【参考答案】
1 XがVを道路脇に遺棄した時点において、Vの生死が明らかでないことから、保護責任者遺棄罪を本位的訴因、死体遺棄罪を予備的訴因として審理がなされている。
そこで、裁判所が「保護責任者遺棄又は死体遺棄」という異なる構成要件にまたがる明示的択一的認定をし、軽い死体遺棄罪の罰条で処断することは許されるか。
また、遺棄時点でVの生死が判然としないという前提で、端的に死体遺棄罪を認定することは許されるか。
このような認定が、刑事訴訟法(以下法令名省略)333条1項の「被告事件について犯罪の証明があった」といえるか、および335条1項の「罪となるべき事実」の判示として適法かが問題となる。
2(1) 異なる構成要件にまたがる明示的択一的認定につき、訴因については256条5項で択一的記載が許されている一方、「罪となるべき事実」(335条1項)についてはそのような規定がない。また、いずれの事実も合理的な疑いを超える証明に至っていないにもかかわらず有罪とすることは、利益原則(336条)に反する。さらに、刑罰権は個別特定の構成要件を充足することによって初めて発生するものであり、裁判所が実質的に法律に規定のない合成的な構成要件を創出して処罰することに等しく、証明対象の構成要件的個別化を要請する罪刑法定主義(憲法31条)に反することになる。
したがって、明示的択一的認定は許されないと解する。
(2) また、端的に被告人に有利な軽い罪のみを認定することも許されないと解する。
なぜなら、軽い罪の事実自体の存在が証明されていない以上、これを認定することは利益原則に反し、実質的には合成的構成要件による処罰に等しく、明示的択一的認定と同様に罪刑法定主義に抵触するからである。
3 保護責任者遺棄罪(刑法218条)の客体が「老年者、幼年者、身体障害者又は病者」という生存する人であるのに対し、死体遺棄罪(刑法190条)は、客体が死体であり、保護法益も異なるため、包摂・被包摂の関係にない別個の構成要件である。
そして、裁判所は、XがVを道路脇に遺棄した時点において、Vが生存していたのか、死亡していたのかが明らかでないとの心証を得ている。すなわち、保護責任者遺棄罪の構成要件事実および死体遺棄罪の構成要件事実のいずれも合理的な疑いを容れない程度の証明がなされていない状態にある。そうだとすれば、本件において裁判所が「保護責任者遺棄又は死体遺棄」との明示的択一的認定をすることは許されず、また、法定刑が軽いからといって、証明がなされていない死体遺棄の事実のみを認定して処断することも許されない。
4 以上より、裁判所は、「保護責任者遺棄又は死体遺棄」との択一的な事実を認定したうえで、Xを軽い死体遺棄罪の罰条で処断することはできず、いずれの事実についても犯罪の証明がないものとして、被告人Xに対し無罪(336条)を言い渡すべきである。
以上

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