【参考答案】
第1 B事実による逮捕・勾留について
1 Xは、A事実について既に逮捕・勾留されているところ、B事実はA事実と常習傷害罪として実体法上一罪の関係にある。そこで、両事実が身柄拘束との関係でも同一の被疑事実に当たるとすれば、B事実について改めて逮捕・勾留することが一罪一逮捕一勾留の原則に反し、許されないのではないか。
2(1) 逮捕・勾留は被疑事実を単位として行われる。そして、実体法上一罪を構成する事実は相互に密接な関係にあるため、分割して逮捕・勾留することを認めると、法が厳格な身柄拘束期間制限を設けた趣旨を没却し、人権侵害に繋がる。
そこで、被疑事実は実体法上の罪数を基準として画し、同一の被疑事実については、原則として、1つの逮捕・勾留を1回のみ行うことができる(一罪一逮捕一勾留の原則)と解する。
もっとも、同原則は、実体法上一罪を構成する事実を一度の身柄拘束中に処理させることにより不当な身柄拘束の蒸し返しを防止する趣旨であるから、同時処理がおよそ不可能であった事実に関する身柄拘束は蒸し返しに当たらず、同原則を及ぼす必要はない。そして、同時処理可能性を現実的に判断すると、犯罪の発覚時期や捜査機関の捜査能力等によって結論が左右され、その基準が不明確となる。
そこで、捜査機関における当該事実の現実の認知や捜査状況を捨象して観念的に判断して、同時処理がおよそ不可能であった場合には、一罪一逮捕一勾留の原則は適用されないと解する。
(2) 本件では、A事実とB事実は、いずれも常習として行われた傷害行為であり、常習傷害罪として包括一罪の関係にあるから、実体法上一罪であり、同一の被疑事実に当たる。
また、B事実はA事実による逮捕前に既に行われている。確かに、B事実が発覚したのはXの保釈後であるため、捜査機関はA事実による身柄拘束中に現実にはB事実を処理することができなかった。しかし、A事実による身柄拘束時に既にB事実が存在していた以上、観念的には両事実の同時処理がおよそ不可能であったとはいえない。
したがって、A事実とB事実には一罪一逮捕一勾留の原則が適用され、B事実によって改めてXを逮捕・勾留することは、原則として許されない。
3(1) もっとも、再逮捕・再勾留については、一定の場合に例外的に許されると解されている。そして、再逮捕・再勾留禁止の原則と重複逮捕・重複勾留禁止の原則は、いずれも法定の身柄拘束期間を潜脱した不当な身柄拘束の蒸し返しを防止する趣旨において共通するから、重複逮捕・勾留についてのみ一切の例外を認めないのは相当でない。
そこで、逮捕・勾留の理由及び必要性という一般的要件を満たすことに加え、①事情変更により重複して身柄を拘束する必要性が生じたこと、②再度の身柄拘束の必要性とこれにより被疑者が被る不利益を比較衡量しても、なお重複した身柄拘束がやむを得ないこと、③先行する身柄拘束の際に当該事実を処理できなかったことについて捜査機関に帰責事由がなく、不当な身柄拘束の蒸し返しに当たらないことが認められる場合には、例外的に重複逮捕・勾留が許されると解する。
(2) 本件では、A事実についてXが逮捕・勾留され、起訴・保釈された後になってB事実が新たに発覚し、その後の捜査によって、XがB事実についても常習として傷害行為を行ったとの嫌疑が濃厚となっている。したがって、B事実の発覚及びこれに対する嫌疑の具体化は、B事実について改めて身柄拘束を検討すべき事情変更に当たり得る。
もっとも、B事実について罪証隠滅又は逃亡のおそれがあるなど逮捕・勾留の理由及び必要性が認められるか、また、再度の身柄拘束の必要性がXの被る不利益を上回るかは、設問から明らかではない。
また、B事実がA事実による身柄拘束時に発覚しなかったことについて、捜査機関の捜査懈怠等の帰責事由があるかも明らかではない。
したがって、これらの事情を踏まえ、逮捕・勾留の一般的要件に加えて上記①ないし③の要件が認められる場合には、B事実によるXの逮捕・勾留は例外的に許される。
第2 C事実による逮捕・勾留について
1 C事実もA事実に係る常習傷害罪と包括一罪の関係にあるから、A事実と実体法上一罪の関係にある。そこで、C事実について改めて逮捕・勾留することが一罪一逮捕一勾留の原則との関係で許されるか。
2 C事実に一罪一逮捕一勾留の原則が適用されるか否かは、第1-2(1)の基準に従い判断する。
3 本件では、C事実は、XがA事実について逮捕・勾留され、起訴された後、保釈中に新たに行われたものである。そのため、A事実による身柄拘束時にはC事実はいまだ存在していなかったのであるから、観念的に判断しても、A事実とC事実を同時に処理することはおよそ不可能であった。
したがって、A事実とC事実が実体法上一罪の関係にあっても、C事実について一罪一逮捕一勾留の原則は適用されず、身柄拘束との関係ではA事実とは別個の被疑事実として扱われる。
4 よって、C事実について逮捕・勾留の一般的要件を満たす限り、XをC事実により逮捕・勾留することができる。
以上
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