【参考答案】
第1 Bの身体捜索について
1 本件においてKは、A会東京本部事務所を捜索場所とする捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)に基づいて捜索を開始後、同事務所内から逃走したBを追跡して公道上で制止し、そのズボンの中を捜索している。
本件令状には、捜索「場所」として東京本部事務所と記載されているが、Bの「身体」は捜索対象として記載されていない。そこで、本件令状に基づいてBの身体を捜索することができるかが問題となる。
2 捜索差押えの対象は、「場所」「身体」「物」を特定して記載することが要求されていることから(憲法35条、刑事訴訟法(以下法令名省略)219条1項)、それぞれに対するプライバシーは別個に保護されている。
したがって、場所に対する捜索差押許可状の効力は、原則として人の身体には及ばない。
もっとも、捜索場所に居合わせた者が、捜索中又は捜索開始直前に、捜索・差押対象物を隠匿する等、捜索・差押えを直接妨害した疑いが十分に認められる場合には、その執行に必要な処分(222条1項、111条1項)として、妨害排除、原状回復するために合理的に必要かつ相当な措置を講ずることができると解する。
3 本件においてBは、捜索開始後、急にそわそわした態度で立ち上がり、パソコンから何かを取り外してズボンの右ポケットに入れ、事務所から逃げ出している。本件令状には差し押さえるべき物としてUSBメモリが明示されており、Bが捜索開始に対応するように、パソコンに接続されていた物を取り外して身体に隠し、そのまま事務所外へ持ち出していることからすると、Bが捜索場所に存在した差押目的物を隠匿して持ち出し、本件捜索・差押えを妨害した疑いが十分に認められる。
また、Kは、Bが逃げ出すのを目撃して直ちに追跡し、約100メートル先で追い付いているから、Bの追跡は妨害行為との時間的・場所的連続性を失っていない。そして、Bが差押目的物をズボンのポケットに隠していた以上、これを回収するには、Bを制止してズボンの中を捜索する必要があった。
したがって、KがBを背後から押さえつけ、ズボンの中を捜索した行為は、捜索・差押えに対する妨害を排除して原状回復するために合理的に必要かつ相当な措置である。
4 よって、KによるBの追跡、制止及び身体捜索は適法である。
第2 A会東京本部事務所内の物に対する捜索について
1 Lは、同事務所内にある帳簿類を捜索したほか、X代表が使用する机の引出しを開け、さらに、その中にあった「重要資料」と記載された大封筒の内部を捜索している。これらの物に、同事務所を捜索場所とする本件令状の効力が及ぶか。
2 捜索差押許可状には、捜索すべき場所、身体又は物を特定して記載することが要求されるため(憲法35条、219条1項)、場所に対する令状の効力が、当然に場所とは別個の管理・支配に属する物に及ぶものではない。
もっとも、捜索場所に存在する物は、通常、その場所の管理権者によって管理・利用され、その物に対するプライバシーも場所に対するプライバシーに包摂される。また、令状裁判官も、当該場所に証拠物が存在する蓋然性を審査するに当たり、そこにおいて管理・利用される物を含めて「正当な理由」の審査をしていると考えられる。
そこで、捜索場所の管理・支配に属する物は、原則として当該場所の概念に含まれ、場所に対する令状によって捜索することができると解する。
3 本件の帳簿類、机及び大封筒は、いずれも捜索場所であるA会東京本部事務所内に存在している。
確かに、机はA会の代表者であるXが使用しており、A会とXを別個の主体と捉える余地はある。
しかし、XはA会と無関係な第三者ではなく、その代表者であり、同事務所内において当該机を使用している。また、大封筒はその机の引出し内に保管され、「重要資料」と記載されていた。これらの事情からすれば、机及びその引出し並びに大封筒は、Xが純粋に私的な目的で排他的に管理していた物ではなく、A会の業務のために同事務所において管理・利用されていた物といえる。そのため、これらの物に対するプライバシーは、A会東京本部事務所に対するプライバシーに包摂される。
また、本件令状の差押目的物である帳簿、関係書類、USBメモリ及びDVD等は、机の引出しや大封筒の内部に収納することが可能であるから、これらを発見するためにその内部を捜索する必要性も認められる。
したがって、帳簿類、Xが使用する机の引出し及びその中の大封筒には、本件令状の効力が及び、Lによるこれらの捜索は適法である。
第3 帳簿類の差押えについて
1 令状に基づいて物を差し押さえるためには、その物が、①令状に記載された物件の類型に該当し、かつ、②被疑事実との関連性を有する証拠物(222条1項、99条1項)でなければならない。
2 本件令状は、「業として無限連鎖講加入を勧誘したことを明らかにするための帳簿、関係書類」等を差押目的物としている。
Lが発見した総勘定元帳等は「帳簿」に該当する。また、Lがその内容を確認したところ、無限連鎖講の防止に関する法律違反事件に関連する記載があった。そのため、同帳簿類は、令状に記載された物件の類型に該当するとともに、被疑事実との関連性も有する。
また、業として行われた無限連鎖講の活動実態を明らかにするために、その帳簿類を確保する必要性も認められる。
3 よって、Lによる帳簿類の差押えは適法である。
第4 USBメモリ3本及びDVD1枚の差押えについて
1 Lは、USBメモリ3本について、その内容を確認することなく差し押さえている。また、DVDについては、内容を確認しようとしたところデータが消去されたため、消去後の状態で差し押さえている。
そこで、電磁的記録媒体の内容を確認しないまま差し押さえることが、被疑事実関連性との関係で許されるかが問題となる。
2 この点、電磁的記録媒体についても、原則として、その記録内容を確認し、被疑事実との関連性を判断しなければならない。
もっとも、電磁的記録媒体の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められ、かつ、その情報が実際に記録されているかを捜索現場で確認していたのでは記録された情報が損壊される危険がある場合には、例外的に、その場で内容を確認することなく当該媒体を差し押さえることが許されると解する。
3(1) USBメモリ2本は、A会の代表者Xが使用する机の引出しの中にあり、「重要資料」と記載された大封筒に入れて保管されていた。本件は、A会が業として無限連鎖講への加入を勧誘したという組織的な活動に関する事件である。その代表者の机の中に「重要資料」として保管されていた電磁的記録媒体には、A会の組織、会員、勧誘活動等に関する情報が記録されている蓋然性が高い。
また、同じ封筒内にあったDVDは、捜査官が内容を確認しようとしたところ、「不正な操作を行ったので、データを消去します」と表示され、データが消去された。このことからすれば、同じ封筒に保管されていたUSBメモリにも同種の消去ソフトが組み込まれ、現場で内容を確認すると情報が損壊される危険があると考えられる。
したがって、USBメモリ2本については、被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性及び現場での内容確認による情報損壊の危険が認められる。
よって、その内容を現場で確認することなく差し押さえた行為は適法である。
(2) Bが持ち出したUSBメモリ1本は、捜索開始時に、BがA会東京本部事務所内のパソコンから取り外し、ズボンのポケットに隠して持ち出そうとしたものである。Bが捜索開始に際して殊更にこれを隠匿して逃走したことからすれば、このUSBメモリには、A会の活動又は本件被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が高い。
また、A会の代表者Xの机から発見されたDVDには消去ソフトが組み込まれており、その内容を確認しようとしただけでデータが消去されている。そうすると、Bが証拠隠滅を図って持ち出したUSBメモリについても、同種の消去措置が施されており、現場で内容を確認すると情報が損壊される危険があると考えられる。
したがって、Bが持ち出したUSBメモリについても、その内容を現場で確認することなく差し押さえた行為は適法である。
(3) データが消去されたDVDは、A会代表者Xの机の引出し内にある「重要資料」と記載された大封筒の中に保管されていた。また、内容を確認しようとした際にデータが自動的に消去されたこと自体、当該DVDに、捜査機関による確認を妨げようとする必要のある重要な情報が記録されていたことを推認させる。
そして、消去された電磁的記録であっても、専門的な技術によって復元できる可能性がある。そのため、データが一旦消去されたからといって、DVDの証拠物としての性質や差押えの必要性が直ちに失われるものではない。
また、本件DVDについては、被疑事実に関する情報が記録されていた蓋然性が認められる一方、データが既に消去されており、捜索現場でその内容を確認することは困難であった。
したがって、データ復元及び内容確認のためにDVDを差し押さえた行為は適法である。
4 なお、その後の内容確認により、USBメモリ2本及びDVDに被疑事実との関連性を有する情報が記録されていたことが判明している。他方、残りのUSBメモリ1本は未使用であり、関連性がないことが判明したため、これを速やかに還付している。後に未使用と判明したとしても、差押え時の客観的事情から関連情報が記録されている蓋然性が認められた以上、当初の差押えが遡って違法となるものではない。
よって、LによるUSBメモリ3本及びDVD1枚の差押えは、いずれも適法である。
第5 結論
以上より、本件捜査は適法である。
以上
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