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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題23 伝聞法則(1)

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【参考答案】

1 本件Wの証言は、320条1項の「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述」に形式的に該当する。そこで、裁判所の採るべき措置を決するにあたり、320条1項により排除される伝聞証拠に該当しないか、同条項の意義が問題となる。
 なお、弁護人は直ちに「伝聞であって排除されるべきである」と異議を述べているため、326条1項の同意によっては証拠とできない。

2 供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述を経て公判廷に顕出されるところ、これらの各過程には誤りが混入しやすい。それゆえ、反対尋問等により、そのような誤りがないかを吟味する必要がある。ところが、公判廷外供述を内容とする供述や書面は、そのような吟味をすることができない。そこで、誤判防止のためにそのような証拠を排除するのが320条1項の趣旨である。
 したがって、320条1項により証拠能力が否定される証拠とは、公判廷外供述を内容とする供述又は書面であって、その内容の真実性が問題となるものをいうと解する。そして、真実性が問題となるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられる。

 3(1) 検察官は、Wの証言の立証趣旨を「被害前のVの言動状況(発言の存在自体)」や「Vの嫌悪の情」と主張する。しかし、本件の争点はXの犯人性である。そこで、単にVがそのような発言をしたことや、Xを嫌っていたこと自体を立証しても、そこからXが犯人であることは推認できず、自然的関連性を欠く。
 本件証言が争点たる犯人性を推認させる間接事実として意味を持つためには、発言内容である「過去にXがVの後をつけたり、待ち伏せしたりしていた事実」そのものが証明されなければならない。したがって、真の要証事実は「XがVの後をつけたり等のストーカー行為をしていた事実」と解すべきである。

  (2)ア ここで、本件供述の前段には「Xは嫌いだ」という感情の吐露が含まれていることから、これが精神状態供述として非伝聞とならないか。
 精神状態供述は、その性質上、知覚・記憶の過程がなく、誤りが入り込むおそれが類型的に低い。そのため、精神状態供述については、320条1項が証拠能力を否定する趣旨が妥当しないといえる。また、供述の真摯性についても原供述がなされた情況、供述態度から推知可能であり、伝聞供述者の反対尋問によりその吟味が可能である。
 したがって、精神状態供述は伝聞証拠には当たらないと解する。

   イ 本件における「Xは嫌いだ」という発言は、それに続く「後をつけたり、待ち伏せしたり、いやらしいことばかりするから」という発言と不可分一体をなしている。  すなわち、前者の発言は単なる現在の感情の吐露にとどまるものではなく、後者の発言が示す「Xから後をつけられる等の被害を受けている」という過去の事実を理由とするものである。
 そうだとすれば、本件供述全体を証拠として用いることは、結局のところ、その背景にある「Xがストーカー行為をしていた」という過去の事実の真実性を問題にすることに他ならない。そして、過去の事実の叙述については、当然に原供述者Vの「知覚」および「記憶」の過程を経ており、ここに誤謬が介入するおそれは否定できない。
 したがって、Wの証言は、その内容の真実性を問題とするものとして、なお伝聞証拠(320条1項)に当たると解する。

 4(1) Wの証言は伝聞証拠に当たるところ、伝聞例外として証拠能力が認められないか。
 本件は公判期日外の他人の供述を内容とする証言であるため、324条2項により、321条1項3号が準用される。

  (2) 321条1項3号の要件は、①供述不能、②不可欠性、③絶対的特信情況である。

  (3) 本件では、原供述者Vは既に死亡しており、公判期日において供述することができないため、①供述不能に当たる。
 次に、本件の争点はXの犯人性であるが、被告人Xはこれを否認している。かかる状況下において、被害者Vによる「Xから後をつけられている」等の供述は、犯人の同一性や犯行の動機を推認させる極めて重要な間接事実である。そして、Vが死亡している以上、これに代わる証拠は乏しく、当該供述は犯罪事実の存否の証明に欠くことができないといえる(要件②充足)。
 また、Vは親しい友人であるWに対し、事件発生前に日常的な会話の流れで自発的に被害状況を打ち明けている。このような状況下での供述は、虚偽を述べる動機がなく、また公判廷での供述に比して類型的に虚偽が介入する余地が乏しい。したがって、供述が特に信用すべき情況の下にされたといえる(要件③充足)。

5 以上より、本件Wの証言は324条2項・321条1項3号の要件をすべて満たし、証拠能力が認められる。
 よって、裁判所は、弁護人の異議を棄却する決定(刑事訴訟規則205条の5)を採るべきである。

以上

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