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参考答案 事例演習 刑事訴訟法〔第3版〕 問題32 一事不再理効

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【参考答案】

1 Xに対し、前訴の単純窃盗罪の有罪判決が確定した後、前訴の犯行前後および第1審判決後にわたって行われた合計32件の窃盗行為について、後訴として常習特殊窃盗罪で公訴が提起された。
 そこで、前訴の確定判決による一事不再理効が後訴の事実に及び、裁判所は免訴判決(刑事訴訟法(以下法令名省略)337条1号)を言い渡すべきかが問題となる。具体的には、一事不再理効が及ぶ①時間的範囲、および②客観的範囲の限界が問題となる。

 2(1) 一事不再理効の根拠は、同一の犯罪事実について二重に実体審理を受ける危険にさらされることを禁止する点にある(憲法39条)。そうだとすれば、実体審理を受ける危険にさらされていた時点、すなわち事実審理が法律上可能であった最後の時点を基準とすべきである。具体的には、控訴審は事後審的性格を有し、第1審判決後に犯した事実を訴因変更により追加することは許されない以上、一事不再理効が及ぶ時間的範囲は第1審判決言渡し時までと解すべきである。

  (2) 本件において、検察官が起訴した後訴の事実のうち、前訴の窃盗の犯行前の10件、および犯行後起訴前の20件については、前訴の第1審判決言渡し前の事実であるから、一事不再理効の及ぶ時間的範囲に属する。
 他方、第1審判決後の2件の窃盗については、時間的範囲から外れるため、一事不再理効は及ばない。

 3(1) では、一事不再理効の及ぶ時間的範囲に属する30件につき、前訴確定判決の一事不再理効が及ぶか。

  (2) 二重の危険の禁止の観点から、一事不再理効の及ぶ客観的範囲は、被告人が訴因変更を通じて実体審理の危険にさらされていたといえる「公訴事実の同一性」(312条1項)が認められる範囲に及ぶと解される。
 そして、現行法は当事者主義的訴訟構造および訴因制度を採用しているため、公訴事実の単一性の有無は、基本的には各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより判断すべきである。
 もっとも、前訴と後訴のいずれか一方が単純罪で、他方が常習罪である場合には、両訴因の記載の比較のみからでも、両者が実体的に常習一罪ではないかと強くうかがわれる。したがって、このような場合には、訴因自体において実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき「契機」が存在するものとして、例外的に単純罪の事実が常習性の発露として行われたか否かについて付随的に心証形成をし、両訴因間の公訴事実の単一性の有無を判断すべきであると解する。

  (3) 本件では、前訴の訴因は単純窃盗罪であり、後訴の訴因は常習特殊窃盗罪である。
そうだとすれば、両訴因の記載の比較のみからでも、前訴の単純窃盗罪が後訴の常習特殊窃盗罪の一部として実体的に一罪を構成するのではないかと強くうかがわれるため、実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき契機が存在するといえる。  
 そして、被告人は前訴の犯行の前後という近接した期間において、合計32件もの窃盗を反復累行している。この事実からすれば、被告人には窃盗の習癖が認められ、前訴の単純窃盗もかかる習癖の発現、すなわち常習性の発露として行われたものと評価できる。
 したがって、上記30件は前訴の単純窃盗と実体的に常習特殊窃盗罪として包括一罪を構成し、公訴事実の単一性が認められるため、前訴の確定判決による一事不再理効が後訴の上記30件の事実にも及ぶ。

4 以上より、裁判所が採るべき措置は、後訴のうち、第1審判決言渡し前の30件については前訴の一事不再理効が及ぶため、免訴判決(337条1号)を言い渡すべきである。他方、第1審判決後の2件については一事不再理効が及ばないため、実体審理に入り、その審理の結果に従い有罪又は無罪の判決を言い渡すべきである。

以上

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