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【参考答案】
1(1) X社は、本件決議の効力を争うため、Y社に対し、株主総会決議取消しの訴え(会社法(以下法令名省略)831条1項)を提起することが考えられる。
(2) 訴訟要件につき、X社はY社の「株主」であるから、原告適格を有する(831条1項柱書)。また、Y社は被告適格を有する(834条17号)。そして、本件総会は2023年6月に開催されており、現在時は明らかでないものの、訴えは決議の日から3箇月以内に適法に提起されたものとして、本案の取消事由について検討する。
(3) X社が本件取消訴訟において主張すべき取消事由は、①Y社による委任状勧誘が、委任状府令の定める手続に従っていないこと、及び②Y社が、X社の委任状勧誘によって集められた委任状(以下「X委任状」という。)を、本件会社提案の採決において、不当に出席議決権数から除外したことが、決議方法の法令違反(831条1項1号)であるという事である。
2(1) ①につき、まず、委任状府令の違反が、831条1項1号の「法令」違反に当たるかが問題となる。
(2) この点、委任状勧誘は決議の前段階の事実行為であり、決議方法そのものではないため、府令違反は「法令」違反に当たらないと解する見解がある。
一方、委任状勧誘規制は、株主に適正な情報を提供し公正な議決権行使を確保するという実質的意義を有しており、実質的に会社法の一部を成すものといえる。特に、議決権数1000人以上の会社が、書面投票の代替手段として株主全員に対して委任状勧誘を行う場合、府令の遵守は適法な決議の要件(会社則64条)となっている。
したがって、会社自身が行う委任状勧誘に関する府令規定は、議決権行使の公正を確保する重要なルールとして、831条1項1号の「法令」に該当すると解する。
(3) 本件でY社は、会社として委任状勧誘を行っているにもかかわらず、委任状府令所定の参考書類を交付しておらず、議案の賛否欄の記載も府令に依拠していない。
この点で、決議の方法が「法令」に当たる委任状府令に違反するといえ、取消事由に当たる。
(4) また、委任状府令の規制違反は、株主が十分な情報を得て、議決権を行使する機会を奪うものであり、軽微な手続違反とはいえない。すなわち、「違反する事実が重大でな」い(831条2項)とはいえず、裁量棄却は認められない。
3(1) Y社が、X委任状を本件会社提案の採決において出席議決権数に算入しなかった点が、決議方法の法令違反に当たるか。
この点、Y社は、X委任状には会社提案の賛否欄が設けられていないため、委任状府令43条に違反し、会社提案に関する代理権授与は無効だと主張する。
そこで、X委任状が会社提案との関係で無効になるかが問題となる。
(2) 確かに、委任状府令43条は、委任状用紙に議案ごとの賛否欄を設けるよう求めている。しかし、その趣旨は、代理行使にあたって株主の意思を明確に把握する点にある。
したがって、形式的に賛否欄が欠けていたとしても、その委任状の記載全体から、株主の意思が明確に表れていると合理的に推認できる特段の事情がある場合には、実質的に府令43条の趣旨には反しないため、代理権授与は有効であると解すべきである。
(3) 本件では、X社の株主提案(A₁~A₅選任)とY社の会社提案(B₁~B₅選任)は、同じ「取締役5名選任の件」という議題について、経営権の取得をめぐって提案されたもので、その内容は両立することのない内容かつ真っ向から対立している。
このような状況で、X委任状を使用し、株主提案に「賛成」の意思を示した株主は、同時にY社の会社提案には「反対」する意思を有していると、委任状の記載自体から合理的かつ明確に推認できる。そのため、本件には特段の事情が認められる。
したがって、X委任状は、形式的に会社提案への賛否欄が欠けていたとしても、実質的に委任状府令43条の趣旨には反しておらず、会社提案との関係で有効な代理権授与だと解される。
そうすると、Y社がX委任状を不当に出席議決権数から除外した行為は、決議の成立要件(309条1項)の計算方法を誤るものであり、「決議の方法が法令に違反する」として取消事由(831条1項1号)に当たる。
(4) この瑕疵は、株主の重要な権利である議決権の取扱いを誤るもので、極めて重大な違反だといえる。 また、X委任状を算入していれば、過半数に達しない可能性があったことからすると、決議の結果に影響を及ぼしていることも明らかである。
したがって、裁量棄却は認められない。
4 以上から、X社が主張する瑕疵①及び瑕疵②は、いずれも本件決議の取消事由に該当し、裁量棄却も認められない。
よって、X社による株主総会決議取消しの訴えは認められる。
以上

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