条3項)等、経営と監督の体制を根本的に分離する必要がある。これは、現在の甲社の体制からは大きな変革となり、そのコストや経営体制の連続性が失われるデメリットも考えられるため、積極的に勧めるべきでないと考える。

3 ②として、甲社が監査等委員会設置会社に移行した場合を検討する。
 監査等委員会設置会社において取締役会は、原則として「重要な財産の処分及び譲受け」を含む重要な業務執行の決定を取締役に委任することはできない(399条の13第4項1号)。しかし、例外として、(i)取締役会の過半数が社外取締役である場合(同条5項)、または(ii)定款でその旨を定めた場合(同条6項)には、かかる委任が認められる。
 具体的には、(i)の方法を採る場合、現任の社外取締役Cに加え、社外監査役E、Fを監査等委員である社外取締役に選任することが考えられる。これにより、取締役会がA、B、C、E、Fの5名で構成され、その過半数が社外取締役となり、取締役会決議によって本件アジェンダの委任が可能となる。
 また、(ii)の方法を採る場合、監査等委員会設置会社へ移行するための定款変更と同時に、その定款において「取締役会の決議によって、30億円を超えない取引の決定を代表取締役に委任することができる」旨を定めることになる。
 これらのことからすると、監査等委員会設置会社に移行する場合、指名委員会等設置会社の場合と異なり、現在の監査役会設置会社と同様に代表取締役が業務執行を行う体制であり、甲社にとって経営体制の連続性を保ちやすいと解される。

4 以上より、甲社に対しては、監査等委員会設置会社へ移行し、その際に399条の13第6項に基づいて、重要な業務執行の決定の委任に関する旨を定款に定める方法を勧めるのが、本件アジェンダを効率的に実行するために最も適切だと考える。

以上

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